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自称・未来人の幼馴染  作者: 千夏ケイ


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第27話 幼馴染と休憩する

 文化祭が始まってから数時間、ようやく俺は忙しさと恥ずかしさの両地獄を終えた。


「あー……疲れた」


 俺は今、部室棟横の非常階段に座って休んでいる。眠気も少しある。このまま意識を手放したらぐっすりと寝られそうだ。

 しかし……文化祭という特別な日でも、ここはやはり人気がないな。生徒はおろか、一般の方の姿も見えない。

 いや、文化祭だからこそ、か。何の出し物もない階段を見に来る人なんているわけないよな。


「えいっ!」

「冷たっ! 何……って祐奈か。ビックリさせるなよ」


 俺が完全に油断しているところに冷たい缶の飲料を押し付けてきやがって。


「いいじゃん。それあげるからさ、許して?」

「……まぁ、喉も乾いていたしもらっておくけど」

「そうなの? なら、私、ナイスタイミングだったんじゃない? 褒めてくれてもいいよ」

「ありがとー」

「あー! 心がこもってない!」


 少しむくれた祐奈を無視し、缶を開けて飲む。

 喉を通る冷たい感覚が、体全体を癒してくれる。


「どう? 冷たくておいしいでしょ?」

「そうだな。どこかのクラスで売っていたのか?」

「売っていた……というか、当てたんだよね。縁日っぽいのやっているクラスがあってさ」

「へー、面白そうだな」


 運営側も遊び側もきっと楽しいのだろう。みんなで楽しむ文化祭の趣旨に合ったなんて素晴らしい出し物なんだ。

 それに比べてなんで俺たちは男女逆転喫茶なんて……いや、最初メイド喫茶にした俺たちが悪いのか。


 それにしても縁日か……

 今年の夏は軟禁されていたせいでお祭りにも行けなかったな。存在すら忘れていた。


「お? 興味ある? 後で一緒に行く?」

「そうしたいところだが……今はちょっと疲れがな」

「だよね、そういうと思ってた」

「そういうと思ってた? それも未来の知識か?」

「そうだよ。なんでか知りたい? ねぇ、ねぇ」


 祐奈が俺を両手の人差し指でつつく。トントン、トトトン——と、なんかリズム良くつついてきやがった。

 全く痛くはないが、ニヤけた顔も相まって少し面倒くささを覚えた。


「実はね、ひろくんは文化祭を寝過ごすんだよ。男女逆転喫茶で疲れすぎて」

「聞いていないのに教えてきやがった」

「でね、文化祭終了の放送で目を覚ましたんだってさ」

「……だってさ? 祐奈は知らないのか?」

「そりゃそうだよ。1周目の私はここに来てないし」


 そうなのか。じゃあ、ここに来たのも未来人知識で分かっていたからということか。

 人の居場所までわかっちゃうなんて、さすがだな。


 ……あれ? そういえば、今さらっと重要なこと言っていたような……?


「なぁ、祐奈。ちょっと聞いてもいいか?」

「いいよ、何でも聞いちゃって!」

「1周目も男女逆転喫茶だったのか……?」

「…………あっ」

 

 祐奈はつつくのをやめ、口を手で覆うが……さすがに遅すぎる。

 言葉が口から出て何秒経ったと思っているんだ。


「俺の運命を変えるんじゃなかったのか……? なんで同じことを?」

「……ひろくんのメイド服姿見たかったし」

「命とメイド服、どっちが大切なんだよ」

「それを言われると辛い……でも、こんな機会じゃないと、ひろくん絶対着てくれないし!」


 そりゃそうだ。俺に女装趣味はない。ましてやメイド服なんてなおさら着る趣味はない。


「ひろくんがメイド服着てくれるなら考えたんだけどなー?」

「着るわけねぇだろ。それにもうシフトまで終えてんだ。今更着る約束したって損しかないじゃん」

「ちぇ、バレちゃったか。また見たいのになー……」


 そんなに残念がられても着ないぞ。みんなで着るからメイド服自体は慣れたのであって、祐奈のためとなると話が変わる。

 何が悲しくてわざわざ時間をとって祐奈にメイド服姿を見せなくてはいけないのか。


「見たいなー。あと、おまじないも」

「……おまじないの話はやめてくれ」

「翼ちゃんにはやったのに私には無理なの?」

「いや、関口はお客で——」


 釣られた。今度は俺が口を手で覆う番だ。

 すまん、関口。やっぱりバレていたぞ。


 だが、俺は先輩。尊敬してもらっている分、ここでかばってやろう。


「……関口なんて来てなかったぞ?」

「私、受付のときからもうわかってたよ? いつも勉強を教えているんだし、翼ちゃんの声を聴き間違えるわけないでしょ」

「そうか、まぁ……そうだよな」

 

 関口、これは無理だ。どうやったってごまかせない。


「にしても、何であんな怪しい恰好してきたの?」

「それはな、祐奈にバレないようにするためらしいぞ。勉強をさぼったとかで怒られると思ったんだそうだ」

「いつも勉強頑張ってくれているからこれくらい良いのに……私、そんなに怖い?」

「俺に聞かれてもわからん。幼馴染感が強すぎて、どうやっても後輩目線にはなれないし」


 確かに、祐奈が怖いと感じたことはある。例えば、かくれんぼをしたとき、自信のあった隠れ場所を一瞬で見つけられた時だ。

 しかし、それは祐奈の能力に怖さを感じたのであって、怒られそうとかそういう類の怖さではない。


「そうよね……でも、もっと仲良くなりたいな……」

「お? それならちょうどいい。夏休みのとき、秋になったら3人で遊ぼうって話をしてたんだよ。言うのを忘れていたけど」

「忘れすぎでしょ。今はもう秋だよ? 全く……でも、良い機会になりそう」

「だろ? ただ、何するかは今度考えよう。今はちょっと……眠い」


 あくびが俺の口から飛び出す。

 肉体的にも精神的にもこの文化祭は疲れた。

 踊り場で大の字になって寝転がる。


「でも、今寝たら寝過ごすことになるのか。文化祭の思い出が男女逆転喫茶だけなのは嫌だな」

「それは1人で寝た場合の話。大丈夫、私が隣にいるんだから」

「それもそうか。じゃあ、起きたら一緒にどっか行くか。それこそ、さっき言ってた縁日とか」

「わかった。おやすみ、ひろくん」

「おやすみ……って、なにしてんの?」

 

 隣に来た祐奈がいきなり俺の腕を枕にして寝転がってきやがった。人生初の腕枕があっさりと奪われたが……それはどうでもいい。

 祐奈は俺が寝過ごさないように見張ってくれるんじゃないのか?


「私も寝るよ? 疲れているし」

「え、それじゃあ誰が寝過ごさないようにするんだ……?」

「そんなの……2人いるんだからどっちか起きるでしょ。ほら、腕枕の重みとかで」


 ほら、と言われても、腕枕初心者過ぎてよくわからん。

 しかし……もう頭も回らなくなってきたな。今は寝れたらもういいか。


「……」

「あれ、寝ちゃった?」

「…………おやすみ……」

「……ふふっ、おやすみ」


 なんとか口から言葉をひねり出したが、そこがもう限界だった。

 俺は眠気に任せ、意識を手放す。


 そういえば、アラーム設定してたっけ……?

 ……どうでもいいか。何とかなるはず。

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