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自称・未来人の幼馴染  作者: 千夏ケイ


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第51話 運命の日②

「ひろ、くん……」


 俺の家のリビングで、祐奈が泣きそうになっている。ただ、その背丈はかなり小さい。まるで幼稚園児だ。そんな祐奈の隣に座っている俺もまた、祐奈と同じくらい小さい。

 そういえば……祐奈は昔、俺を見るだけで泣いてたっけ。急に泣き出すから困った記憶がかすかにある。

 

 こんな思い出そうとしても思い出せない記憶を引っ張ってくるってことは……これは夢だな。そもそも、現実に人の背丈を縮める薬とかはないし。夢じゃないとおかしい。


「また会えた……!」

「そりゃ会えるだろ。近所に住んでるんだし」


 俺の意思と関係なく、口から言葉が発せられる。なんてことを言ってるんだ、俺は。ノンデリ過ぎやしないか?

 ……まぁ、この時は祐奈が未来から来た、なんて信じちゃいなかったから、仕方ないのかもしれないけど。


「……嬉しいな」

「何が?」

「こうやってひろくんに会えることが」

「……? いつでも会えるよ?」

「ふふっ、そうだね。今はいつでも会えるよね。でも——」


 祐奈が首を振って、自らの言葉を遮る。それだけでは足りなかったのか、両手を口元まで持っていき、物理的にぎゅっと口を覆った。


「……どうしたの?」

「な、何でもないっ! 忘れて!」

「うん、わかった……?」

 

 当時の俺は、幼馴染が何を言っているのか全然わからなかった。でも、祐奈の正体と俺の運命を知った今ならわかる。彼女はきっとこういいたかったのだろう。


 ——こうして一緒にいられるのは奇跡なんだよ、と。


 人はいつか死ぬ。親はもちろん、恋人や友人、昔から一緒にいる幼馴染だって、例外じゃない。数秒前まで元気でも、それは数秒後も元気なことを保証していない。電球のフィラメントがように、死は唐突に訪れる。だから、一緒にいられることに感謝しなくちゃいけない。


 そして、祐奈にとって俺は一度死別した存在だ。ただでさえ一緒に時を刻めるだけでも凄いことなのに、永遠の別れをしたはずの人と普通に話せているのだから、それは奇跡としか言いようがない。


「……ねぇ、ひろくん」


 祐奈の瞳はまだ涙で光っている。それでも、彼女は俺に笑いかけ、


 「私たち、これからもずっと————」


 何かを言った。視界……と言っていいのだろうか。夢の世界がぼやけ、輪郭を失っていく。夢から覚める前に何とか聞き返そうとするが、やはり俺の口は思うように動いてくれない。夢の世界がどんどん歪み消えていく。それでも、最後まで祐奈の笑顔だけはその可憐さを保っていた。



「——くん。ひろくん、起きて。朝だよ」

「んあー……あっ!」


 身体が揺さぶられて、俺の意識が現実世界に戻ってきた。適当に返事をしようとしたところで——俺は寝る前のことを思い出す。

 恐る恐る目を開けると、そこには俺の想い人……と思われる顔があった。祐奈の顔、と言い切れないのは、目覚めたばかりで視界がぼんやりしていることもあるが、超近距離過ぎて顔全体がよく見えないからだ。少し唇を動かせばキスできる。そんな朝から心臓に悪い距離間だった。


「ち、近く……ない?」

「うん、近いね。密着してるし。ふぅ……」


 祐奈の吐息がすべて顔に当たる。俺を冷ますことなく、むしろ熱くなった顔に意識が集中しそうになるが……それをなんとか抑えて身体全体の感触を確かめた。すると、祐奈の言う通り、胸や腰、足に至るまで彼女に隙間なく絡んでいるではないか。


「……離れろよ」

「ふふっ、それは無理かな」

「なっ、どうして離れたくないんだ! 恥ずかしくないのか!?」

「もちろん恥ずかしいよ? 私の顔、今見せられないくらい赤くなってると思うし。でも——離してくれないのはひろくんだから」


 そんなわけない、と言おうとして、ふと先ほどのことを思い出す。


(……そういえば、俺の手ってどこにあるっけ?)


 柔らかなものに触れている感覚はある。しかしこれは、祐奈に触れている部分すべてに言えること。問題はそこじゃない。どの部分に触れているか、だ。

 キスしないように注意しながら、俺は腕がどこにつながっているか目で辿る。すると、俺の腕は祐奈の背中の方へ消えていってしまった。

 これはつまり……俺、祐奈に抱き着いている!?


