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人外シリーズ

竜の送り火、風の抱擁

作者: 柏井猫好
掲載日:2026/04/12

※グロテスクではありませんが、人の死や火葬などの場面が出てきます。苦手な方はご注意ください。

「わたしが死んだら、あなたに火葬してほしいなぁ」


 ある日、竜人である僕の(つがい)がはにかむようにそう呟いた。


 穏やかな休日の昼下がり。三人の子供たちも巣立ち、かつて賑やかだったリビングルームには、鳥のさえずりが響いている。

 昼食を終えて、ダイニングテーブルで向かい合ってコーヒーを飲んでいた時のことだった。


 唐突な言葉に、僕は軽く咽た。かつて射干玉のように黒かった彼女の髪には白いものが目立ち、目尻にはかわいい笑い皺がある。その皺の一本一本に僕たちが過ごした幸せな思い出が刻まれている気がして、僕はそれを見るのがとても好きだった。


「びっくりした。どうしたの、急にそんなことを言いだして」


 落としそうになったカップをテーブルに置き、じっと彼女の瞳を覗き込む。焦げ茶色だった瞳は加齢の影響か、最近少しずつ色が薄くなってきたような気がする。


「だって、昔は集落の皆の炎で故人を送ったのでしょう?」

「それはそうだけど、昔の話だよ?」


 人外の種族によって葬儀の方法は様々だけれど、僕たち竜人族は古の時代から遺体を荼毘に付してきた。葬儀の参列者全員で棺を囲み、一斉に炎を噴いで火葬するのが伝統的な死者の送り方だった。


 しかし、近代化が進んだせいで、最近ではよほど人里離れた集落でない限り、その風習も廃れてしまった。都市部では人外専用施設で火葬するのが普通だった。人間とは体の構造が異なる種族も多いので、人外の存在を知らない人間に見られると困るからだ。僕の祖父母も県内の人外専用火葬場で荼毘に付したが、使用された設備は人間のものと変わらないので、竜人の炎で焼いたわけではない。


「人生の折り返し地点を過ぎた頃から、色々考えるようになったのよ。来年には二人目の孫だって生まれるじゃない?」


 あっけらかんと言いながら、彼女は白いカップからコーヒーをひと口飲む。


「わたしはさあ、人間だからどうしたってあなたより先に死んでしまうでしょ? だからせめて、最後の最後まであなたと共にありたい、あなたの炎に包まれて天へ還っていきたいなって思ったの。ダメ?」


 人間の寿命はせいぜい100年程度。竜人の僕からしたらあまりにも短い。結婚、出産、子供の入学式、成人式と人生の節目を迎えるごとに確実近づいている別れのことを、僕はその時まで敢えて考えないようにしていたのかもしれない。


 彼女が、最愛の僕の番が棺に横たわっている姿を想像して、恐怖のあまりぶるりと身震いした。


「やめてくれ」


 思わず僕は立ち上がる。彼女の足下に膝を突き、柔らかい腹部に腕を回して抱きついた。


「君がいなくなることなんて、考えたくもないよ。まだまだ先のことじゃないか」


 眦に涙を浮かべながら縋りつく僕に、彼女は困った子供を見るような、愛しさと切なさが入り混じった微笑を浮かべる。


「ごめんねえ。でも、わたしがボケちゃう前に頼んでおきたかったの。火葬が終わったら、灰の一部は空へ向かって撒いてね。そうしたらきっと、あなたが空を飛ぶたび、わたしの一部が風になってあなたを抱きしめることができる。ね、ロマンチックだと思わない?」


 歌うように囁いて、彼女は悪戯っぽく片目を瞑った。

 そんな仕草がたまらなく愛しくて、僕の胸がキュウっと音を立てて締め付けられた。


「――わかった。君の望むままにするよ」

「ふふっ、ありがとう」


 彼女は小さく溜息を吐き、そっと僕の紺色の髪に触れる。


「あなたは出会った時のままね。髪も本当に綺麗。ラピスラズリみたい」


 彼女は僕の頬を両手で挟んで、優しく上を向かせた。


「瞳も琥珀色で、まるで宝石に身を包んだ王子様みたいねえ。ふふ、本当に素敵。今でも毎日あなたにときめいてしまうの。おかしいかしら?」


「僕もだよ。出会った頃の君も素敵だったけれど、年齢と経験を重ねて増していく君の美しさに、毎日好きが更新されていく。愛しているという言葉では到底言い表せないくらいだ」


