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第四章

「起きろ!!」

耳元で甲高い声が共鳴するように鼓膜へ届いた。

何事かと思い身を勢い良く起こし上げる。

「あっ。起きた。おはようございます香瀬くん。」

起きたばかりの、まだ完全に開いてない目で辺りを確認するとベットの前では春木さんの姿がある。

「……。」

起きたばかりでたたでさえ働かない頭がこんがらがった。

なぜ?春木さんが?

てっきり優花かと思ってしまった。

「何してるんですか?早く着替えてください」

「……。えっと、一ついいかな?」

「はい?なんですか。」

「えっと……なんでここにいるんですか?」

「そりゃあ、香瀬くんを起こしにきたんですよ。大声で起こさないと起きないんですよ。困りましたよ。私にしては無理して叫んだんです。少しはずかしいかったんですよ。」

そういうと頬を赤らめる春木さん。

……。やばいくらい可愛く見えてしまった。

しかし……聞きたいのはそんなことじゃあない。

「えっと、なんでここに?」

「ダメですよ!一つしか聞かないでください。さっき一つって約束だったでしょう?」

指を突き立てにっこり笑う春木さん。

「えっと……」

こちらとしては単純に戸惑う。

「けど特別です。もう一つだけ質問に答えてあげましょう。なんです?」

完璧にやられた。

ツボを取られてしまった。並みの男性なら萌死んでいるだろう。

「えっと。何でここにいるんです?」

「なんですか。そんな話ですか。そりゃあ、朝から香瀬くんの家によってみたんですけど、インターホン鳴らしても出てこないんで勝手にあがらせてもらったんです。そしたら、香瀬くんが寝てたんで、しばらく寝顔を眺めていたんですよ。」

「……。」

いやいや、そりゃあ不法侵入ですよ!

いや……それは、まぁいい。顔を眺めてる?

一気にはずかしさで一杯になる。

「なんですぐに起こしてくれなかったんですか?」

「だって香瀬くんがあまりに、気持ち良く寝てたので起こすのもかわいそうでしたので、しばらく……。熟睡してたようですが疲れは取れましたか?」

いや……いや……。

気持ちはうれしいが、何か違うぞ。

なんかずれてる。

俺は春木さんと顔を合わせるのがはずかしくなったので視線をはずして時計を見た。

「ん……?あれ……って。学校は?」

今日は月曜。

時刻は正午。つまり昼。

「あらあら。遅刻ですね。」

のんびりとした口調で喋る春木さん。

「て!そんなことしている場合じゃあない!」

「そんなことってどんなことですか?」

「いや。そんないらん所だけ突っ込まないで!というか!春木さんは学校行かなくていいんですか?」

「え?別にいいですけど……。」

「そうですよね。だから、いそがないとって……あれ?」

「私は単位取れてますので。」

いや……まだ新学期始まったばかりなんですけど……どうやって単位取れるんですか?

「ということで、どこか行きましょう。」

「どこかって……どこへ?」

「私は国境を越えたいです。」

「いや……。」

無理だから。そんなこと俺の経済じゃあ無理です。

「じゃあ、行きましょうか。ムツゴロウ王国へ」

「ムツゴロウ王国!?」

それは国境はたして本当に別国なんですか?

つっこみたいが心の中で押し止める。

「じゃあ、早く着替えてくださいね。」

「えっ。あっ、はい。」

「……。」

「……。えっと、着替えれないですけど」

一向に部屋から出ていこうとしないので、声をかけた。

「なんでですか?」

「そりゃあね……。とにかく出てって下さい!」

俺が大声でそう言うと春木さんは、はいはい……と笑いながら言って部屋から出ていった。

あの人はわざとやっているのではないかと思いつつ、着替えを始めた。


「さて……実際どこいくんですか?ムツゴロウ王国とか無理ですからね。」

「そうですね。では、夢の街エデンへと………」

「いや、何の話ですか……?」

「冗談ですわ。まぁ、とにかく行きましょうか。私について来てください。」

そういうと俺の前に出て歩き始める。

「鬼ヶ島とか嫌ですからね。」

俺は文句をいいながら後を追う。

「あら?鬼ヶ島とかおかしなこと言いますね。香瀬くん面白いですね。」

「……。」

なんか、やられた気がした。

対して春木さんは上機嫌で前を歩いている。

俺は深くため息をついた。


「……。で、ここは何ですか?」

俺は目の前にある建物を眺めて呟いた。

白くて高い建物。

綺麗なガラスの窓にヨーロッパ風の建物。

「協会ですわ。」

「ですよね……。なんで、また?」

「そりゃあ、デートと言えば協会ですから」

「……。」

デートだったのか!?

