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自称・未来人の幼馴染  作者: 千夏ケイ


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第48話 会議は踊る、されど進まず

「……さっ、チョコを食べて色々考えましょ! 先輩方はひろくんの話をしてたんですよね?」


 関口の告白の後、少しぎこちない雰囲気を破ったのは彼女自身だった。


「そうだけど……なぁ?」

「多分、宏樹と俺は同じ意見だな。さすがに1回めちゃくちゃ慰めるターンは必要だろ」


 関口の目にはまだ涙がたまっている。見たところもう決壊寸前で、一度流れたらしばらくは止まらない量だろう。


「こ、この涙はいいんですっ! 気にしないでください!」


 関口が服の袖で涙をぬぐった。指に貼られた絆創膏と相まって、とても痛々しい。

 

(彼女のこの姿は俺が作ったんだよな……。でも、告白を了承するわけにはいかないし……)

 

 俺は関口のことが好きだが、それは恋愛的な意味じゃない。あくまで友人として、後輩としての好きだ。恋愛的な意味での好きは祐奈にしか抱いていない。俺の心を奪えるのは祐奈だけなのだ。それなのに、関口と付き合うわけにはいかない。そんなこと、祐奈と関口、両方に対して失礼だから。


「いいんですっ……! 私は先輩のそばにいられるだけで……」

「……………………」

「だから、考えましょ? 先輩が死んじゃうなんて、絶対嫌だから……!」


 関口の袖がようやく彼女の目から離れる。ぬぐった甲斐あって決壊の危機は免れたが、少しづつじわじわとたまり始めている。しばらくの間、ぬぐってはたまりのイタチごっこが続くかもしれない。


「……そこまで言うなら、一緒に考えるか。祐奈もそれでいいか?」

「…………うん」


 力なく祐奈が頷いた。

 そうだよな。俺と祐奈が両想いなせいで関口は恋を諦めなきゃいけなかったんだ。俺ですら色々な感情が混ざって複雑な気持ちなのに、同性の祐奈の心境は俺には推し量ることすらできないくらいだろう。


「祐奈先輩、私は大丈夫ですから」

「翼ちゃん……ごめん——」

「おっと、謝るのは禁止ですよっ! 謝ったら私、祐奈先輩より先に先輩を襲っちゃいますからね!」

「……え、俺?」


 関口が俺をビシッと指さした。この文脈での襲うは怖いからやめてくれ。いつの間にか30歳到達時に魔法使いへジョブチェンジできる資格を失っていた、とかになりかねん。そういうのは全てが終わって祐奈と付き合えた後、ロマンチックにやりたい。

 ……さすがにチェリーボーイすぎる考えか?


「そ、それはダメ! いくら翼ちゃんでもはじめてだけは……!」

「でしょ? だったら、祐奈先輩は謝らないでください。そしたら私、2番目で満足していますから」

「……わかったよ」


 まだ少し気まずそうだが、祐奈に少し笑顔が戻った。

 というか、2番目ってなんだよ。俺はハーレム系主人公じゃないんだぞ。そういう相手は祐奈だけでいい。


(にしても、関口はそこまで——)


 体を許してもいいと思えるくらい俺のことが好きなのか。……やっぱり嬉しいな。

 いや、なに喜んでいるんだ。日本では重婚は認められていない。そういうことをしたって責任はとれないだろ!


 俺の頭の中で男の本能と理性がぶつかり合っている。人間は理性ある生き物。理性の勝利をここは願いたい。


「ではっ! 改めて先輩を助ける方法を考えましょう!」


 いつものようなハイテンションを見せてくれる関口。空元気なのは丸わかりだが、それを指摘するほど俺は馬鹿じゃない。


「と、その前に。いつまでも立っているわけにはいきませんよね。先輩、お隣失礼します!」

「あぁ、どうぞどうぞ」

「……! 私も座るね!」


 俺の隣に腰を下ろした関口に対抗して、祐奈も俺の反対隣に座る。罪悪感はあっても、やはりこういった部分は譲れないのだろうな。祐奈からの好きを強く感じられて、俺の心はどんどん満たされていく。


