第4話 幼馴染に嘘は通じないのか……?
全国の高校生が一番楽しみにしているであろう夏休み。
その門番たる1学期の期末試験が終わった。
終わった、というと、まるで試験結果が散々だったのかと思うかもしれないが、そうではない。
「64点、58点、65点……」
さすがは祐奈といった所だろうか。
たった数日しか勉強会をしていないのにもかかわらず、平均点のちょっと下ぐらいまで成績を伸ばすことができた。
俺を月ヶ丘高校に受からせた祐奈の教え力は、どうやら今も健在らしい。
まぁ、それでも平均点以下なのでお世辞にも高得点とは言えないのだが。
だけれども、自力で挑んだ中間試験が散々な結果に終わっていたことと比べると、ものすごい成長である。
祐奈が少しかかわるだけでここまで変わるのか……
自分でも信じられない。
「ね? だから言ったでしょ? 私に任せておけばなんとかなるって」
「まぁ、そうだな……」
「あれ、なんか嬉しそうじゃないね」
そりゃ、嬉しさ100%じゃないからな。
そう、信じられないぐらい成長したというのに、俺の気分は下がり気味だ。
だが、そんなの当たり前だろう。
この急成長は俺一人の力ではない。
これはどう考えても祐奈に教えてもらった結果なのだ。
その点では感謝してもしきれない。
だが、純粋に喜ぶことはどうしてもできない。
今回祐奈が行ったのは、勉強会というのは名ばかりで、その実態は祐奈先生によるわかりやすい授業だった。
実際、勉強会特有の教えあいなんてことは一度もなかったし。
この教えるという行為は、当然知識量や理解度などが上でないと成立しない。
無二な人に倣ったところで何も学べないからだ。
つまり、祐奈が上で、俺が下。
この勉強会中、俺は祐奈の足元にも及ばないという事実を何度も突き付けられた。いやというほど自覚させられた。
この結果も俺たちの上下関係を証明している。
だから、正直悔しい。
しかし、こんなことを馬鹿正直に言う俺ではない。
理由は単純。せっかく自分の時間を割いて教えてくれた祐奈に失礼だからだ。
親しき仲にも礼儀あり、というだろう。
幼馴染だからと言って、言って良いことと悪いことがある。
だから、俺は嘘をつく。
人を傷つけないための優しい嘘ってやつだ、神様も許してくれるはず。
「あー、まぁ、結局平均点までいかなかったし」
「そっか、それは向上心があっていいことだね」
幸いなことに祐奈は俺の嘘に気づいていない。
これならうまく俺の気持ちを悟られずに済みそうだ。
だが、安心してはダメいけない。
祐奈は勘もいい。
変に気づかれるわけにはいかないし、ここは畳みかけよう。
「上を目指し続けないと、すぐに置いて行かれそうだしな」
一応言っておくが、こちらは嘘ではない。
月ヶ丘高校——月高——には、各地域からの秀才が集まってくる。
そして、そのほとんどが入学以降も努力を怠らない。
才能がある人たちでもそうなのだ。ましてや、才能なんてほとんどない俺が努力しなければどうなるだろうか。
待っているのは、落ちこぼれになる未来のみだ。
その証拠に、目の前の祐奈が「確かにそうだね」と言いながら頷いている。
祐奈もそう言うのだから、これは間違いのない事実なのだ。
それにしても、なかなか良いフォローだったのではないだろうか。
言いたくないことを言わないために、とっさに考えたものだったが、かなり良い。
自らの向上心のアピールにもなるし。
向上心のある男は強いから、巡り巡って俺は強いんだと示すことにもつながるかもしれない。
だから何だと思うかもしれないが、これはライバルとしての意地のようなものだ。
いつまでも弱いままだと思っていてほしくないという男のプライドでもある。
その後、しばらく何かを考えている祐奈の顔を見つめていたが、そこに疑いの感情は一切含まれていないように見える。
やはり、嘘は本当のことに混ぜることで最大限効果を発揮するのか。
さっきは才能なんてないと思っていたが、こんな瞬時に最適な嘘とフォローができるなんて、実は隠れた才能が開花しつつあるのかも……?
「よしっ! じゃあ、次回からも一緒に勉強しよっか」
自身の可能性に酔いしれていた中、祐奈の放ったその一言で俺の自画自賛は終わりを迎える。
「いや、なんでそうなるんだよ。この点数ならそこまで母さんに怒られることなんてないぞ」
「あれ? 上を目指し続けるんじゃなかったの?」
何も言い返せない。
どうしたらいい?
ここから、俺の発言と矛盾せずに断る方法があるなら誰か教えてくれ。
少なくとも、俺には思いつかない。あまりにも時間がなさすぎる。
やばい、マジでどうしよう。
何が向上心のある男アピールだ。何が隠れた才能の開花だ。
これのどこが最適な嘘とフォローだったのか。
あまりにも迂闊な発言過ぎたんじゃないか?
思考が自分を責めるものでいっぱいになり、何も考えられない。
「で、どうする? もちろん一緒に勉強会、これからもやるよね?」
ここぞとばかりに祐奈が追撃をかける。
攻めるべきタイミングでしっかりと容赦のない攻めを繰り出す。
ライバルながらあっぱれだ。
……まぁ、向こうにライバルという認識があるかはわからないんですけどね。
悲しい。悔しい。
結局、「ね? ね?」と詰め寄ってくる苛烈な攻めに対し、俺ができることといえば、黙って祐奈の提案に頷くだけであった。
それを見た祐奈はニコニコと笑っている。
今にでもスキップしそうなくらい上機嫌だ。
「ふへっ」
ん? 今ニヤッとしたぞ?
普段俺を負かした時とは違う反応だ。
……まさか、祐奈は俺の嘘に気づいていたのか?
そして、それを利用して俺を攻めたのがそれほどまで嬉しかったのか?
さすがに俺も気力の限界だ。
聞く勇気は出ない。
今日は祐奈の強さを再確認した一日となった。
代償は勉強会の継続と、あまりにも大きすぎたが……勉強代として受け入れるしかない、か。
はぁ……。




