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自称・未来人の幼馴染  作者: 千夏ケイ


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3/10

第3話 幼馴染は勉強会で勉強しない

 勉強会、と言っても、ずっと教えてもらうわけではない。

 まずはどの程度身についているかが知りたいということで、俺は問題集を解いていた。


 祐奈はというと、勉強するわけでもなく、勝手に俺の本棚を物色している。

 やましい本を本棚に隠しているとかでもないし、そこを物色される分には別に構わないんだが……なんで勉強会で勉強しないんだ?

 これが強者の余裕というやつなのか……?

 

 スペックの差にムカついたので、少し文句をつけてやろう。

 八つ当たり? 俺の家に押しかけてきたのは祐奈のほうだ。

 これくらい許してくれ。


 そう決心した俺は、シャーペンを置いて、祐奈の方に顔を向ける。


「おい、祐奈。何勝手に本棚漁っているんだよ」

「ん? 何って、いつものことじゃん。新しい漫画とか入ってないかなーって思って。この辺にあるやつだいぶ読みつくしちゃったし」


 そう、この幼馴染は、来るたびに本棚においてある漫画を勝手に読んでいくのだ。

 中学の時、祐奈の家がすぐ近くにあるにもかかわらず、暑いから~などと理由をつけて水分補給がてら遊びに来た祐奈は、おもむろに本棚へ手を伸ばしてたっぷり漫画を読んで帰ったこともある。

 いくら幼馴染とはいえ、人の部屋を漫画喫茶みたいに扱うのはどうなのだろうか。


「そんなことはいいから。ほら、手、止まってるよ」

「……わかったよ」


 祐奈に注意され、再び問題集を解き始める。

 シャーペンの音とページをめくる音だけがこの部屋を支配する。

 ……しかし、祐奈がいるとそっちに意識が向いてしまうな。


「あははっ!」


 うるせぇ。

 もう一度文句を言ってやろうか。

 

 いや、もうそんな時間はない。

 遊んでちゃダメだ。集中しなおそう。

 水を一口飲み、再び勉強を進めていく。


 ◇


 太陽が沈みかけ、空が赤く照らされる夕方。

 

 「祐奈ー。解き終わったぞ」


 集中して取り組んだ甲斐もあり、その後は祐奈が気になることなく問題集を解き終えた。

 祐奈を呼ぶために振り返ると、ベッドに寝転んで漫画を読んでいた。

 確かにこの部屋には俺が今使っている勉強机セット以外に椅子はないが、だからと言って人のベットに寝転ぶなよ。


「あ、終わったの? 見せて」

「はいよ」


 近づいてきた祐奈に席を譲り、問題集と解答を書いたノートを手渡す。

 さて、祐奈が確認している間、少しヒマだな。

 

 そういえば、結局何を読んでいたんだろうか。

 俺の本棚の本は読みつくしたって言ったたし、気に入った漫画の2週目とかかもな。

 解答解説を見ながら正誤確認していく祐奈を横目に、さっきまで祐奈が読んでいた本に目を向ける。


『幼馴染に恋はしない!』


 幼馴染の主人公とヒロイン。

 家族のように育ってきたことからヒロインを恋愛対象外にしている主人公と、超恋愛対象として必死に主人公を落とそう頑張るヒロインのラブコメ漫画だ。

 

 話題になっていたから買ってみたが……なるほど、とてもいい漫画だ。

 なんとか恋愛対象に入ろうと健気に頑張るヒロインが可愛すぎて、応援せざるを得ない。

 人気が出るのも頷ける。

 

 次巻もすでに予約済みで、今一番のお気に入り作品でもある。


 ただ、問題が1つ出てきた。

 俺はこの漫画を本棚には置いていないはずなのだ。

 

 そりゃそうだろう。

 俺がこんな漫画読んでいたら、作中のヒロインと同じ幼馴染という立場の祐奈はどう思うだろうか。

 

 どれだけからかわれるかなんて想像もしたくない。

 

 それに、からかわれるだけならまだいい。

 気持ち悪がられて俺から離れて行ってしまう可能性だってありえる。

 そんな事態になったら……俺は耐えられるだろうか?

 

 だから、俺はベッドの下にある衣装ケースの中に入れておいたのだ。

 本がある、なんて思いもしない場所に。


 ベッドの下、というとあまりにも安直すぎるかもしれないが、この衣装ケースは冬用の布団などを入れているもの。

 部屋にあっても全く不自然じゃないし、完璧なカモフラージュだと思っていたのだが……


「なんか固まっているとこ悪いけどさ、その漫画、面白いね。まだちょっとしか読んでないけど、私も好きかも」

「え? あぁ、そ、そうだな。面白いよな、コレ」


 どうしよう。動揺が隠せない。

 声が震えてしまう。


「でもさ、ベッドの下に隠すなんて、さすがにありきたりすぎだよ。見つけた時思わず笑っちゃった」

「いや、そもそもなんで隠しているってわかったんだ?」

「あー、それはね……うん、真由美さんから聞いたんだよ。うちの息子、また漫画買ってたってさ。でも本棚に新しい漫画なかったから、あっ、これは隠しているなって気付いたんだよね」


 何だこいつ。なんか早口で言い出したぞ。

 そう焦る立場でもないはずなのに。


 ……人が焦っているのを見ると不思議と落ち着くな。

 深呼吸をして、心を整えよう。

 

 しかし、俺の部屋に来る頻度が高いせいで、本棚の状況も覚えてられているのか。

 ストーカーっぽくてちょっと怖いぞ。

 全然いいんだけどさ。

 

 でも、これはまずいな。

 祐奈に隠し事をするのは無理なのか……?


「……まぁ、そんなことはいいよね。ざっと確認したからこっち来て。苦手そうなところもわかったし、勉強会、始めるよ」

「え? お、おう。わかった」


 あれ? からかいが、ない……?

 幼馴染モノのラブコメなんて読んでいるのが知られたら、100%からかわれると思ったのに。

 祐奈の隣に立ち、解説を聞いている俺の頭の片隅には、ずっとハテナマークが浮かんでいた。


 その疑問はついぞ解消されることなく、俺たちは勉強会を終えることになる。

 その後の勉強会中も、祐奈はずっと上機嫌で一切漫画のことに触れなかったし、本当にどうしたんだろうか。

 

 だからだろう。ずっと祐奈のことを考えていた俺は——


「結局、幼馴染も恋愛対象なんじゃん」


 ——帰り際の祐奈のつぶやきに気付けなかった。

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