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自称・未来人の幼馴染  作者: 千夏ケイ


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第24話 クラスメイトの目の前で幼馴染に襲撃された

 ついに軟禁生活が終わった。

 降り注ぐ陽光が俺の心も晴れやかにしてくれる。

 暦の上ではもうとっくに秋だというのに、もう少し暑い日が続きそうだ。


(結局、夏休みの最後まで軟禁されてしまったな)

 

 ただ、祐奈を責めることはできない。

 軟禁という手段に不満はあるが、こうするのもわかるからだ。

 出かけたらまた海でのように死にかける——そんな考えがどうしても拭えなかったのだろう。

 俺だって、祐奈が死にかけたら安全な場所にずっといてくれって思うし。

 助けるためには仕方ない判断なんだと理解はしている。

 もっと遊びたかったので納得はしていないが。


 それに、宿題をギリギリまで終えられなかった俺も十分悪い。

 宿題さえ終わらせれば軟禁解除せざるを得ないのに。

 基礎から復習しなおしたせいで、祐奈との勉強会込みでもとんでもなく時間がかかってしまった。

 おかげで夏休み前からは格段に学力が上がった……ような気がする。

 まぁ、これはこれで将来のためになるはず。

 もちろん、納得はしていないけど。


(今死んだら失われた夏休みを恨んで夏休みを楽しむ子供を襲う妖怪かお化けにでもなりそうだな)


 久しぶりの教室で自分の席に座りながら、俺はそんな馬鹿な考えにふける。


 どんな見た目がいいかな。

 夏だし、水泳のゴーグルをかけて虫取り網を持った奴なんてどうだろうか。背中にはキャンプ用のリュックサックなんて背負ってみるのも悪くない。

 ……あまりにも子供向けすぎるか。ゴーグルやリュックサックはともかく、高校生の霊で虫取り網を持っているのはどうなんだ?

 想像したらあまりにもシュールな見た目だ。気味が悪すぎてある意味恐怖の対象になりそう。


 そんなことを考えていると、祐奈が勢いよく入ってきた。

 あまりの勢いにクラス中の注目が集まる。


 だが、そんなことは気にせず、祐奈は俺のほうに向かってくる。

 ……勢いを一切緩めないまま。


「ひろくん、立って」

「え? うん」


 俺の前でピタッと止まった祐奈の言葉に従い、俺は立ち上がる。

 その瞬間、祐奈が突進してきた。思わず目を閉じてしまう。

 祐奈がぶつかった刹那、俺の体の自由がなくなる。

 目を開けると、俺は抱きつかれていた。

 でも、この強さはちょっと痛い。


 それに、ここは教室。

 それもさっきまで祐奈に注目が集まっていたわけで、みんな見ている。

 めちゃくちゃ恥ずかしい。

 好きな人からのハグは嬉しいけど、正直、恥ずかしさのほうが勝ってしまう。

 

「なぁ、祐奈」

「なに? このぐらいいつもやっていることでしょ?」

「違うって、何をやっているのかじゃない。こんなみんなが見ているところで抱きついていいのかって話だ」


 俺が指摘すると、祐奈が小刻みに震えだした。

 そして、ゆっくりと俺から離れていく。

 顔が見えるまで離れた時、すでに祐奈は真っ赤だった。


「こ、これは違うの!」

「あ、おい! 祐奈!」


 ついに恥ずかしさに耐えられなくなったか、全速力で教室から出て行った。

 

 勢いよく入ってきて、抱きつき、そして出ていく。

 この間わずか3分程度の出来事である。

 流れ星のように素早く駆けていった祐奈のせいでクラスメイトも困惑しっぱなしだ。


「な、なぁ……今のって何だったんだ……?」

「……俺に聞かないでくれ。聞くなら篠島の方が——いや、だめだ。あいつも多分理解できてないぞ」


 ほらな、噂をしだした。噂されるのは好きじゃない。しかし、こればかりは仕方ない。

 そして、誰の言葉かわからないが……君の予測は正しい。

 俺は一体何が起きたか一切理解できていない。だから、絶対聞かないでくれよな。


 その後、朝の話題は俺たちのことで持ちきりだった。

 どういう関係なのかとか、付き合っているのかとか。みんな色々と予想をしていた。

 

 そう、予想だ。俺の願いが叶ったのか、直接聞かれることはなかった。

 ……ただ、気軽に聞けるほど関係性を築けていないだけという可能性もあるが。

 

