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自称・未来人の幼馴染  作者: 千夏ケイ


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第40話 星のようなイルミネーションを、幼馴染と

 時刻は17時45分。駅前のベンチに俺は座っていた。冬場のこの時間、太陽はもう眠りについているので暖かな光など届くわけもない。コートと手袋で何とか寒さをしのぐ。

 待ち合わせの15分前に来るなんてちょっと早すぎたか? もう少し家でゆっくりしていても良かったかもしれない。


「あっ、ひろくんもう来てたんだ。ごめんね、待った?」

「……っ! ぜ、全然。俺も今さっき来たところだしな」

「そっか、良かったー……」


 そんなことを思っていると、今日のデート相手が現れた。赤いニットに黒いスカートという今まで見たことのない装いをした祐奈に一瞬目を奪われる。白いマフラーもいいアクセントとなり、威力は倍増だ。何とか返事はできたが……危なかった。下手したら言語能力まで奪われかねない可愛さだな。

 今夜、そんな彼女とデートするのか……まだデートは始まってすらいないというのに、幸福感と優越感で満たされるのを感じる。こんな可愛い子とクリスマスデートをしているんだぞ、と今すぐ自慢して回りたいくらいだ。まぁ、付き合ってはないんだけどね。今は。


「ひろくん、ボーッとしてどうしたの? 寒いならマフラー貸すよ?」

「……あぁ、いや、寒さは大丈夫。ありがとうな。ただ、祐奈の可愛さでフリーズしていただけだから気にしないで」


 女の子とデートをする際はまず服装を褒めるべし、とは誰が言い出した言葉だろうか。昔から使い古された手法で、最早女の子をドキッとさせる効果は無いんじゃないかと思ってしまう。しかし、可愛いのは本当だ。デートなんだし、思ったことは言わないといけないよな。


 ……あれ、ちょっと待てよ?

 俺、「服の可愛さ」じゃなくて「祐奈の可愛さ」って言ったか?


 本当のことではあるが……今言うようなセリフではないよな。雰囲気も何もない中でのこの発言、笑われてもおかしくはない。いきなりやらかしてしまったか……


「……マフラー、貸してあげる」

「え? さっき断っただろ? 大丈夫だって」

「違う! マフラーがいらないくらい熱くなっちゃったの! いいから貰って。巻いてあげるから」


 祐奈が俺の首元に触れ、マフラーをぐるぐる巻いていく。そうしている彼女の表情は、寒い外にいるとは思えないほど赤かった。温泉につかっています、と言われても信じられる色だ。その赤みは耳の先まで続いている。


「結構照れ屋さんなんだな。幼馴染なのに知らなかった」

「……うるさいっ。今、私はマフラーを巻いているんだよ? その気になれば私は……」

「でも、そんなことはしないだろ? それじゃあ、祐奈が祐奈自身を否定することになるし」


 祐奈は俺を助けるためにタイムリープしてきた未来人。それだけのことをしているのに、この程度で俺の首を絞めるなんてありえない。

 祐奈は顔を真っ赤にしたままプルプルと震えている祐奈がその証拠だ。図星で何も言い返せないのだと思う。


 それにしても、祐奈を翻弄するのはなんか新鮮で楽しいな。今までずっと振り回されっぱなしだったし、猶更だ。……もう少し続けてみるか。


「それに、恥ずかしいから脅すっていう発想自体がもう可愛いよな。なんか、ツンデレみたいで」

「————バカッ!」


 言葉にならない声が数秒続いた後、やっと絞り出してきたのはかなり弱い罵倒だった。そうだよな、「死ね」とか「消えろ」みたいな強い言葉、俺に使えるわけないもんな。そこは気を使わせて申し訳ない。まぁ、悪いのは運命であって、俺は一切悪くないんだけど。


「もういいから! デート、これからなのにこんな所で時間を使っている暇ないよ!」

「ふっ……そうだ、そうだったな」

「……なに笑っているのさ」

「いや、祐奈は可愛いなって」

「——……っ! もう! またそうやってからかって! いいから行くよ!」


 祐奈が俺の手を取り、駅の方へと連れていく。今日は見たことのない祐奈がたくさん見られる。想い人の知らない表情を見つけるって、楽しいな。



 電車で数駅、繁華街についた。周囲に見えるのは、人、人、そして、人。すし詰め状態で一歩も動けない、というわけではないが、それでも大勢の人で賑わっている。

 彼らの目的は恐らく同じ。イルミネーションだ。周囲の木々や花壇だけでなく、様々な店もあわさって一体感が出ている。1つ1つは小さな輝きでも、これほど集まるとやはり圧巻の一言だ。他にもビルではプロジェクションマッピングが行われており、まさにクリスマスデートにうってつけの場所と言っていい。


「……綺麗だね」

「そうだな……祐奈と一緒に来てよかった」


 俺も祐奈も、絶景を前にして多くは語らない。今は言葉なんてものは不要だから。そんなものを使わなくても、心がつながっているから。

 祐奈の手が俺にぶつかる。それを合図に、俺たちは手を絡めあった。確か、恋人つなぎ、というつなぎ方だったか。祐奈のドキドキが手を通して伝わってくる。恐らく、俺の胸の高鳴りも伝わっていることだろう。

 普段の遊びとは全く違う感覚がする。でも、それでいい。それがいい。デートはこうした心のやり取りが大切だと思うから。心のやり取りの先に、幸せがあると思うから。


「……行こうか」

「え? どこに? もうデート終わり?」


 しばらくの間2人で色々見て回った後、俺は切り出した。今まで穏やかだった祐奈の顔が少しゆがむ。これがデートに難色を示していた人の姿か? 終わりを惜しむくらいめちゃくちゃ楽しんでくれているみたいだ。

 

「そんなわけないだろ? タワーの展望台に行くんだよ。調べたらさ、そこから見る夜景もイルミネーションみたいに綺麗らしい」


 近くにある街を象徴するタワー、デートまでの待ち時間で色々調べたところ、そこの展望台からみる景色がかなり良いと書いてあった。時計を見ると、まだ20時。この時間帯ならまだ開いているはずだ。


「展望台か……! そこまでは調べてなかったな、楽しみ!」

「俺も。そもそも初めてタワーに行くしな。どんなものが見られるんだろうな」


 イルミネーションが続く道を通り、俺たちの足はタワーへと向かう。

 夜空の星々が手の届く場所に来たかと思わせるほど最高のイルミネーションだった。でも、夜景だって負けてないはず。人の営みを感じられる光があるだけでなく、上には本物の星が瞬いているのだから。

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