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図書室ピエロの噂  作者: 鳴猫ツミキ(水鳴諒/猫宮乾)
【SeasonⅠ】―― 第八章:血を吸う桜 ――
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【045】遺言状

「だけどね、この前亡くなったおじいちゃんの〝遺言状〟が公開されてね。そうしたら、俺と同じくらい亮にも相続させると書いてあってね。上総さんは、認知は求めたけど、手切れ金と、二度と崎保の家に関わらないと約束していたから、母からしたら〝寝耳に水〟だったみたいでね。しかも、俺が長男なんだけどさ、うちは一族経営だから、祖父の次は父、父の次は俺が継ぐはずが、遺言には一部を亮に継がせると書いてあったんだ。もう俺の家は大荒れだよ。バカみたいだから、俺は神社に逃げてたんだよね」


 つらつらと語る透くんは、呆れたように笑っている。


「……亮にいちゃんはどうなるの?」

「さぁ? 今、それを話し合ってるみたいだよ。行ってみようか」

「ぼくが行ってもいいの?」

「いいんじゃない? 子の家に住んでる俺が、友達を連れて行って悪いことはないでしょ。俺を友達だといったのは、瑛だよね?」

「う、うん」


 こうして透くんが歩き出したので、ぼくもその後ろを突いていった。

 池には錦鯉が泳いでいた。


「お父様」


 縁側で、透くんが声をかけた。すると男の人がこちらを見た。崎保のお父さんだ。そして亮にいちゃんも何気なく振り返り、ぼくと目が合うと血相を変えた。


「瑛! どうしてここに」

「透くんの家に遊びに来たんだけど……?」


 ぼくはそれでいいのだろうと思って、透くんを見る。すると、透くんはニヤニヤと笑っていた。


「どうして瑛と一緒に!? 何かしたのか?」

「別に?」

「いつから瑛と……」

「学校帰りに、偶然出会って、お話をするお友達になっただけだよ」

「そんなはずが――」

「いやぁ、亮の家族ごっこのお話を聞かせてもらうのが楽しくてねぇ」

「っ」


 意地悪な声で笑いながら透くんがいうと、唇を噛みしめるようにして、亮にいちゃんが俯いた。


「入りなさい」


 そのとき、崎保さんが言った。

 するとひょいと透くんが中に入り、ぼくを手招きした。ぼくも靴を脱いで、中に入る。


「楠谷くんのご子息か?」

「――ええ。俺の弟の瑛です」

「弟? それは違う。亮、お前は崎保の人間だ」

「ですから、お断りしています。俺は、崎保の家には入りません」

「では、これからも血のつながらない楠谷くんに養ってもらうのか?」

「……それ、は……自分で働いて……」

「そんなことが出来ると思っているのか? 無学の者をどこが雇ってくれると言うんだ?」

「……晶さんには、働いて返します」


 亮にいちゃんが、お父さんのことを名前で呼んだ。ぼくは思わず、じっと横顔を見てしまう。


「迷惑をこれ以上かけるな。遺言状もある。戻れ」

「っ」

「亮、何度も言わせるな」


 亮にいちゃんが、辛そうな顔でうつむいている。言葉を探しているみたいだ。

 ぼくは、崎保さんを見る。そして思わず立ち上がった。


「亮にいちゃんは、ぼくのお兄ちゃんです! この家の人じゃないです! それにお父さんも迷惑だなんて思ってません! 思ってるわけないです!」


 前に、高校を止めず、やりたいことをしたらいいと話していた。

 迷惑じゃないと話していた。

 ぼくはそれを聞いたことを覚えている。


「場をわきまえて、黙っていろ。子供の分際で」




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