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自称・未来人の幼馴染  作者: 千夏ケイ


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第44話 お見舞いは入院生活のオアシス

 と、意気込んだはいいものの……


「わっかんねぇ……」


 新年を迎えて約1週間後。俺は1人きりの病室で頭を抱えていた。少し頭が締め付けられるような感覚を覚え、目を瞑ってしまう。ただ、それは頭部外傷によるものではない。普通に考えすぎているだけだ。

 ここまで1日中何かを必死に考え続けるのは高校受験期以来かもしれない。でも、そうなるのも仕方ない。死の運命からくる恐怖さえ邪魔しなければ祐奈と付き合えるのだから。それがわかった今、俺のやる気はマックスだ。頭が痛いから、なんて言っていられない。


 その祐奈だが、今はそばにいない。それもそのはず。今日は俺たちの通う月高の始業式なのだから。さすがの祐奈でも休むわけにはいかない。毎日ずっと朝から夕方までそばにいてくれた祐奈がいなくなるのは寂しいけど……まぁ、1人でじっくりと考えられるチャンスと捉えるか。


 痛む頭を押さえ、思考を続けようとした——その時だった。


「どうしたんですか? 頭、痛みますか?」

「まぁな。ちょっといろいろ考え事をしてて——……って、は?」

「考え事ですか……。もしよければ、私が話を聞きましょうか?」


 この病室は俺1人しかいない個室のはず。なのに、なぜか女の子の声が聞こえる。


(お化けか……?)


 いや、そんなわけないか。今は昼過ぎだし。お化けが出るにはまだ早い。それに、お化けしてはずいぶんと親身に話を聞いてくれそうなことを言っていた。

 

 恐る恐る目を開けてみると——


「さぁ、何でも話してくださいっ! 私、話を聞くのは得意なんです!」

「いや、これは俺が解決しなきゃいけないことだから、大丈、夫……」


 そこにいたのは、俺を慕ってくれる唯一の後輩、関口だった。それだけならお見舞いだってわかるんだけど……なぜか中学校の制服を着ている。中学時代に何度も見た制服だが、彼女はスカートを折っているようで、本来の長さなら見えない健康そうな太ももまで見えてしまっている。


「……なんで制服?」

「先輩の高校と同じで、今日は始業式なんですよ! だから、そのまま来ちゃいました!」


 ちょっとテンションがハイになっているのか、彼女はその場でくるくると回りだした。短いスカートだから、寝ている体勢のままだと中が見えてしまいそうだ。

 男としてはもちろんラッキーで嬉しいが……やめてほしい。外でもこんなことをしているのかと思って心配になるから。


「関口、女の子なんだからそうやってスカートひらひらさせるのは良くないぞ。誰が見ているかわからんからな」

「え? 私がこんなことどこでもやると思ってます? 先輩の前だけ、ですよっ!」


 起き上がって注意したが、特に効果はない。唇に手を当て、いたずらっぽく関口は笑った。純粋だった後輩は、いつの間にか小悪魔になっていたようだ。その誘うかのような表情に思わず胸が高鳴る。

 ……いや、ダメだろ。俺には祐奈がいるんだぞ。まだ付き合ってないけど!


「俺にだって良くないぞ。下着見えそうだったし」

「下っ……! ま、まぁ? 問題ないですけど? むしろ……見ます?」


 下着、という言葉に混乱したのか、とんでもないことを言い出した。スカートをたくし上げようとする関口の右手を、ベッドから身を乗り出して掴んで止める。

 無理に動かしたせいで鎮痛剤を飲んでいても少し痛むが……これは後輩の今後のためだ。正気に戻った時、きっと恥ずかしくて死にたくなっちゃうかもしれないから。せめて見せてさえいなければ、ダメージは抑えられるだろう。


「危ないところだった……」

「ご、ごめんなさい……っ!」


 どうやら俺が手を掴んだことで少し冷静になってくれたようだ。左手はフリーのままだから、そのままたくし上げを続行される可能性もあった。なんとか落ち着いてくれて助かった……


