1∥警護
私の高校は、何人かの生徒が、学年や学校をケンカで仕切っている。
その中に、五人でいつもつるんでいる人達がいる。一応、五人ともモテる。
みんな、『EMOTIONS・5【エモーションズ・ファイブ】と五人のことを呼んでいる。
ドラマや映画になった、あの漫画みたいに、もっとマシな名前はなかったのかと、私はつくづく思う。
『EMOTIONS』は、日本語になおすと、『感情』になる。四字熟語で言うと、『喜怒哀楽』。
なぜ、『EMOTIONS・5』なのか。その理由は、五人にある。
まず、『EMOTIONS・5』のメンバーを紹介しておこう。
一人目は、笹野 一途【ささの いちず】。この人は、いつも笑っていて、何か、爽やか(?)っていう感じ。でも、この人が一番、蹴りが強いらしい。身長、百八十三センチ。不良の兄によると、一番腹筋がすごいらしい。
みんなからの呼び名が、『HEE【ヒー】』。日本語で、『喜』。顔に似合っている呼び名だ。
二人目は、遠野 克巳【とおの かつみ】。この人は、いつも怒ってる。と思う。とにかく、目が怖くて、その覇気だけで、他校の不良を黙らせたらしい。身長は百九十五センチで、超筋肉質。がっしりしている。
みんなからの呼び名、『ANGER【アンガー】』。日本語で、『怒』。本人も気に入っている。
三人目は、白金 千夏【しろかね ちか】。この人は、甘えん坊。目を潤ませて、頼み事をするのが、得意らしい。背は百六十五センチ。一応、男の人と言う感じの体つきはしている。そしてロリ系の顔。でも、ケンカは強い。
みんなからの呼び名は、『SAD【サード】』。日本語で『哀』。
四人目は、若葉 信吾【わかば しんご】。この人は、とにかく、面倒くさがり。しかも、スケベ。身長は百七十七センチ。少し筋肉がついていて、見た目はチャラい。ケンカも強いみたい。
みんなからの呼び名は、『EASE』。日本語で、『楽』。いつも楽をしているからという理由。単純だ。
五人目は、坂月 風雅【さかづき ふうが】。この人は・・・よく分からない。笑ったり、怒ったりはするが、心から感情を出していないみたいなそんな感じがする。身長百八十八センチ。とにかく、細い。 みんなからの呼び名は『NO【のー】』や、『NOMEN【のーめん】』。意味は、『(感情が)無の男性』と言う意味と、『能面』と言う意味の二つがある。
HEE(喜)、ANGER(怒)、SAD(哀)、EASE(楽)、NO(無)の五人は、全員が表情を英語で表されるので、『EMOTIONS・5』なのだ。
この五人(全員高校一年生)を私がよく知っている理由・・・それは、兄が不良だから。
まぁ、兄のことも紹介しておこう。ついでに私の自己紹介も。
兄の名前は、崎田 純太【さきた じゅんた】。少し、シスコンが入っているが、ケンカは強くて、頭がいい。感情豊か。身長百八十五センチ。ANGERと一緒で、筋肉質。
みんなからの呼び名は、『ALL【オール】』。日本語で『全部』。これは、感情豊かだかららしい。
で、私の名前は、崎田 夢乃【さきた ゆめの】。成績は上のほう。ケンカは強くないけど、度胸はある方・・・自分的には。身長百五十五センチ。体重は重くて、ぽっちゃり体系。おなかは出ていないけど、太もも(と足)が太くて、後はそれなりに肉がついてる。友達や兄には、『夢【ゆめ】』と呼ばれている。ちなみに、高校二年生。
私は、平凡に、あまり目立たないように、していたんだけど・・・
「ねぇ、このAクラスに、崎田先輩の妹、いるよね。」
とある日の昼休みに呼ばれた。
あの五人だ。
この学校は、成績でA・B・Cクラスに分かれている。
なぜかやってきた、CクラスのEMOTIONS・5。
わざわざ、Aクラスに来なくても・・・。
「崎田は私だけど?」
私が言うと、四人は、ニコッと笑う。一人だけ、真顔だ。
「何?さっさと、用件をいいな。」
