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自称・未来人の幼馴染  作者: 千夏ケイ


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第43話 運命を解き明かせ

 人はいつか死ぬ。親も、友も、いずれ死ぬ。そこに例外はない。どんなに素晴らしい功績を残した人も、卑劣な悪事を犯したまま社会から逃げ続けている人も、等しく死はやってくる。当然、俺自身もだ。


 でも、それはクリスマスの日ではなかった。俺は今も生きている。あんなに撥ね飛ばされたのに、骨折すらしていない。頭部外傷による意識不明もすぐに回復したしな。裂傷と打撲のせいで全身痛いが……そんなの命に比べたら安いものだ。それに、鎮痛剤で抑えられるし。


 だというのに、深刻そうな表情をしている祐奈。起きた時からずっと頬に触れている彼女の手も、ゆっくりと動き続けている。まるで、何かを確かめるように。


「なぁ、祐奈。どうしたんだよ。今日は新年だぞ? 笑ってくれよ」

「ひろくんがこんな状況なのに笑えるわけないよ……」

「笑えるわけないって……こうなったのは祐奈の責任じゃないだろ」


 悪いのは信号無視をした挙句、俺をひき逃げした運転手なのだから。ちなみに運転手はすでに捕まっている。警察の人が言うには居眠り運転をしていたそうだ。

 あとは……俺も少しは悪い。法的には何も問題ないが、青信号だからと言って左右確認もせず全速力で横断歩道に突っ込んだのは良くなかった。近所の小学生ですら左右を見て渡っているのに。

 その点、祐奈は何も悪くない。加害者でも被害者でもない、ただの目撃者なのだから。


「それでも……私がデートしない選択をしてたらこんなことには……」

「おいおい、それはナシだろ。轢かれるよりそっちのほうが辛い——」

「私はこっちのほうが辛いよっ……!」


 俺の言葉を遮った祐奈の激情が部屋全体に響き渡る。その叫びが契機のなったのか、彼女の目からは液体が溢れ出てきた。柔らかそうな頬を伝って落ち、俺のシーツに染み込んでいく。


「ひろくんが轢かれたとき、私が何を思い出したかわかる!? 1週目のホワイトデー……運命の日のことだよ! 私の目の前で撥ねられるなんて……まるっきり同じだった!」

「…………そうか」

「あんな惨状はもう見たくない。あんな音はもう聞きたくない。そう思っていたのに……思って、いたのに……!」


 祐奈の涙はその勢いを増すばかり。ついには声にならない声とともにシーツに顔を伏せてしまった。それと同時に俺の頬から祐奈の手が離れる。温かな熱の主を失った頬は急速に冷えていってしまう。

 ……こういう時はなんて声をかけてあげたらいいのだろうか。目の前にいるのは長い時間を共に過ごした幼馴染。性格上、どんな言葉をかけてあげたら喜びそう、とかわかっているはずなのに……何も言葉が思い浮かばない。


(ちょっとデリカシーがなかったな。方向性は違うけど、その大切さはキャンプで学んだだろ。……成長しないな、俺は)


 しかし、まさか俺の轢かれ方が1週目の死因と同じだったとはな。そりゃ、トラウマも刺激される。存在しない責任を感じてしまうのも無理ない。

 俺にできることは、祐奈の頭を撫でることだけだった。トラウマの辛さが和らぐことを願ってゆっくりと。言葉が思いつけない幼馴染を許してくれ、という思いも込めて。

 

 ひたすらに頭を撫で続けること数分。祐奈の涙も止まり、ようやく落ち着いてくれた。


「……ありがとうね、撫でてくれて」

「俺の手ぐらいならいつでも貸す。それしかできないんだからな」

「ううん、そんなことないよ。生きているんだなぁ……って伝わってきたから」


 そりゃそうだ。好きな人に触れられるのは生きている人の特権だからな。死んでしまったら見守ることしかできん。


「にしても、泣きすぎちゃった。私の顔、絶対おかしなことになっているよね……」


 祐奈はスマホを取り出した。恐らくカメラ機能を鏡代わりに使うのだろう。

 だが、今はそんなことはどうでもよかった。俺の目線は、彼女のスマホにつけられている星のキーホルダーに釘付けなのだから。


「ん……? あ、これ? せっかくのプレゼントだしね、一番使うスマホにつけてみた」

「スマホか、確かにいいな……俺もキーホルダーがつけられるスマホケースを探すか……」


 祐奈のキーホルダーから目線を外し、枕元を見る。そこには、彼女と同じ星のキーホルダーがあった。クリスマスの日に、サプライズで渡すはずだったあのペアキーホルダーだ。

 ……まぁ、俺が轢かれたせいで台無しになったんだけどな。


 にしても、どうしてキーホルダーだけ無事だったんだろうな。俺は全身怪我まみれなのに。俺の分と祐奈の分、どっちとも無傷だなんてちょっと不思議だ。普通のアクリル製っぽいから、衝撃で砕けてもおかしくないはずなのに。奇跡としか言いようがない。