「どうしたんだよ。今日、様子がおかしいぞ?」

「…………先輩が大事故に遭って入院してるって今日知ったので……」

「えっ、知らなかったのか!? てっきり祐奈が連絡していると思ってた」


 確かに今までお見舞いに来なかったが……それは高校入試が近いからだと思っていた。入試本番までもう1ヵ月もないし。まさか知らなかったなんてな……


「あれ? 私の話してる?」


 人の噂をすれば何とやら。祐奈の名前を出した瞬間に、俺の病室に本人が入ってきた。彼女もまた、始業式帰りなのか制服姿だ。こちらは月高の制服だけど。


「いや、どうして関口に俺のこと伝えていなかったんだ? そのせいで情緒不安定になってるぞ」

「受験直前の翼ちゃんに余計な心配ごとを増やしたくなかったんだよ。でも、バレちゃった」


 舌を少し出して、テヘッとする祐奈。……テヘペロも可愛いな。


「俺が事故のことをちゃんと伝えられていたらな……」

「その指じゃ無理だよね。包帯ぐるぐる巻きでスマホも反応しなさそうだし」

「そうなんだよな……。直接触れないと使えないからな、スマホは」


 包帯が巻かれた指先を見る。これがあるせいで、入院してからというもの、ずっとスマホを使えていない。娯楽といえば、テレビくらいなものだ。リモコンのスイッチは包帯をしていても押せて本当に良かった。


「先輩……痛くないんですか?」

「鎮痛剤があるからな。飲んでいるときは大丈夫だ」

「じゃあ、飲んでいないときは……?」

「もちろん痛い。でもな、最近は痛みも少し収まってきたんだよな。先生ももう少ししたら鎮痛剤をやめていいかもって言っていたし」


 全治2ヵ月。これが当初言い渡された診断だった。しかし、若いからだろうか。それとも、あまりの娯楽のなさでずっと寝て回復に努めたからだろうか。治りは以上に早く、1月末の退院もあり得るくらいになってきたのだ。


「でも、早く退院したら大変だよ?」

「はぁ? なんでだよ。さっさと退院するに越したことはないだろ」


 こんな病室にいつまでも居たくない。天井から床まで真っ白なこの部屋はあまりにも無機質で、居心地がいいとはお世辞でも言えない。娯楽が少なく、気分転換だってできないし。頭が痛くなるほど考えないといけないのは、この部屋のせいでもあると思う。


「そんなことないよ。学年末試験があるでしょ?」

「……あっ」


 2月の下旬に行われる学年末試験。本来の入院期間ならギリギリ受けなくても大丈夫だったかもしれないが……1月末の退院となると、確実に受けなければならない。1ヵ月授業に出られないのにもかかわらず。


「どうしよう……」


 これは普通に詰んでいる。完璧な手ごたえがあった2学期の期末試験ですらケアレスミスであのザマなのだ。準備不足で挑めばどうなるかなんて、想像しなくてもわかる。


「大丈夫。私がいるよ」

「祐奈……まだ俺に力を貸してくれるのか?」

「もちろん。私はひろくんを助けるために来たんだから」


 持つべきものはやはり幼馴染だ。ケアレスミスでせっかくの教えを無駄にした俺を見捨てないでくれるとは……


「あっ、でも翼ちゃんの受験が終わるまでは片手間になっちゃうけど……良い?」

「良いに決まってるだろ。そっちのほうが大切なんだから……って、片手間?」

「うん、片手間。だって、ひろくんが退院するまでここで勉強することにしたから」

「そうです! 祐奈先輩を独占するわけにはいきませんから!」


 独占、か。関口は受験生なんだから独占したって俺は文句をつけないのに。そもそも俺のものじゃないしな。


「しかし、だな。ここで集中できるのか……? 2人で勉強する机すらないぞ?」

「なかったら——」

「——持って来ればいいだけです!」


 祐奈の言葉を関口が続ける。この見事なコンビネーションに、俺は少し気圧されてしまった。まぁ、2人が良いならそれでいっか。祐奈たちに会えるのは嬉しいし。


 その翌日から、宣言通り2人は放課後、俺の病室に集まるようになった。

 面会時間も夜遅くまであるわけじゃないので、来たところであまり勉強時間は取れないのだが……それでもいいらしい。続きは祐奈の家でも出来るからだそうだ。


 つまり、忙しい中、俺にも勉強を教えるという理由をつけてまで、2人は会いに来てくれているのだ。俺が寂しくないように。


 俺を好きだと言ってくれた幼馴染といつまでも慕ってくれる後輩。俺は……2人ともっといたい。あと数ヵ月で死ぬなんて絶対に嫌だ。


 早く見つけないといけない。運命を変える何かを。運命を回避する方法を。


 タイムリミットは刻一刻と迫っている。

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