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自称・未来人の幼馴染  作者: 千夏ケイ


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第41話 決意を胸に

 長い長いエレベーターで俺たちは昇る。でも、昇っている感じはしない。四方全てがエレベーターの壁で、外など一切見えないからだ。昇っている、と言えるのも、動き出した時に足を地に縛るような感覚があったからだ。


「どんな景色が見えるのかな……」

「俺も始めて行くからわからんな。写真は見たけど……やっぱり写真じゃわからないことってあるし」

「わかんなくたって、ここはひろくんオススメの場所でしょ? 期待、しちゃおっかな——って、もうすぐ着くみたいだよ」


 エレベーター内の電光掲示板の表示が展望台に変わる。同時に、ふわりとした感覚に襲われる。これも到着の合図だろう。この感覚を皮切りに、エレベーターがゆっくりと減速していく。

 その時だった。浮ついた足でよろめかないよう、反射的に握ったままの祐奈の手に力が入ってしまった。


(まずい——!)


 いきなりぎゅっと握ってしまって……痛くなかっただろうか。謝ろうと祐奈のほうを向く。


「えへへっ。急に握ってきてどうしたの? 高いところ怖い?」


 そこには口角が上がってだらしない表情をした祐奈の顔があった。痛みなどは何も感じていない、混じり気のない花が咲いたような笑みをしている。


「そんなわけないだろ、俺が誘っているのに。苦手な場所へわざわざ一緒に行きたがるバカなんているわけない」

「そんなことはないよ? お化け屋敷だって、ホラーが苦手だからついてきてっていう人いるじゃん」

「……確かに。いや、でも俺は違うぞ? こけそうになったから力が入っただけ。……本当だからな?」


 なんか、語れば語るほど自分でも怪しく思えてきた。怖いとか一切感じていないのに。……本当に感じていないのに。


「ま、そういうことにしておこっか。展望台についたし。ほら、行くよ!」

「言われなくても。高所恐怖症じゃないんだから行けるっての」


 祐奈が俺の手を引いてエレベーターのドアの前まで移動する。祐奈はいつもこうだ。常に俺の一歩半前を進んでいる。でも、今日こそはその一歩半の距離をゼロにしたい。


 そう決意していると、エレベーターのドアが開いた。果たして展望台からの景色は——


「わぁあぁぁ…………! 何、この景色……!」

「これは……想像以上だな」


 今まで見たことがないほどの絶景だった。人間の営みが作り出す夜景のみならず、街のイルミネーションも輝いている。雲のない澄み渡った夜空では、無数の星々と1つの月が太陽のいない世界を照らしていた。

 エレベーターで外が見られない理由、なんだかわかったような気がする。俺の予想は、見られないことでのワクワクを溜め、展望台からの眺望で一気に爆発させるためにわざとこうしている、というものだ。そして、その狙いに俺たちはズバリとはまってしまった。写真で見たよりもはるかにすごい、期待以上の景色だ。


「ねぇ、あっちにいかない!? あまり人がいなさそうだよ! ゆっくり見られそう!」


 興奮した祐奈がどんどん引っ張っていく。この興奮した祐奈を止める術はない。俺は流されるままついていくだけだ。


 祐奈が連れてきてくれた場所の周囲には本当に人がいなかった。というか、展望台自体にあまり人がいない。こんなにもきれいだというのに。


「なんで人気ないんだ? 人で溢れかえっていてもおかしくないのに」

「あー、多分ね……みんな気付いていないんだよ。タワーをイルミネーションの一種としてしか認識してない。実際、私も今までそうだったし。残念だよね、こんなにも綺麗なのに」

「気付いてない、か……まぁ、そうなのかもな」


 そんな単純すぎる理由なのか、と思ったが、人間は案外単純な生物だ。祐奈の説が真実という可能性は普通にある。視点を変えたら、見えないものが見えたり、見えてるものをさらに魅力的に見ることができたりする。言われてみれば当たり前なのだが、その当たり前をなかなか自分でつかめないのが人間というものだ。


「そういえば、祐奈も初めてなんだな。てっきり1週目の世界で行っているもんだと思ってた」

「まぁね。タワーの存在は知っていたけど、一緒に行く人が……ね」

「それって……俺のことか?」


 祐奈が頷く。笑顔だった顔が段々と萎んでいく。咲いた花は萎んで枯れていく運命だが……人の表情までそうである必要はない。ここは話題を変えて何とか笑顔に……!


「あー、そういえば! お正月にさ、一緒に初詣行かない?」


 クリスマスという楽しいイベント中に、他のイベントの話をする。あまりにも不自然だが、俺が今思いつく話題はこれしかない。俺の家に入り浸るくらいだし、きっと祐奈は俺と一緒にいるのが好きなはず。だからこれで笑顔になってくれれば、と願うばかりだ。

 ……なんか、ちょっとナルシストっぽい気もするけど、気にしないでおこう。こういうのは気にしたら負けなのだ。


「初詣……もうそんな時期かぁ」

「そうだな、この一年長いようで短かったよな。内容はめちゃくちゃ濃かったけど」


 高校の入学から祐奈との勉強会、恋愛作戦と方針転換、キスや遊び、今のデートだってある。軽く思い返しただけで、これだけの思い出が出てきた。来年もきっと楽しいことが待っている。そう信じたいが……


(運命、変わっているのかな……)


 祐奈は変えるといった。実際、そのために色々としてくれている。でも、その意味があったのかは運命の日——ホワイトデーにならないとわからない。由奈の努力が報われてくれればいいな——

 

 ん……? ちょっと待てよ? 祐奈の努力……?

 俺、されるがままで何もしていないのでは? 俺の運命なのに、祐奈に任せきりじゃないか?


 ふと、気付いた。気付いてしまった。あまりにも他人任せだったことに。運命とは本来、自分の手でつかみ取るもの。このままじゃ、何も変わらない。変わるわけがない。


 しかし、気付くタイミングが良かった。今日、俺は元々1つの決心をしているのだ。そして、それはきっと運命を変えかねないもの。だから、ちょうど良い。


「——くん? ひろくん? どうしたの? 大丈夫?」


 何度も髪の毛を触り、落ち着きのない様子の祐奈。どうやら、急に黙り込んだ俺が気がかりなようだ。

 

「あぁ、ごめん。ちょっと思うところがあってな、もう大丈夫だ」

「そう……? 大丈夫になったならいいけど、何かあったら言ってね?」

「もちろん。絶対祐奈に言うからな」


 まぁ、それは心配事の方じゃないんだけどな。こうして前もって宣言することで、俺の退路を断つ。心に決めただけじゃ、人は動けない。口にも出すことで軽い約束をし、強制的に動かすのだ。

 当の本人は頭にはてなマークを浮かべているが……まぁ、いい。むしろそんな様子ぐらいがインパクトもあって効果的なんじゃないか?

 待ってろよ、祐奈。篠島宏樹、一世一代の大勝負を決めてやる。

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