 ……友達、欲しいな。


 騒動の張本人である祐奈はというと、ホームルームの直前にちゃんと帰ってきた。

 色々あったとはいえ、これでも祐奈は優等生。そのまま帰るとかサボるなんて選択肢はなかったようだ。


「……!」


 ただ、隙を見つけては真っ赤な顔でこちらを睨んでいたが。

 俺、何も悪くないのに。理不尽だ……



 ♢



 放課後、いつもなら帰るところだが、今日は教室にみんなが残っていた。


「よし、これから文化祭の出し物を決めていきますよ!」


 壇上に上がった担任の女教師が俺たちに呼びかける。

 多分、この教室で一番テンションが高いのは彼女だ。

 大人で教師という立場があるとはいえ、こういったイベントごとはやはりワクワクしてしまうのかもしれない。


「私たち1年生は特にこれをやるとか決まっていないから好きにやっていいんだけど……なにか提案がある人はいる?」


 提案、か……特にやりたいことはないな。

 強いて言うなら皆でできるものがいい。俺でも話せる人が新しくできるような準備も楽しいやつがいいな。

 

「先生、俺屋台やってみたいかも」

「私はカフェがいいなー」

「もう休憩所でよくね?」


 意見のない俺と違って、クラスメイトからは様々な提案が飛び出した。

 それらの提案を先生が黒板に書きだしていく。

 ……休憩所とかいうふざけた提案以外だけど。


「もう他はないかな? なかったら多数決で決めるけど……」

「メイド喫茶! ぜひ、メイド喫茶を候補に入れてください!」


 アーティスティックスイミングの選手並みにビシッと手を伸ばし、勇気がありすぎる提案をしているのは……確か野球部のクラスメイトだったか。きれいに刈られた頭が少し輝いている。

 周りに座っている男子たちが笑っているので恐らくはグルなのだろう。


「はぁ? するわけないでしょ、恥ずかしい」

「スキンヘッドにして出直してきて」

「グラウンド10周走ってきた方が良いんじゃない?」


 散々な言われようである。

 あまりにも可哀そうすぎる……が、野球部の彼の顔はニヤけていた。

 あの顔は恥ずかしがっているんじゃない、確実に喜んでいる。罵られているにもかかわらず。


(あいつ……Mなのか……?)


 殆ど話したことがないが、クラスメイトの知ってはならない一面に気付いてしまった気がする。

 ……やめよう、これ以上考えるんじゃない。誰が好き好んで男の性癖を知りたがるんだ。


「……どうする? 先生的には別に候補に入れるくらいはいいんじゃないかなって思うけど……」

「先生、本気ですか!? メイド喫茶ですよ」

「でも、楽しそうじゃない? ここは先生特権で候補入りを認めます!」


 男子からは歓声が、女子からは落胆の声が聞こえてくる。

 まぁ、先生特権だからな。仕方ないよな、うん。


「じゃあ、そろそろ多数決に入りましょうか。みんなやりたいものに1回だけ手を挙げてね」


 ついに投票が始まった。 

 でも、この様子だともう結果は見えているけど。


 厳正なる多数決の結果、やはりメイド喫茶が選出された。男子生徒の組織票の力はやはり強かったな。他に圧倒的な差をつけての勝利だった。

 俺はというと、もちろん賛成した。当たり前だろ。俺だって男だ、メイド喫茶に賛成しないわけがない。

 

「先生! 今思いついたんですけど、男女逆転喫茶ってどうですか?」


 メイド喫茶確定に盛り上がる男子を差し置いて、祐奈が提案する。朝あんなことがあったのにこんな注目を浴びるような真似をするなんて、さすがは祐奈だ。精神力の鬼と呼ばせていただきたい。

 だけど、悪いな。もう投票は終わった。メイド喫茶になったんだ。時には諦めも肝心——


「いいですね、東川さん! どっちにしろメイドですし、先生特権でそっちにしましょう!」


 ……え?


 一番はしゃいでいる先生の一言で全てが変わった。

 男女逆転喫茶……つまり、メイド服を着るのは俺たちというわけである。


「先生、そりゃないっすよ! もう投票したじゃないですか」

「先生特権ですから。もう変えられませんよ」

「そうよ! それに、最初先生が先生特権使ったとき何も言わなかったじゃない」


 野球部のM野郎が反論するも、先生とそれを援護する女子生徒の前では何の意味もなさなかった。

 そして、あまりにも正論過ぎてもう誰も反論できない。

 

 先生特権、なんという強さだ……

 女装確定となった俺たち男子が絶望する一方で、黒板に書かれた男女逆転喫茶という文字に花丸をつける先生はとても楽しそうだった。

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