 その事実を認識した衝撃で、腕に力が入ってしまう。その勢いで祐奈とさらに密着度が増し——ついには唇が祐奈のものと触れてしまった。


「んっ……、ひろ、くん……?」


 最初は唇をこわばらせていた祐奈だったが、徐々に力が抜けていき、見た目通りの柔らかさを堪能できるようになった。


「ぷはっ。はぁ……は、ぁ……」

「息、できないな……」

 

 時が止まったような、あるいは駆け抜けていったようにも感じられたキスは、呼吸という邪魔によって終わりを迎える。空気を求めるあまり、俺と祐奈はお互い勢いよく離れた。手など、まだ祐奈に触れている部分はあるが、密着度は大幅に低下。離れた部分に祐奈の温かみとは程遠い空気が流れ込んでくる。


「ひろくん……キス……」

「……俺からするのは初めてだよな」

「うん。初めて……だね。ビックリしたけど、嬉しいよ」


 祐奈は頬を指で掻いている。顔の赤みも凄いことになっている……が、これは俺もだろう。だって、顔に今まで経験したことないくらいの熱を感じているのだから。


 これまで、祐奈からのキスは何度もあった。でも、俺からはキスしていない。いや、していない、というのは少し良く言いすぎか。単にする勇気が出なかっただけなんだから。

 しかし、ついに俺から祐奈にキスをした。…………驚いたことによる事故みたいなものだけど……それでも、俺が祐奈の身体を引き寄せて唇を奪った、という事実は何も変わりない。祐奈も認めてくれているし、これは紛れもなく俺主導のキスなのだ。


「……起きるか」

「そうだね、朝だもんね」


 むくり、と俺がまず起き上がる。が、祐奈はまだ寝転がっているままだった。


「起きるんじゃないのか?」

「起きるよ? だから……ね?」


 祐奈がこちらに向かって手を伸ばしてきた。起こして、ということだろう。その要求に俺は素直に従い、手を取って引っ張り起こした。


「えへへ、ありがとっ!」

「ま、まぁ……このくらいはな」

「ひっぱりあげられて思ったけどさ、ひろくんの手……やっぱり安心するね」


 祐奈は俺の手を放さず、むしろニギニギして遊び始めた。なんだ、このかわいい生き物は。今すぐ抱きしめよう。さっきまで抱きしめて寝ていたというのに、まだ温もりが足りてないし。


「わわっ、また抱き着くの!?」

「いいだろ? 今日は休みだし。出かける予定もないんだから、思う存分祐奈を感じていたい」


 しかし、そんな怠惰と堕落を天は見逃さない。抱き着いて数秒後、スマホが着信を知らせる音を鳴らした。


「誰だよ、抱き着き始めたばかりだってのに……ってタツ……?」


 発信元を確認すると、そこには俺の友人の名前があった。彼が電話なんて珍しい……というか初めてのことだ。普段はメッセージで事足りるし。

 まぁ、今日は運命の日。特別な日だからな。とりあえず出るか。


「もしもし? どうした?」

『おお、宏樹! 良かった、生きてたか』

「まぁな。今のところ命の危機は……呼吸困難くらいしかない」

『呼吸困難!? 大事件じゃないか! おい、大丈夫か!?』

「大丈夫だ。だから、こうして電話にも出られてるんだし」


 さっきのキスは本当にギリギリまでお互い離さなかったからな。危なかった。まぁ、キスで死んでたまるかって話ではあるんだが。


「……っ!」

「いてっ!」


 顔を赤らめた祐奈に脇腹を突かれた。普通に急所なのやめてほしい……けど、気持ちはわかる。タツは気づいていないが、これはキス報告みたいなものだし。


『……大丈夫か?』

「あー、うん。多分な。まぁ、命にはかかわらないし、気にしないでくれ」

『そうか? ならいいんだけどな……』


 不思議そうな声を出しているタツには申し訳ないけど、少し面白い。こうしてふざけられるのも生きているからなんだし、ここは許してくれ。


「そういえば、何の電話だ? 生存確認か?」

『あぁ、そうだった! 生存確認もあるが、それだけじゃない』


 タツは急に早口になって、


『今日は一日中、東川さんにピッタリくっついていてくれ! それじゃ!』


 プツリ、と電話を一方的に切った。


 くっついていてくれって……どういうことだ?

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