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自称・未来人の幼馴染  作者: 千夏ケイ


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第47話 甘い日の涙

 タツが協力を申し出てくれてから約2週間が経った。何度もタイムループを繰り返して経験豊富なタツの力があれば、一気に運命を変えられる……と思っていたが、さすがにそう上手くはいかなかった。放課後、2人して俺の部屋で頭を抱えるばかりである。


「タツ、何か思いついたか?」

「全く。俺も直接助けようとするのは初めてだしなぁ……」


 うーん、という低いうなり声が耳に入る。どうやら頭を抱えて諦めるのではなく、しっかりと考えてくれているらしい。


「せめて、手がかりとかあればいいんだけどな……」

「手がかりねぇ……1週目と今の違いくらいしかないよな。同じような轢かれ方をしたのに、なぜか生きているっていう結果の違いしか」

「同じようなって言っても、日付が違うからなぁ……。ホワイトデーじゃないから死ななかったってだけの可能性もある」


 タツが冷静に分析をする。……いや、頭をわしゃわしゃと掻き出したぞ。冷静じゃないかもしれない。


「おい、大丈夫か? 摩擦でハゲるぞ」

「それは大丈夫。何度ループしても俺のフサフサのままだから。俺は髪のことを一切気にせず生きられるんだ」

「……タイムループってすごいな」


 世の中の髪の毛で悩んでいる人や不安に思っている人が聞いたらどう思うだろうか。慢心ではなく、経験に基づくこの余裕。羨ましいだろうな。

 ……まぁ、俺にその気持ちはわからないんだけどな。まだ髪で悩む年齢でもないし、そもそも悩む時にはすでに死んでいるのだから。


「そうか? 世の中のほとんどはすでに経験済みって、生きてて全然面白くないぞ」

「あー……なるほどな。目新しいものがなさすぎるってことか」


 どんなものであれ、新しいものは人を興奮させる。これで何ができるようになるんだろう、などのワクワク感で心を満たしてくれる。

 でも、タイムループしているタツはそういった感情になれない。それの行く末まで全て知っているから。言うなれば常にネタバレ状態で生きているのだから、そりゃ楽しくないだろう。


「でも、今は新しいこと盛りだくさんでめちゃくちゃ楽しいぞ」


 顔をこちらに向け、にかっと笑顔を見せるタツ。かと思ったら、その笑顔はだんだんと消えていった。


「あぁ、いや。楽しいっていうのは変な意味じゃなくて——」


 今話しているのは俺の死の運命に関すること。そんな話題なのに「楽しい」は不謹慎だと気付いたのか、言い訳を始めた。

 別に俺は不謹慎だとか感じなかったのでいいんだけど、こういうところに彼の性格の良さが出ている。


「謝るなって。俺の命のことなのにここまで考えてくれるだけで嬉しい」

「そりゃ考えるだろ。友達なんだから」


 さらっとタツは言っているが……友達、というだけでここまでしてくれる人はなかなかいない。だって、結局は他人事だから。


「……俺は良い友達を持ったな」

「そうか? まぁ、そう思ってくれるならありがたいな」


 心の底から感謝しているというのに、タツはあまりピンと来ていない様子だ。友達の重大なことに関わると決めたらとことん関わる。それが彼にとっての普通なのだろう。本当に、良い友達を持ったものだ。ぼっちだとかがどうでもよくなる、俺にとってはもったいないくらいの友人だ。


「じゃ、その友達関係を続かせるためにもっと考えるか……って言いたいところだけど、ちょっと疲れたな」

「そしたら、甘いものでも食べるか。糖分補給にもなるし」

「おっ、いいな! って言っても、甘いものなんてあるのか?」

「今はないな」

「じゃあ、ダメじゃん! 仕方ない、2人コンビニでも行くか」


 ため息をついて、タツは立ち上がろうとする。が、俺は服を引っ張ってそれを阻止した。


「なにすんだよ。甘いもの食べるか、って言ってたの宏樹だろ?」

「まぁ、待て。買いに行く必要はないんだから。だって——」


 瞬間、階段を駆け上がる音が聞こえる。来た来た、毎年恒例のイベントが。

 今日は2月14日。バレンタインデー。俺が唯一チョコをもらえる日がやってきた。

 

 って……あれ? なんか音が2つある……?