 あぁ、これをカッコよく渡して、告白したかったな——


 ……あ、そういえば。俺、祐奈に告白したんだった。轢かれながらではあるけど。


「ゆ、祐奈……? ちょっと、いいか?」

「どうしたの? ……まさか、どこか痛むとか!? 看護師さん呼んでくる!?」

「ち、違う! 鎮痛剤のおかげでどこも痛くない! 話があるだけだ!」

「……話? 何? 2人きりなんだし、何でも聞いてあげるよ?」

「あー、うん。それは、まぁ、ありがとう。それで、話……っていうのは、だな……」


 緊張から言葉が途切れ途切れになってしまう。そりゃそうだろう。この雰囲気、どう考えても告白の返事を聞くようなものじゃない。その場違い感がわかっているからこそ、うまく言葉が出ないのだ。

 でも、一度気になってしまったものは仕方ないじゃないか。このままじゃ夜も眠れない。寝て身体を治さなきゃいけないのに。


「告白……の返事、もらっても良いか……?」

「……………………」

「祐奈……? 何も言わないのはちょっと怖いぞ?」


 祐奈が黙りこくってしまった。ただ、無反応というわけではない。その顔は泣いていた時よりもかすかに赤みを増している。告白、という言葉に照れてくれてはいるのだ。脈なしだったらこんな照れなんてないはずだし、少しは期待していいのかも——


「ごめんね、ひろくん。考えたけど……やっぱり私は付き合えない」

「……そっか。フラれたか……」


 そんな気はしていた。最終的には来てくれたけど、遊びではなくデートになったら突然渋りだしたし。抱き着いたり、キスしたりはしたけど、それ以上の関係になることはなかったし。

 だからこそ、デートで一発逆転を狙ったのだが……それも上手くいかなかった。覚悟はしていたとはいえ……こうしてフラれてしまった。


 しかし、この程度で諦める俺じゃない。だって、俺の告白を聞いてなお、祐奈は毎日お見舞いに来てくれているし。まだチャンスはあるはずだ。


「あ、でもね! これだけは言わせて。私もひろくんのこと、好きだよ」

「……っ! そ、それは……どういう意味で……?」

「もちろん恋愛的な意味。大好き。愛してる。それこそ、タイムリープする程度には」


 フラれたショックと想いを告げられた興奮が俺を同時に襲う。ものすごい寒暖差で、心が風邪をひいてしまいそうだ。


「じゃあ、どうして……?」

「私たちが付き合うと、今度こそひろくんが死んじゃうから」


 はぁ……? ちょっと良く意味が分からない。付き合うのと俺の死に何の関係があるのだろうか。


「話が分からん。どういうことだ?」

「……思い出したくないんだけど、仕方ないか。クリスマスのひろくんと1週目のひろくん、どっちとも私の目の前で轢かれた……って話はさっきしたよね?」

「原因はそこか……ごめん、こんな話させちゃって」

「いいよ、理由がないと納得できないだろうし。……それでね? 実は私、1週目のホワイトデーの日にひろくんと水族館に行く予定だったんだよね」


 水族館、と聞いて少し驚いた。だって、そんなの——


「デート……?」

「そうだよね、デートなんだよ。ひろくんも私もデートって言葉は使わなかったけど……あれはデートになる、はずだったの」

「でも、そこで俺が……って感じか」


 祐奈が頷く。……確かに、それじゃあ付き合うのをためらっちゃうよな。今のところデート2回のうち2回とも俺が撥ねられているんだから。


「付き合ったらさ、当然デートはするでしょ? 好き同士なんだし。……でもね、私はもうデートが怖いの。次こそひろくんを失いそうで」


 祐奈が感じているのは根拠のない恐怖に過ぎない。だけど、運命なんてそもそも実体のないもの。根拠がなくても怖がってしまうのも無理はない。

 

 ……でも——


「じゃあさ、その怖さが消えたら俺と付き合ってくれるのか?」

「……? 怖さが消えたらって……そりゃ、何の障害もなかったら付き合うよ。ひろくんのこと、大好きだし」

「そっか、ありがとう。だったら、何としてでも怖さを消そう!」


 言質はとった。祐奈と付き合うため、これから俺が考えるべきことは決まった。デートという状況、車に轢かれるという過程。どちらも同じ流れなのに、1週目の世界の俺は死んだ一方で、今この世界を生きている俺は一時意識不明程度で済んだ。この結果の違いがヒントになるはずだ。


 待っていろよ、祐奈。その運命を解き明かして、付き合ってもらうからな!

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