てか、なんかニュアンスが違うというか……あれ?俺が間違えか?いやいや、デートといや遊園地とかデパートとかだよな。

きっと春木さんの家系の特殊な伝統とかが……。

「香瀬くん。入りましょう。」

色々と考えが浮かんだがしかたない。

俺は春木さんの後を追って協会に入った。



協会の中は外の光がそのまま入ってくるような仕組みなっていた。

俺にとっては生まれて初めて入る協会である。

まぁ、関心や興味は無いので感動も特に無い。

ただ以外と広くて綺麗だと言うことくらいだ。

すると……。

奥のドアが開いて一人の女性が出てくる。

よくアニメや漫画で目にする黒と白の服を着た格好の女性。

これが属に言うシスターと言うものだろう。

しかし、シスターの服を着た女性はまだ随分と若かった。

15歳を少し越えたくらいだろうか?

まぁ、俺とあまり変わらないくらいだろう。

「ようこそ。今日はどのような用件で……」

非常に落ち着きのある物腰でシスターはこちらを向いて説いてくる。

「お祈りです。」

春木さんが答える。

「なら、どうぞ……。」

シスターの格好をした女性は協会の祭壇の前に俺たちを誘導する。

どうやら祈りをするようだ。

まぁ、キリスタンじゃあないし、神を信じていない俺にとって意味が無い。

そう思いながら祭壇のまえに立つと……。

「あら?あなた?」

シスターが俺を見て驚いたような目をする。

「どうかしましたか?」

「いいえ。ただ、あなたは神を信じてないようだから。」

「えっ?」

いきなり、思ってたことを当てられて動揺する。

「別にいいんですよ。神は実際に存在するものかわからないですしね。」

シスターは淡々としてそう言う。

しかし、神に仕えるシスターがそんな事言っていいのだろうか?

まぁ、今の協会も色々あるんだろう。

しかし……神か。

アィディーの話から忘れていたが神の存在、全能……桐原登か……。

そう思いに更けていると……。

「神はいるんですよ。シスター、適当なことを言わないでください。」

すると、隣に並ぶ春木さんがそう主張する。

「ほう。なんでそう思います。」

変わらない口調で問い返すシスター。

「私は神と呼ばれるものを知っています。」

「……。」

この時、春木さんの言葉を不信に思った。

神と呼ばれるものを知っている?

「なるほど。またその話ですか。あなたは神を探しているんですか?」

「いいえ。神は時期に私を必要とします。神が私ではなく、神は私を……。」

「そうですか。」

これで二人の会話は中断する。

不信な言葉をやりとりする二人。

俺には深い意味までわからない。

何故か妙な感じがした。

神……その言葉が。


礼拝を終えて俺はシスターの所へと足を運んだ。

シスターは奥の部屋に一人身を休めていた。

「ちょっと、いいですか?」

「はい。何か質問ですか?なんでしょう。」

シスターは気前良く受け答えしてくれる。

「さっき、春木さんと話をしてた内容ですけど。神っていったい、なんのことですか?」

「あぁ、その話ですか。さっきの娘には悪いですが、やっぱり神なんて存在しませんよ。神は空想のものに過ぎない。」

「……。神が嫌いなんですか?」

「そもそも信じてないですよ。そうですね。もし、神が存在したとしたら、それは本当に全能で完璧で不全能で不完全でなくてはいけない。」

「全能で完璧はわかりますが、なんで不全能で不完全なんです?」

俺の問いにシスターは一瞬迷いを見せた。

「本当に完璧すぎる人は神にはなれない。私は神を知っていましたから。神は完璧すぎる能力と落ち目と言わんばかりの甘さを持っていました。」

「……。さきぼどから出ている神ですが。それは誰ですか?」

「……。」

シスターはしばらく口を閉ざして考える。

そして……。

「はい……」

カバンから一枚の写真を取り出して俺に手渡す。

写真にはシスターと小さな子供と一人の男の姿があった。

「これは?」

「それは私と私の子と旦那ですよ。」

一瞬、何故めいた。

「子供?」

「そうですよ。名前は朱氏です。」

……。

いや、別に名前はいいんだが……シスター、結婚して子供がいたのか!?

