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自称・未来人の幼馴染  作者: 千夏ケイ


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第25話 文化祭の準備をしよう

 男女逆転喫茶という地獄が決まってから数日。

 間近に迫った文化祭の準備が急ピッチで進められていた。


「宏樹、あそこにある段ボールを運ぶの手伝ってくれないか?」

「ん? タツか。わかった……って、冷蔵庫?」


 大きな縦長の段ボールには冷蔵庫の絵が描かれている。

 実際に持ち上げてみるとずっしりとした重みが感じられた。


 黒板横のコンセントの近くまで運び、慎重におろす。

 一瞬床との間で指が挟まりそうになったが、何とか無事に運ぶことができた。


「あぶねぇ……にしても、なんで冷蔵庫が? 喫茶だからコーヒーとかだけでいいんじゃないか?」

「あれ、宏樹は知らなかったっけ? ほら、出し物決めるときに屋台やりたいって言っていた奴がいただろ? あいつが女装させられるくらいなら焼きそばも焼かせろ、って言ってな」

「それで冷蔵庫か。野菜とかの保存用ってわけだ」

「そう、そういうこと」


 俺たちは冷蔵庫に背を預け、教室を眺める。

 女子に衣服の採寸をされている男子いたり、絵の得意な人達がメニュー表を書いていたり……話し声は絶えることを知らず、みんなとても楽しそうだ。

 地獄、なんて思っちゃったけど……こうやって男女の交流も深めながら盛り上がれるのであれば、案外悪くない出し物なのかもな。


「ちなみにこの冷蔵庫、焼きそば以外にも使うらしいぞ」

「なんだ? 氷とかで冷たい飲み物も出すのか?」

「それもそうなんだけど、他にもある。なんと、オムライスの上に書く用のケチャップが入れられるらしい」


 おっと、これは……?

 雲行きが怪しくなってきたか?


「それ、実際に書くのって……」

「あぁ、もちろん俺たちだ。最悪、おいしくなーれ、ってやらされる覚悟はしておいたほうがいいかもな」


 前言撤回。これは地獄だ。地獄でしかない。

 恐ろしすぎるだろ。クラスメイトの男子の中に前世でものすごい悪行を働いた人でもいるのか……?

 

 それに、男子高校生のおいしくなーれとか、一体どの層に刺さるんだよ。

 客もキャストも喜ばない最悪の出し物になる可能性すらあるぞ。


「あ、ひろくん! こっちこっち——」

「祐奈? どうした? 何か手伝うことでも……」


 文化祭の先行きに絶望していると、祐奈が俺に向かって走ってきた。

 あの朝の一件以来、祐奈は教室でもよく絡んでくるようになった。

 さすがにハグはもうないが、教室でも花が咲いたかのような笑顔を俺に向けてくれる。


 だが、今はその笑顔がない。

 正確には、俺の名前を呼んだところまではあったが、徐々に萎んでいってしまった。

 その祐奈の目線の先には——タツがいる。タツもタツで真剣な表情をして祐奈を見つめている。

 

 2人の間で何かあったのだろうか。

 この前の勉強会の時はそんな感じなかったのに。

 幼馴染と友達が不仲とかちょっと嫌だな。


「おい、どうしたんだよ」

「……いや、なんでもない。それよりも東川さんのところへ行ってやれ。待っているぞ」

「……わかった」


 どうやらタツに話す気はないらしい。気になるが……俺には別の手段がある。タツがダメ? だったら祐奈に聞くまでだ。

 タツから離れ、祐奈のもとへと歩いていく。


「どうしたんだよ、祐奈。何かあったか? それとも何かされたか?」

「それは……」

 

 この反応、確実に何かあったな。

 未来から来た完璧超人の祐奈から笑顔を奪うなんて……事によっては俺はタツと縁を切らざるを得ない。

 ただでさえ少ない友達がさらに減るが、幼馴染が——祐奈が笑顔でいてくれるほうが何倍も良い。


「大丈夫、俺は祐奈の味方だ。何があってもな。だから安心して相談してこい」

「……話せない」

「どうしても、か?」


 俺の問いに祐奈は頷いて答える。

 そうか、俺にも相談できないことなのか。

 ……俺がもっと頼りがいのある男だったらな。

 自分の情けなさにため息が漏れてしまう。


「でもね、これはひろくんがどう、とかいう話じゃないの」

「……そうなのか?」

「うん。というか、話せない理由だって私がまだ理解できていないからなんだよね。だから相談のしようもないってだけだよ」


 祐奈でも理解できないものがあるとは……少し驚きだ。

 だって、彼女は未来人。俺関係では違うことも多少あるだろうが、ほとんどのことは経験済みなはず。理解できないはずが——


(まてよ……?)


 そう、理解できないはずがないのだ。俺関係を除いた祐奈の生活は、昔の経験や思い出を反芻しているだけなのだから。

 だから、わからないはありえない。


「もしかして、未来人関係のやつか……?」


 クラスメイトに聞こえないよう、俺は由奈に顔を寄せ、耳打ちする。

 俺が離れると、祐奈の首は——縦に振られた。


「まだわからないけどね。多分そうだと思う」

「俺から言っておいていうのもおかしいが……マジかよ」


 しかし、これはとんでもないことになったな。

 これが正しいとすると、とんでもない事実がわかってしまう。


「ま、まさかとは思うんだが……タツも……」


 祐奈は再び首を縦に振る。


(そんなこと……ありえるのか!?)

 

 大きな声が出そうになるのを口を押さえて我慢する。

 ここは教室。みんながいる。間違っても未来人、なんて口に出してはいけない。


「まぁ、私もまだ理解できていないんだけどね。でも、彼は知っている」


 なにを、なんて聞くまでもない。

 タツは知っていたのだ。例えば、俺が夏に溺れることなどないと。

 だから、勉強会の時におかしかったんだ。タツの話に合ったありえないこと、とはそういうことだったんだろう。


「なぁ、タツと一度話さないか?」

「……そうね、話すべきだと私も思う。でも、少しだけ時間が欲しいかな。頭を整理したい」

「だったら、文化祭終わりに話すなんてどうだ? こういうのは早いほうがいいだろ」

「文化祭終わり……うん、そうしよっか。セッティングは任せても良い?」

「もちろん。というより、今はお互い話しにくいだろうし、俺がやるしかないだろ」

「まぁね。じゃあ、任せたよ」


 祐奈が俺の肩をポンッと叩いて教室から出ていく。

 

(とんでもないことになったな……)


 未来人は祐奈だけじゃないのかもしれない。

 もしかすると、俺の死の運命を変えるきっかけになるのかも……


 そう考えると、文化祭が待ち遠しくなった。

 ——希望をつかむの文化祭が始まる。


「ひろくん、ごめん! 用事を忘れてた! メイド服作るから採寸させて!」


 ……やっぱり文化祭は来なくていいです。

 何が希望だ。やっぱり絶望じゃないか。

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