私はもろ上から目線でそう言った。すると、HEEが、私を抱きかかえた。
「は?何やってんの?おろして。」
私がそう言うと、HEEはすごく笑った。
「やっぱり、CLUMSYじゃなくて、NATURALでいいんじゃないの?」
HEEがそう言った。
『CLUMSY』は『不細工』と言う意味。
『NATURAL』はたしか、『天然』だったと思う。
個人的に、呼ぶなら、『不細工』のほうがいい。『天然』とは、死んでも言われたくないね。私の縦巻きパーマは、天然だ。しかも、髪の色も天然茶髪。だから、小学校のときは、『天然ちゃん』とずっと呼ばれていた。
「呼ぶなら、苗字か名前。英語で呼ぶなら、『CLUMSY』でいい。」
私が言うと、HEEはまた笑った。
「CLUMSYでいいの?じゃあ、自己紹介をするね。今日から、CLUMSYの警護を頼まれた、笹野 一途です。HEEって呼んで。」
HEEはそう言うと、ニコッと笑って、私を下ろした。
「同じく、お前の警護を頼まれた、遠野 克巳。ANGERだ。」
「同じく、白金 千夏です。SADって呼んで。」
「同じく、若葉 信吾。EASEです。よろー。」
「同じく、坂月 風雅。風雅でいい。」
風雅がそう言うと、みんなは風雅を見た。
「お前はNOだろう。」
HEEが笑いながら言った。風雅は無視をして、そっぽを向いた。
「わかった、風雅って呼ぶね。それより、私が聞きたいのは、何でこんな状況になっているか。」
私が言うと、四人は笑った。
「ALLさんから、頼まれたんだよ。」
HEEが言った。私は嫌な予感がした。
「お兄ちゃんが?もしかして、敵対する学校に、私の顔がばれたとか?いつも、あの人が一緒にいると、よくあるんだけど。」
私がそう言うと、五人全員がうなずいた。
「しかも、敵対する学校、全部にばれたんだ。」
HEEがそう言うと、ANGERが私の手を後ろ手につかんで、そのままお兄ちゃんのところへ連れて行かれた。
「痛い、痛い!」
私がそう言っても、ANGERは放そうとしない。
いつのまにか、お兄ちゃんの教室の前にいた。お兄ちゃんは三年のAクラス。
「ALLさん!夢乃さんを連れてきました。」
HEEがそう言って、お兄ちゃんのことを呼ぶ。
「よ、夢乃。」
お兄ちゃんがそう言って、私に近づいてくる。
「何で、私の警護がこの五人なの?私、WHITEさんがいい。それか、AMUSINGさん。」
私がそう言うと、お兄ちゃんは首を横に振った。
WHITEさんとは、お兄ちゃんの相棒で、Aクラス。名前は、勝篠 白也【かつしの しのや】。頭がよくて、スポーツ万能で、スタイルが良くて・・・すごくカッコイイ人。身長百八十センチくらい。
名前が白也だから、『WHITE【ホワイト】』という呼び名なのだ。
AMUSINGさんは、風雅のお兄さんで、Aクラス。名前は坂月 翔雅【さかづき しょうが】。超優しくて、頭がいい。お兄ちゃんと同じクラスにいる。スポーツは野球が得意で、たまに勉強も教えてくれる。身長、百八十五センチ。
『AMUSING【アミュージング】』は『面白い』と言う意味。
「白也も翔雅も、お前と学年が違うから、帰る時間が違ったら困るだろう。いつ襲われるか分からないんだから。」
「この三人は、クラスが違うでしょう!」
「こいつら、次のテストでAクラスはいるから。」
お兄ちゃんがそう言った。すると、風雅が私の肩を叩いた。
「心配してると思うけど、俺らは、大丈夫だから。」
「次のテストって・・・無理でしょ!Cクラスなのに。CクラスからBクラスに入るだけでも、難しいんだよ!」
私がそう言うと、風雅は無表情で、私の頭をなでた。
「俺は頭がいいんだ。入ろうとしたら、簡単に入れる。たぶん、信吾以外の奴らも全員。」
風雅はそう言うと、他の四人を見た。
「お前ら、Aクラスに入れよ。」
「了解!」
お兄ちゃんに言われて、五人はすぐにうなずいた。