まったく一児の母には見えない。

高校生って言われても納得できる容姿なのに。

「そして、その隣が旦那……。」

俺はそう言われて写真に注目した。

「あれ……?」

俺は思わず声を出した。

この顔は一度見たことがある。

確かこの人が……。

「桐原登。私、桐原夏子の夫。そして、現代に置ける神と呼ばれる人です。」

「……!!」

神の正体が一致する。

「彼は何もやっても完璧。右に出る人はいない。確かに神にふさわしい存在ですね。」

「……。なら、なんでさっき神なんていないなんて言ったんですか?」

するとシスターの顔が濁った。

「あっ。失礼な質問でしたね。すいません。」

「いえ、いいですよ。ところで……あなたは神を求めてどうするつもりですか?」

「……。」

殺す……。

なんて本人の妻の前でいるわけ無い。

「なるほど……あの人を殺すのですか」

「!?」

俺は驚きを表情に出す。

声にしてないことが読み取られる。

最初に会ったときも読み取られていたが偶然だろうと思っていたが……。

「そんなに驚かないでください。私には人の力を盗むことができるんです。効果は盗む対象者が範囲百メートル以内の間だけ。その代わり盗まれたものは逆に力を使えない。」

「……。」

単純にすごい能力だ。

まさか、能力者だったとは……。

「いえ、すいません。俺は色々あって……」

「あの人を殺さなきゃいけなくなったと……。内容はあなたの頭から読み取りましたからわかりました。あの人は恨まれることをしてますが……。私は何か理由があると信じてます。まぁ、私にあなたを止める理由もありませんが。」

「すいません……。最後に彼は今どこに?」

それに対してシスターは首を振った。

「でも、次期に彼の方からあなたの前に現われますよ。あと、あの連れの方に注意したほうがいいですよ。」

春木さん?

俺は首を傾げた。

まぁ、確かに今日の様子は少し変だった。

でも……まぁ大丈夫だろう。

「なら最後にいいですか?なんで神を信じてないのにシスターなんかしてるんですか?」

はっきり言ってしまえば、意味わからない。

ある意味一番なぞだ。

「あぁ、これですか。私はあの人と同じで科学者ですよ。これは、単なる副業で遊びです。ほとんど協会には人こないし、私もこんなことやりに毎日来ませんから、会えたのはそれこそ神の恵みかもしれませんよ。」

シスターは本当のシスターではないことが最後に判明した。

「なんですか、それは……。適当ですね」

「いいじゃあないですか。」

「神に呪われますよ。」

「神なんていませんから。」

俺は笑って、一礼して部屋を後にした。



協会の小部屋から出ると、春木さんが協会の椅子に腰掛けて待っていた。

「あら、香瀬くん。ずいぶんと話し込んでましたけど何のお話だったんですか?」

椅子から立ち上がり春木さんは話かけてくる。

「いや、別にたいしたことじゃあないよ。春木さんには関係ないことですし」

俺は質問を拒否する。

しかし……。

「そんなことはありませんよ。あなたが検討間違いをしているだけですよ。」

春木さんは意味深に不敵な笑みを見せる。

その瞬間、背筋の凍るような寒気を感じる。

この寒気は以前、アィディーから感じたもとと似ているが……また別のものに近い。

どちらかと言えば……露河渡から感じたプレッシャー……。

殺気のものに近い。

「春木さん……?」

様子がおかしいのは手を取るようにわかった。

「関係無いなんてことは無いんですよ。もともと、私と香瀬くんとの出会いは必然のものです。まるで、神が世界に存在してそうさせたように……。」

「春木さん、大丈夫?」

俺が声をかけるが春木さんは狂ったように話を続ける。

「むしろ……神は実在する。そして、私に指名を与えてくれる。Extraordiary Death line。香瀬樹をその手で殺せと……!」

「……!!」

その瞬間、春木さんの右腕が俺を目がけて振り下ろされる。

別に刃物などは持っていない。しかし……嫌な予感を感じてとっさに左へと飛んだ。

ガンッ!!