 竜人である僕にとって、番とは魂で結ばれた運命の相手だ。人間に番は感じ取れないというけれど、僕は彼女が向けてくれるひたむきな愛情が、僕が彼女に向けるそれと同じくらいの熱量であることを知っている。それは彼女が言葉と行動で示し続けてくれているから。


 そっと抱き合いながら、彼女は僕をあやすように背中を摩ってくれる。


「わたしも竜人に生まれたかったなあ」


 番がぽろりと零したひと言に、僕はギュッと目を瞑った。


 

***



 人間とは本当に儚いもので、孫たちが成人する頃になると彼女の記憶が曖昧になることが増えた。

 最初は日にちや季節があやふやになる程度だったのが、やがてどこに何を置いたのか忘れてしまい、それは誰かに盗まれたせいだと思い込むようになった。


 ゆっくりと認知症の症状が進行していくなか、僕は介護の資格を取得することを決めた。

 彼女の世話をするのは番の僕でありたいという竜人の独占欲も大きかったが、どんな時でも彼女の支えになりたかったからだ。


 元から背の低かった彼女の背中は曲がっていき、ますます体は小さくなった。そんないかにも「おばあちゃん」な見た目になった彼女も可愛らしく、若い頃とは違った形で庇護欲をそそる姿に心が震える。

 身体を支えていた杖は歩行器になり、それが車椅子に取って代わる。食事に排泄、入浴も介助が必要になり、常に番のそばにいて世話をができることが幸せであると同時に、不安だった。日に日に零れ落ちていく記憶と共に、彼女という人間が何か別の存在に書き換わっていくようで――。


 彼女が僕や子供たちのことすら思い出せないことが多くなったある日。僕は台所で夕食の支度をしていた。背後では車椅子に座った彼女がじっとテレビを観ている。

 夕方のニュース番組では、キャスターが最近話題のレストランをレポートしているようだ。彼女が時折漏らす「美味しそうねえ」とか、「すごいわねえ」という感嘆に相槌を打ちながら、僕は手早く調理を進めていく。いつも通りの、何気ない穏やかな時間だった。


「うん、これでよし。お待たせ、夕飯の時間だよ。今日のデザートは君の大好きなプリンだからね」


 僕の呼びかけに反応がないのは珍しいことでもない。振り返ると、テレビを観ていたはずの彼女は項垂れていた。


「寝ちゃったのかな?」


 そっと車椅子に近づいて、彼女の顔を覗き込む。


「起きて、夕飯の時間だよ」


 細い肩に触れて声をかけても、彼女はピクリとも反応しなかった。


「ほら、デザートはプリンだよ?」


 手を軽く握ってみても指先ひとつ動かさない彼女に、僕の喉が引き攣った。


 ――まさか、僕が目を離していた間に……?