「ハッピーバレンタインデー! ひろくん、今年もチョコあげるね!」

「先輩っ! 今年は私のチョコもどうですか……?」


 箱を持って勢いよく部屋に入ってきたのは祐奈だ。バレンタインデーにこうして突撃してくるこの光景は、最早毎年の風物詩となってしまった。突撃してくるなよ、という思いと、チョコもらえ嬉しい、という思いが交差して複雑な感情が生み出される。まぁ、最終的には嬉しさが勝るんだけどな。男だし。

 しかし、今年は関口もなのか。彼女がチョコをくれるなんて初めてのことだ。それも祐奈と一緒に突撃してくるなんてあまりにも予想外すぎる。

 とはいえ、そんな驚きとかはもう気にしていない。今は毎年祐奈の1個止まりだったチョコの数が、ついに2倍となったことに胸が高鳴っている。


「2人とも……! ありがとう!」

「祐奈先輩の家で作ってきたので、どうぞ食べてください!」

「一緒に作ったのか?」

「違うよ、翼ちゃんは1人で作りきった。私はただ見てただけ」


 そうなのか。キャンプの時は俺と同じくらの料理スキルだったのに……成長したんだな。


「あのー、ちなみに俺は……?」


 蚊帳の外に置かれていたタツが気まずそうに会話に入ってくる。そういえばそうだった。甘いものを食べるって話だったな。


「朝隈くんにはこれあげる」


 祐奈がタツに手渡したのは、コンビニで売っている小さなチョコ1個だけ。なんかちょっと可愛そう……って思ったが、そういえばタツは学校で数えきれないほどのプレゼントをもらっていたことを思い出し、そんな同情は瞬時に消え失せる。いくら友達でも、バレンタインの格差による嫉妬はどうしてもあるのだ。


 ただ、あまりにも小さなチョコ1個だけの衝撃が大きかったのか、タツは固まってしまった。手の込んだプレゼントをたくさん貰っていたタツにとって、ここまでついで扱いされるというのはなかなかないのだろう。

 だからだろうか、タツはギギギと音が鳴りそうなほど固い動きで関口のほうを見た。


「ひぃ……っ!」


 その動きを見た関口は短く悲鳴を上げた後、何も喋らなくなってしまった。そして、ブンブンと首を横に振っている。恐らく、何も用意していないのだろう。


「俺、嫌われてる……?」

「嫌うとかの前に、2人はお互いのことよく知らないだろ。普通それで貰えるわけがない」

「……確かに。いつも面識のない女子からも貰うせいで感覚がズレていたな」


 なんだ、コイツ。その発言は俺みたいな持たざる者への宣戦布告ともとれるぞ。バレンタインデーの男子は怖いんだからな。


「それで、なんですけど……。先輩、チョコ受け取ってくれませんか……?」

「当たり前だろ。貰わない選択肢がない」

「本当ですか!? ありがとうございます!」


 慕ってくれる可愛い後輩からのチョコなんて断る人のほうが少ない。だというのに、関口はキャーキャー言いながら飛び跳ねている。その手を見ると、指に絆創膏がいくつか貼られていた。


「ひろくん、私のは? 翼ちゃんから貰ったからいらない?」

「はぁ? 何言ってんだよ。ありがたく貰うに決まってるだろ。祐奈からのなんだし」

「……そっか。やった」


 なんて馬鹿げたセリフを言っているのだろうか。好きな人からのバレンタインプレゼントを逃す選択肢なんて、この世に存在していない。貰う一択、それ以外はあり得ないのだ。


「ちなみに……意味とかってある? 本命とか、義理とか」

「私はもちろん本命だよ。ひろくんにしかあげてないし」


 好きな人からの本命チョコ。なんて最高の日なんだ。いまから歓喜のパーティを開きたいくらいだ。

 にしても、タツにあげた小さなチョコ1個はバレンタインのプレゼント換算すらされていないんだな。ついで扱いすらされていなかったのか。……ま、あれだけチョコをもらっているんだし、これくらい良いだろ。


「私は……好きと感謝の気持ちを込めましたっ……! 月高、合格したので!」


 おお、合格したのか。それは喜ばしいことだ。努力が必ず報われるとは限らないけど、彼女の努力は何としてでも報われてほしかったから本当に良かった。


「そうか! それはおめでとう——って、好き……?」


 合格報告に隠れていたけど、確かに好きって言ってたよな? その証拠に、タツの恐怖から脱した関口は顔を赤らめ、もじもじとしている。合格報告と感謝だけならこうはならないはずだ。


「あの、好きっていうのは……恋愛的な?」

「はい……。で、でも! 先輩には祐奈先輩がいるってわかってますから!」


 腕をブンブン横に振る関口。そうか、慕われているとは感じていたが、俺は恋愛的に好かれていたのか……


「ですけど……先輩のことが大好きで、一緒にいられるだけで嬉しくなっちゃう後輩がいるってことは、絶対忘れないでくださいねっ!」


 関口は笑っていた。口角の上がり方も、眉の動きも、いつもの元気な笑顔と全く同じだ。ただ1つ、目に少し涙がたまっていることを除けば。

 失恋前提での告白がいかに苦しいものか、俺は想像すらできない。そんな経験が俺にはないから。でも、無理してでも俺に罪悪感を抱かせないために笑ってくれる彼女のことを俺は命尽きる瞬間まで覚えていようと思う。彼女が立ち直って新たな恋を見つけるまで、望む限りそばにいてあげようと思う。

 それが、俺のことを慕ってくれた後輩に対してとれる最後の責任だ。

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