物凄い音を立てて春木さんの右腕は祭壇に打ちあたり。

祭壇を相殺する。

異常な腕力。

人の次元を越えた力。

そして……俺を殺そうとする。

つまり……。

「そうか……。春木さんもセシカだったのか」

シスターが言っていたことはこの事か……。

しかし、対する春木さんは首を振る。

「いいえ。私は既にセシカではないの。神……桐原登によって既に人として貰った。」

「セシカから人に既になってる?なら、なんで俺を殺そうとするんだ。」

「そうね。おかしいよね。でもね……人となった今でも手に入れたいものは手に入らない。なら……それを消し去れば、この心の違和感は無くならないの……。」

手に入らないもの?

「それに、今は人となったがあの神の使いにしかない。あの人が望むなら私はあなたを殺さなきゃ……」

はっきり言って理屈なんて通ってない。

通ってないけど……殺しを望む春木さん。

「手に入らないものなんていらないの。」

そう呟きながら二度目の攻撃が襲い掛かる。

単純に相手を目がけて殴りかかる攻撃。

単純だから……嫌単純だからこそ防ぎ用がない。

でたらめの速さは既に常人の目では捕らえきれないほどの速さ。

春木さんの拳を避けようとしたものの右の脇腹をかすり肋骨が二、三本折れるのが確認した。

「ぐはっ!!」

口から少量だが血が漏れる。

鉄分の異様な匂いが充満する。

「くっ!」

もう……相手が誰だからといって躊躇なんてできる状況では無くなった。

今の春木春恵はクラスメートではない。

倒すべき障害。

殺すべき化け物だ。

俺は痛いを堪えながら協会の出口へと向かって逃げ出した。

今、この狭い協会で殺り合っても勝算はほぼない。

協会の出口を肩でこじ開ける。

その勢いで外へと駆け出すが……。

椀力だけでなく機動力も断然に負けているので一瞬で間をつめられて左肩に一打再び打ち込まれる。

肩の骨が砕け散って左手に入る全ぶの力が抜けてしまう。

「ぐあぁ!!」

しかし、痛みでそんな力を入る、入らない、なんて言ってる場合ではい。

「まったく遅い。常人となんの変わらないですね。Extraordiary Death lineが聞いてあきれます。露河渡のようにバカみたいな間抜けな負け方はしませんよ。」

「知ってたのか……」

「一応必要なのでずっと監視させてもらいました。しかし、確かにあなたは驚異です。戦いの中であそこまで頭が回るとは……。ですのでこのまま一気に殺してあげます。私の夢と一緒に!」

私の夢と一緒に?

春木さんの言葉の意味がわからない。

しかし、理解している暇なんてない。

俺は銃を右手に持って態勢を建て直す。

だが、やはり左手は既に役に立たない。

幸い、利き腕では無いことをありがたく思うしかないとはいっても、このままでは無理がある。

俺は再び協会から離れるように全力で走り始めた。

「勝てないからといって、逃げ出しても意味が無いですよ。」

足の早さでは自身があったが……すぐに追い付かされる。

「どうやら足を叩き折るべきですね。」

春木さんはそう言うと俺の足を目がけて拳を当てにくる。

しかし……今度はその攻撃をうまく避けて否する。

「……へぇ。避けますか。なら次はどうですか!」

再び、春木さんの攻撃が飛んでくる。

が……。

「無駄だよ。」

拳に当たるわずか数センチの避けで躱した。

「!?」

春木さんの顔が一変して引きつった。

「ようやく、効果が切れたか。あと、十メートルあったら死んでたよ。」

「……。ははっ、予知能力?なんで読めるの?だって私はセシ……!?」

しまったという顔をする春木さん。

「既に人間なんでしょう?自分のこと忘れるなんてね。とんだ失態だよ。」

「……。何?今まで予知能力を使わなかったのはわざと?」

引きつった顔のまま春木さんは問う。

「いや、Mじゃあないんでこんな怪我までして力をとっておくなんてことはしないよ。あのシスター……君なら誰かわかるでしょう。」

「……。なるほど、能力を奪われてたのか。けど、そう思うと桐原夏子……やはり異常よね。Extraordiary Death lineの能力まで奪うとは……。知ってる?桐原登は桐原夏子の能力を見込んで結婚したの。いや、たぶん桐原登は障害を味方に押さえておきたかったのよね。」