 最悪の事態が脳裏を過った刹那、全身が粟立ち、恐怖に心臓が暴れ出す。血潮は激流となって全身を駆け巡り、吐き気すらこみ上げてきた。


 大きな声で彼女の名前を何回呼んだ時だろうか。徐に彼女の両目が開き、僕は安堵の息を吐いた。


「あ……あ、びっくりした……」


 涙目で自分を見上げる僕に、彼女は怪訝そうに顔を顰めた。僕が誰だかわからないのだろう。


「驚いた、本当に、心臓が破れるかと思った」


 彼女は居心地悪そうに、骨ばって血管の浮いた手を握りしめた。僕は彼女を安心させるため、一歩後退って微笑む。


「今日のデザートはプリンだよ」

「プリン!!」


 大好物に、彼女は分かり易く反応した。


「わたし、プリン大好き! うれしいわあ」


 僕の給餌で夕飯をぺろりと食べ終え、蕩けそうな顔でプリンを味わっている姿を微笑ましく見つめながら、僕は不安と恐怖で胸が塞がるような気がした。


 ――別れはもう、すぐそこまで迫っている。


 僕はその日、何故だかそう確信したのだ。




***




 それから僕は、残された彼女との時間を二人の軌跡を辿ることに費やした。

 彼女の体調を考慮しながら、天気のいい日に散歩を兼ねて出かける。昔は竜体になった僕の背に彼女を乗せて飛んで行った場所も、体に負担のかからないように車で移動した。


 隣の県にある公園。昼下がりの小道をのんびりと行き交う人々の中には、介護士であろう人に連れられた老人もいる。


 竜人の僕は長命種であるが故に老化が遅い。傍から見れば、僕も介護施設の住人を散歩に連れてきた若い介護士に見えるだろう。


 秋の花が風に揺れているのを、彼女はぼんやりと眺めている。


「覚えている? 僕たちは大学のサークルで参加したピクニックで知り合ったんだよ」


 今でも瞼を閉じれば、あの時の彼女の姿が浮かんでくる。


「君は髪をとってもオシャレに結っていてね。淡い色のカーディガンがとても似合っていた。楽しそうに笑う君を見て、僕はひと目でわかったんだ。この子が僕の番だ! ってね」


「そうなのぉ、よかったわねえ」


「サークル仲間と何回か一緒に出掛けて、その度に僕は君に必死にアピールして。ふふ、最初は君、まともにとりあってくれなかったんだよ。『あなたはとってもハンサムで二枚目の俳優みたいだから、女の子がたくさん寄ってくるでしょう?』ってね」


「あらあ」


「何度も諦めずにアタックする僕に、君は絆されたんだろうね。やっと交際してくれるようになったのは、出会ってから1年経った頃だったね」


「う~ん、お腹は空いていないのよ。あなたが食べて」


 何の脈絡もない返事をする彼女に、僕は苦笑して顔を覗き込むる。


「やっぱり、思い出せない?」


 彼女は小鳥のように首を傾げた。今はもうグレーを混ぜた茶色になっている瞳をきょとりと瞬かせる。


「そういえば、お兄ちゃんは学校を卒業したんだったかしら?」


 彼女の記憶は日によって調子がまちまちだ。会話の途中で突然子供たちのことや僕のことを思い出すこともあった。


「卒業したよ。今は銀行に勤めているだろう?」

「あらあ、そうなのぉ」

「僕の名前は? 覚えてる?」

「お腹は空いていないのよ。あなたが食べて」

「……風が冷たくなってきたね、もう帰ろうか」



 彼女の体調をみながら何日もかけて、僕たちは数々の思い出の地へ足を運ぶ。

 よくデートに行った映画館の跡地、当時から営業を続けている喫茶店。結婚式を挙げた神社、子供たちが通った学校。


 何か記憶に触れるものがあるのか、彼女は時折不思議そうな顔をする。それでいい。思い出せなくても、少しでも刺激になってくれれば。


 妻に置いて行かれる夫の感傷に付き合わせているだけなのかもしれない。


 単なる自己満足でも、僕は二人が過ごした年月の欠片を必死にかき集めずにいられなかった。過ぎ去った時の彼方に確かにいたはずの彼女、確かにあったはずの出来事。今はもう、僕の中にしか残っていないそれらをひとつひとつ、空っぽになってしまった彼女の中に戻していきたかった。そうすれば、消えてしまったかつての彼女が戻ってきてくれるような気がして――。 



