第5話 友達に通学路で会うのはなんか嬉しい
どれだけ嫌でも、時間というものは問答無用で経っていく。
俺は今、月高へ向かっている最中だ。
結局、祐奈との勉強会を回避する方法は思いつけなかった。残念極まりない。
俺の考える力が足りなかった?
それは違う……と思いたい。
ここまでの致命傷を負ったのは、あの「ね? ね?」と即答を迫る祐奈の攻めのせいだ。
もっと時間があれば、きっと良い策を思いついていたことだろう……多分。
いや、そうに違いない。
全く、時間というものはなんて残酷なんだ。
「お、宏樹じゃねぇか! おはよう」
ちなみに、この話を妹にLANEというメッセージアプリで送ったら、『バカじゃないの?』とだけ返ってきた。
そんなことはないと反論したが、いまだに返信はない。
それどころか、普通に既読無視されている。
お兄ちゃん悲しい。
「あれ、宏樹? おーい」
祐奈と妹のダブルパンチの影響もあり、ただでさえ重い学校への足取りはさらに重くなっている。
幸いなのは、隣に祐奈がいないことだけ。
もし、今隣にいたら、と考える。
あの祐奈のことだ、この弱っているところに付け込まれるのは間違いない。
お小遣い全部かけたっていい。
ちなみに、中学時代のクラスメイトに「一緒に登校しているの?」なんて聞かれたこともあるが、そんなことはない。
幼馴染で家が近いとはいえ、お互いに用事もあるのだ。毎日一緒に登校なんてできるわけない。
幼馴染が毎日一緒に登校するのは、アニメや漫画の世界だけ。現実と混同しないでほしい。
まぁ、毎日じゃないだけで一緒に登校する頻度は結構高めだが……嘘は言っていないよな、うん。
「おいって。宏樹、大丈夫かよ。」
「おわっ! って、タツか。朝から暴力は良くないぞ」
後ろから小突いてきたのは、タツこと朝隈龍文。
整った顔をしている彼は、勉学に関しては祐奈に負けず劣らずの秀才ぶりを発揮する。
その対価として、運動はからっきしなようだが……それを差し引いても天から二物以上与えられた男だろう。
タツとは月高に入ってから知り合ったのでまだ数か月しかともに過ごしていない。
しかし、なかなか気さくな奴で友人関係になるまでそう時間はかからなかった。
元々友達が少なく、「友達10人できるかな♪」などという意味不明の替え歌を作って不安をごまかしていた俺にとっては実にありがたい存在だ。
「朝からって、いつでも暴力は良くねぇよ。ただ、何度呼び掛けても返事がないからさ」
「マジか、気付かなかった。ごめんな、ちょっと考え事していて」
「……お前も考え事なんてするんだな」
「俺を何だと思っているんだよ」
なんて失礼な奴だ。人を悩みごとのない能天気な奴みたいに言いやがって。たくさん友達ができた暁には、タツと距離を置くことも——
「すまんすまん。お詫びと言っては何だが、俺でよければ相談に乗るぞ?」
「本当か⁉ 聞いてくれるなら本当に助かる」
友達の悩みを聞いてくれるなんて、タツは良い奴だ。俺は生涯、このような友に巡り合えた事を誇りに思うだろう。一生親友でいようぜ。
「ここで嘘ついてもしょうがないだろ。ほら、いいから話してみろよ」
「それもそうか。実はだな……」
俺は、祐奈との勉強会について説明した。
まずは、俺と祐奈が幼馴染というところから、いつか倒したいと思っているところまで。
実は俺と祐奈が幼馴染というのは、学校ではほとんど知られていない。そもそも、誰かに言いまわるようなことでもないしな。
俺たちの関係性を言うと、みんな最初は驚くのだが……どうしたことか、タツは一切驚いていない。
さも当たり前のように話を聞いているタツにこっちが驚かされたが、話を続ける。
次は勉強会のことだ。今回の期末は祐奈のおかげで何とかなったこと。
そして、祐奈との勉強会がまた開かれそうなこと。
俺の悔しさまで全て話した。
素晴らしい友のことだ。きっと、俺の苦難を理解してくれるはず。
しかし、その思いはすぐに打ち砕かれることになる。
なぜなら——
「なんていうか……お前、ものすごい面倒な奴だな」
——話の感想がこれだったからだ。
酷いことを言うなとは思うが、まぁ、一理ある。
というか、百理ぐらいあるのではなかろうか。
なので、この発言は不問にしてあげてもいい。
実際、俺はかなり面倒な奴なんだろう。
友達が少ないのもこれが原因に違いない。
まずはこういった内面をどうにかしないと、一生価値は見えてこないのかもな……
俺の未熟な内面と向き合っていると、タツがため息をついた。
「別によくないか? 超えたい相手から色々教えてもらうのは。漫画とかでもそうだろ? ライバルに打ち勝つため、そいつの技を学ぶ主人公とか、技を学んで師匠を超える弟子とか。いっぱいあるじゃないか」
「それはそうだけどさ……なんていうのかな、俺自身の力で超えなきゃ勝ったことにならない気がするんだよ」
祐奈に教わって力をつけ、その結果祐奈に勝てたとしよう。
しかし、それは祐奈がいなければできなかったことだ。
それはつまり、祐奈の勝利と捉えることもできる、という風に思えてならないのだ。
「本当にめんどくせぇ奴だな。聞いて少し後悔したわ」
タツがものすごい暴言を吐く。
が、後悔したといってもそれは口だけのようで、うんうん言いながら色々考えてくれている。
俺は友達が少ない。
でも、友達のことでこんなに悩んでくれる友人がいるのだから、別にいいんじゃないか?
そう思えた朝の出会いだった。