「え……なにこれ。面接……?」


 反対に、困惑の表情を隠せないのはタツだ。そりゃそうだろう。タツが座っているのは俺の向かい。つまり、机を挟んで3対1の状況なのだ。


「……なんかごめんな」

「うん、まぁ……別にいいんだけどさ」


 苦笑いでタツが答える。


「先輩、口を開けてください!」

「え? うわっ……って、クッキー?」


 何のために、と聞く前に口の中に何かをねじ込まれた。噛んでみると、その正体はさっくりとした触感とチョコの甘味が見事にマッチしたチョコチップクッキーだった。

 

「はいっ! チョコチップクッキーです! どうです? 美味しいですか?」

「……めちゃくちゃ美味いな。よくこれを1人で作れたもんだ」


 無理やりねじ込んだ犯人はドヤ顔で胸を張っている。危ないことをするなと文句の1つでも言ってやりたいが、美味しかったので許してあげよう。おいしいお菓子はすべてを解決するのだ。


「私のもっ!」


 俺たちのやり取りを見た祐奈は箱から1口大のガトーショコラを取り出し、


「食べて!」


 クッキーを飲み込んだばかりの俺の口に入れてきた。

 思いがけず美少女2人からあーんしてもらったことになるが、そこまで胸は高鳴らない。俺の部屋。友人が見ている前。ほぼ強制的に口に入れられた。今起きたことのうち、どこをとってもロマンチックさがカケラもない。これでどうやってときめけというのだ。

 

 にしても、さっきから祐奈は後手後手だな。関口の告白というイレギュラーがあったとはいえ、今までこんなに引けを取るなんてことはなかったのに。


「祐奈、美味しいんだけどさ……大丈夫か?」

「だ、大丈夫だよ。私は信じてるから……!」

「信じてる……? 何を言って——」


 祐奈の顔は少し焦りの色が見える以外、いたっていつも通りの美しさだ。体調が悪そうにも見えない。それなのに、会話になっていないような返答をしてくる。


「私、運命が変わってるって信じてるから……!」


 ……そうか。納得がいった。今日はバレンタインデー。運命の日まであと1ヵ月。もう時間はほとんどない。

 祐奈は……怖がっているんだ。俺以上に。


「大丈夫だって。そのために話し合っているんだろ?」

「そうだけど……!」

「……まぁ、不安に思うのも無理ないと思うぞ。宏樹は東川さんの目の前で2回も轢かれているんだからな」


 つまり、トラウマみたいになっているってことか。


「あれ、でもその話だとさ、タツはどうなんだ?」

「残念なことに俺はもう慣れてしまった。宏樹には悪いけど……数えきれないくらいループしているとね、どうしてもこうなる」

「…………」

 

 真顔でタツはどこか遠くを見る。その虚ろな瞳にはいったい何が映っているのだろう。

 さっきは凄いと思っていたループだが、やはり怖いものだと思った。疑似的な不死でも人の心はなくなってしまうんだな。


「えっ! 朝隈先輩って未来人なんですか!?」

「……あっ」


 そっか、そういえば関口は知らなかったな。

 関口にタツのことを説明してやると、ものすごく驚いていた。さっきまで祐奈に恋愛でリードをとっていた姿はどこへやら。開きっぱなしの口からは強者感などみじんも感じさせなかった。


「というか、また話が脱線してるよな」

「……そうだよね。早くひろくんのことを話し合わないと」

「ですですっ! これからも先輩と一緒にいられるように考えましょう!」


 チョコも食べたし、糖分補給もできた。そろそろ本題に戻るか——


「俺、チョコこれだけ……?」

「そうだよ。朝隈くんも早く食べなよ」

「……俺にもガトーショコラかクッキー少しだけ——」

「絶対ダメだよ」

「私もダメです! これは先輩のために私が——」


 と思ったらまた脱線し始めた。


 結局、今日は何の進展もなかった。あと1ヵ月……本当に大丈夫だろうか。実体がない運命のことだから不安に思ったり、焦ったりしないようには心掛けているけど……。うん、少し怖くなってきたな……

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