 これで最後にしようと決めて向かった先は、海だった。


「小さい頃、よくお父さんが海に連れてきてくれたのよ」


 引いては返す波を見つめながら、彼女は懐かしそうに目を眇めた。


「そうなのかい?」

「海水浴客がいっぱいいてねえ。アイスクリームを買ってくれたの」

「お義父さんのことは覚えているんだね」

「お父さん、新聞社に勤めているのよ」


 記憶は新しいものから失われていくというから、子供の頃の記憶は残っているようだ。

 僕は思わず彼女にじっとりとした視線を送ってしまう。大人げないかもしれないが、父親であるとはいえ、番が僕以外の男のことを覚えているというのが悔しかった。


 僕は小さく咳払いしてつまらない嫉妬を押しのける。車椅子の傍らに跪いて彼女の手を優しく握った。


「ねえ覚えている? ここで僕は君にプロポーズしたんだよ。こうやって君に指輪を差し出して」


 言いながら、僕はダイヤモンドのついた指輪を取り出した。若しり日の僕が彼女に贈った婚約指輪だ。瘦せ細った彼女の指には大きすぎて外れてしまうので、現在は僕が保管している。


 彼女はピンとこないのか、太陽の光を受けてキラキラ輝くダイヤモンドを見つめるだけだった。

 僕は指輪を彼女の左手の薬指にはめ、手の甲に口づけた。


「死がふたりを分かつまで、僕と一緒にいてください。君がこの世を去ってしまっても、僕が最期の息を吐くその瞬間まで、君だけを愛し抜くと誓うから」


 あの日、彼女に捧げたものと一言一句違わぬ誓いを口にする。


 じっと己の薬指に視線を落としていた彼女は、やがて興味を失ったように海の方へ顔を向けた。


「――やっぱり、忘れちゃったか……」


 当時を再現すれば思い出してくれるかもしれないという淡い期待があったけれど、現実はそう簡単にいかないようだ。僕は自嘲に口の端を歪めた。


 仕方のないことだ。彼女だって自分から望んで認知症になったわけではない。彼女を責めるつもりは微塵もないし、今の彼女だって愛しいことには変わりない。けれど、忘れられていく哀しさと、過ぎ去った日々への寂寥に溜息を吐くくらいは許して欲しい。


 僕は感傷を振り落してゆっくりと立ち上がる。膝についた砂を払い、彼女の背後に立って煌めく水平線を見つめた。


「今日は波が穏やかだね」


 どれくらいそうしていただろうか。長くても数分程度だったと思う。急に我に返ったように、彼女の肩が跳ねた。慌てて何かを探すように忙しなく首を動かす。


「どうしたの?」


 僕はすぐさま彼女の前に出て屈みこんだ。落ち着かせるように両手に触れる。


 瞳が僕を捉えた瞬間、彼女は目を見開いた。皺だらけの頬にふわりと赤味が差す。


「まああ! 綺麗ねえ!」


 彼女はまるで初めて僕という男の存在に気付いたようだった。少女のように目を輝かせ、身を乗り出して食い入るように僕の顔を覗き込む。


「髪も瞳も、宝石みたい! 綺麗ねぇ、宝石に身を包んだ王子様みたいだわぁ!」


 ――『まるで宝石に身を包んだ王子様みたいねえ。ふふ、本当に素敵。今でも毎日あなたにときめいてしまうの。おかしいかしら?』


 かつての彼女の言葉が耳に蘇り、僕の視界が滲んだ。


「君も相変わらず、とっても素敵だよ、僕のお姫様」


「わたしたち、きっととてもいい夫婦になれると思うの。ねえ、わたしと結婚してくれない?」


「――っ、うん、うん! 結婚しよう。愛しているよ」


 ――ああ、君はずっとここにいたんだね。


 僕の愛したかつての彼女は消えていなかった。僕の番は今も昔も、変わらず僕の目の前にいるじゃないか。僕たちが共に育んだ愛は、重ねた年月は、歩んだ道は、一度も失われることなく今も僕たちと共にあった。普段は深い海に沈んでいても、こうして何かの拍子に浮かび上がってくる情熱がある。