「……。」

春木さんはかまわず話を続ける。

「そんなの愛っていうかしら?でも……それでも結婚したい。そう思ったのは夏子の方………桐原夏子の思い。利用されようが桐原夏子は桐原登を愛したの……。」

いつのまにか鬼気に纏っていた声がいつもの春木さんのものとなった。

「ねぇ、香瀬くん。あなた鈍感よね。」

そう言ってクスッと笑う春木さん。

「本当に鈍感。私ね……あなたのことがずっと好きだった。」

「……!?」

一瞬、冗談かと思ったが……彼女の目に偽りは無いようであった。

「答えて……私を愛してる?」

「……。」

俺は無言だった。

愛す。

人を愛する……

俺にはわからないこと。

どんなことが人を恋愛情的に愛することなのか……

わからなかった。

答えきれなかった。

「私はあなたのためならなんでもする!人も殺せる。家事もできるし、いいなりに成れる!ただの人形にだってなれる!なんだってしてあげれる!!」

「……。」

春木さんの気持ちが痛いほど伝わってくる。

伝わってくるけど……。

俺はくびを振った。

「……。なら……殺して。私を殺してよ。」

「……。」

春木さんの目からは涙から流れる。

俺は右手に持つ銃を見つめる。

「……。」

春木さんは俺の障害となりうる。

ここで殺しておくべき相手。

しかし……。

本当に殺していいのだろうか?

殺してどうなるんだろうか……。

しかし、やはり殺すべきなのか?

俺は悩んだ挙げ句。

銃をポケットの中に閉まった。

「どうして……?なんで殺してくれないの?」

「春木さん……。君は生きるべきなんだよ。一緒に過ごした学校生活。楽しい、楽しくないで言えば楽しかった。まだそれが愛情なのかなんて俺にはわからない。だから……また教室でおはようの言葉を待ってる。」

これが俺のだした答え。

「……。」

春木さんは驚いた顔をする。

「やっぱり、やさしいね。出会った頃からずっと、そのやさしさに恋い焦がれていた。」

そう言って涙を拭う春木さん。

「わかった。私はあなたの言い付けどおり、あなたのいち友達として過ごすわ。でも、私はあなたを愛することには変わり無い。だから、隙があったら私でも襲っちゃうんだからね!」

涙目でそう伝える。

「先に帰ってて、足くじいちゃった。」

わかった、と頷いて俺はその場を離れる。

そして、しばらく歩いた所で後ろから誰かの大声で泣く声が聞こえる。

俺は気にせずにそのまま足をすすめた。

「あらあら?また、女の子泣かせたの?」

すると、どこからともなくアィディーが隣に立っている。

「あれほど女は泣かすな!って言ってたのに、母さんは淋しいわ。」

誰が母さんだ!という突っ込みを入れようと思ったが連日の戦いの疲労と怪我でそんな力も無い。

「あらあら?ずいぶん疲れてるわね。なら、はい。ちょっと怪我見せて。」

すると、アィディーは肩と脇腹の傷口を見付けさわる。

「イテッ!」

さわられる瞬間、衝撃が走る。

「何しやがる!」

俺はアィディーを振りほどく。

しかし……。

「あれ?」

いつのまにか傷口が塞がっている。

「ヒーリングよ。感謝しなさい。私のヒーリングは一流だからね。けど、いきなり動いたりしたら、また傷口が開くから安静にしときなさい。じゃあ、またね。」

そういうと、隣から消え去っていく。

「傷を治してくれたのか……。」

とにかく今は休みたい。

そう思いながら家へと急いだ。

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