 とめどもなく溢れ出る僕の涙に、彼女は目を瞬かせた。


「あらあ、どこか痛いの?」


 まるで幼子のような稚い口調が微笑ましくて、僕は洟を啜って破顔した。


「違うんだよ。嬉しいから泣いているんだ」

「まあぁ、よかったわねえ」

「うん、うん。本当に、気付けて良かった。ありがとう」


 彼女はゆっくりと頷いて、また海を見やる。


「小さい頃、よくお父さんが海に連れてきてくれたのよ」

「そうだね。アイスクリームを買ってもらったんだね」



 それからおよそ2か月後。高熱を出した彼女は3日3晩寝込んだあと、静かにこの世を去った。彼女が息を引き取る瞬間も、僕はずっと手を握っていた。




***



「父さん、最後のお別れの時間だよ」


 僕と彼女が暮らしていた場所から遠く離れた竜人族の里の一角に、喪服に身を包んだ僕らの家族が集まっていた。


 ここは、まだ彼女が認知症になる前に自分で見つけてきた施設だった。古い竜人族の伝統を大切にしている里で、竜人とその家族であれば里の住民でなくても伝統的な葬儀を行うことができる。

 

 長男の言葉に僕はひとつ頷き、蓋が外されたままの棺を覗き込む。彼女は死に化粧を施した顔に、穏やかな微笑みを湛えて横たわっていた。大好きだった黄色い花、家族の写真、僕が贈ったレースのハンカチ。89年という竜人にとってはあまりにも短い生涯で築いた、たくさんの思い出と愛情に囲まれながら、彼女はこれから天へ還っていく。


「僕に君を送るという栄誉を授けてくれて、ありがとう。――愛しているよ、永遠に」


 冷たくなった唇に最後の口づけを落とす。


 僕が棺から離れたのを合図に、子供たち三人が協力して棺に蓋をする。施設の職員たちが進み出てきて、棺の周りに木材を組んでいった。


「それでは喪主様、よろしくお願いいたします」

「――はい」


 促されて、僕は棺の近くへ進み出た。


 荼毘に付してしまえば、もう二度と彼女の姿を見ることはできなくなる。そう考えると喉の奥がグッと詰まり、涙が溢れた。


 ――しっかりしろ、僕を信じて最後を委ねてくれた彼女にみっともない姿を晒すな。


 僕は己に言い聞かせると意を決し、深く息を吸いこんだ。溢れんばかりの愛をこめて紅い炎を吐き出す。それは棺の周りに組まれた木材に燃え移り、瞬く間に火柱となって燃え上がった。


 彼女の魂は、僕の燃え盛る愛を身に纏いながら、ゆっくりと天へと昇っていくのだろうか。

 その様子を想像すると、少しだけ哀しみが慰められた気がした。


 きっと、彼女はそれをも見越していたに違いない。とても優しい人だったから、役割を与えることで君を見送る僕が自分を保っていられるように、竜の送り火を望んでくれたのだ。


 僕を伴侶に選んでくれて、ありがとう。

 愛してくれて、ありがとう。

 君と僕によく似た子供たちを産んでくれて、ありがとう。

 最後の最後まで共にありたいと願ってくれて、ありがとう。


 ――いつか再会するその日まで。おやすみ、僕の愛しい人。

 




 すべてが燃え尽きたあと、彼女の願い通り、僕は灰の一部を空へ向かって撒いた。

 風が彼女を絡め取り、空へと攫っていく。

 僕は竜体に変じ、縋るようにそれを追った。空へと高く舞い上がる。


 冷たい風の中に一筋、暖かな流れを感じて、僕は目を閉じた。

 ああ、彼女だ。彼女が僕を抱いている。

 ゴウゴウと鼓膜を塞ぐ風の音のなか、彼女の囁く声が聞こえた気がした。


 ――『ね、ロマンチックだと思わない?』





お読みいただき、ありがとうございました!

※送り火とは本来、「お盆に迎えたご先祖様の霊を、期間終了後に再びあの世へ送り返すために焚く炎」のことらしいのですが、ここでは亡くなった方の魂を天へ送り出すという意味で使っています。


誤字脱字は見つけ次第修正していきます。また、投稿された内容は後日改訂されることがあります。


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