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自称・未来人の幼馴染  作者: 千夏ケイ


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第2話 幼馴染は顔が良い

 タイムリープを信じる人は、どれくらいいるだろうか?


 ロマンのある話ではあると思う。

 未来に行って、あっと驚くほどの技術の進歩を見てみたい。

 過去に行って、電気もない時代の生活を体験してみたい。

 そう思う人は俺以外にもたくさんいるだろう。


 そう、俺はタイムリープを信じる派の人間だ。

 古代の人間がスマホを想像できないように、現代の人間も飛躍的に発展した未来技術は想像できない。

 だから、今の技術では無理でも将来的には、と思えてならないのだ。


 だが、祐奈の未来人発言となると話は別だ。

 俺は全く信じていない。

 

 だって、ありえないだろ?

 著名な博士ですら、パーティーで未来人に会えなかったんだ。

 なのに、何の成果も出していない俺のもとに現れるなんて意味が分からない。


 それに、俺と祐奈は赤ちゃんの時から一緒にいる。

 生まれた時から一緒にいるというのに、いったいどういう理屈で未来から来たのかが意味不明である。

 家族ごと未来から来たのであれば話は別だが、祐奈のご両親はいたって普通の優しい方々。

 祐奈が言うような、未来からどうのこうの~などという話は聞いたことがない。


 だから、目の前の幼馴染が何度も「私、未来人でーす」みたいなこと言っていても、いつものおふざけと同じようにしか思えないのだ。

 幼馴染の俺にしかやらない中二病的なノリ。

 確かに特別感はあるが……そこまで嬉しいものではない。

 外でボロを出さないうちに早く卒業してくれ、と切実に願うばかりだ。


 そもそも、幼馴染だからと言って、すべてのおふざけに乗る必要はあるのだろうか?

 無視はいじめの原因にもなるよくないことだ。

 しかし、自分を未来人だと思い込んでいる一般人、いや、逸般人をたまに無視する程度ならさすがに許されるのではないだろうか。

 

 というか、ただでさえテスト前で俺には余裕がないのだ。

 うん、ここは無視しよう。


 そう決心し、祐奈から離れて机に向かい、教科書を開いた。


「ねぇ、なんで無視するの!」

「そりゃ、無視するだろ。幼馴染のボケとテスト、どっちが大事か考えてくれ」

「そりゃ幼馴染でしょ。幼馴染は誰よりも大切にするべしって、道徳のテストにも出るよ」

「道徳のテストなんかねぇよ」


 仮に道徳のテストがあったとしても、そんなもの出題されるはずがない。

 だって、道徳は幼馴染の扱い方を教える教科ではないのだから。


 そんなことを思いながら教科書とにらめっこしていると、パタンと音を立て、目の前の文字が消えた。

 由奈に教科書を閉じられたのだ。


「おい、何すんだよ!」

「何って、強制的に話を聞かせようとしているの」


 なんだそれは。

 いくら何でも横暴ではないだろうか。

 抗議のために顔をあげると、目の前に祐奈の顔があった。

 

 思いもよらず近くで祐奈の顔を直視することになり、言葉が出ない。

 幼馴染だから大丈夫なんだろって?

 それでも不意打ちは喰らうんだよ。

 

 しかし、なんだかんだ言って、顔がいいんだよな、コイツ。

 ショートボブも良く似合っているし。

 違和感を覚えさせるようなパーツは何1つとしてない。


 ただ、そこがムカつくところでもある。

 こんなに顔がいい幼馴染の本性がめちゃくちゃ変人だと、誰も信じてくれない。


 例えば、中学時代。

 東川さんが幼馴染なんて羨ましい、なんてクラスメイトに言われたことがある。

 俺はもちろん、そんなことはないぞと強く反論した。

 が、俺の話を聞いてくれる人は一人としていなかった。

 いつも俺の冗談扱いされる。

 

 くそっ、顔の良さはすべてを解決するというのか……?

 かわいいは正義で許しちゃだめだろう……!

 本性はこんなよくわかんないやつなのに!


「あれ? どうしたの黙っちゃって」

「……何でもねぇよ」

「もしかして、私の顔の良さに見惚れちゃった?」

 

 ニヤニヤとした笑みを浮かべた祐奈がさらに近づいてくる。

 

「そんなわけあるか。幼馴染だぞ」


 不意打ちで混乱していた俺が出せた言葉はこれだけだった。


 俺たちは幼馴染。

 だから、この程度なんてことないようにしなければならないのだ。

 

 決して、見惚れてなんていない。

 断じてない。

 ないったらないのだ。


「ん? 幼馴染は恋愛対象外なの?」

「そっ……ういう訳でもないけど。でも、世の幼馴染は負けるのが多いぞ。つまり、一般的にはそういうことなんじゃないか?」

「なんかよくわからない言い訳だね。しかも、世の~とか言ってるけど、それ、漫画とか小説の世界の話でしょ? 現実世界の幼馴染はどうなのさ」


 なんで祐奈は俺の論理の痛いところを突くのがこんなにも上手なのだろうか。

 あまりにも強すぎる。

 創作の世界と現実世界という俺の論理的弱点をしっかりとついてくるなんて……

 

 ……いや、俺が弱いだけか?

 

 そんなことはない、と信じたい。

 俺はいつか祐奈に勝つ男。

 つまり、強い男なのだ。


 ……ただ、この場は黙ってやり過ごそう。

 言っておくが、これは逃げじゃない。戦略的撤退だ。

 ここで無理に突っ込めば立ち直れない敗北を喫する羽目になる——そんな予感がする。

 逃げるが勝ちという言葉もあるし、そうしよう。

 

 ……いや、逃げじゃないんだけどね?

 

 俺は祐奈から目をそらした。


「あっ、また無視してる。もう、私に勝てないなら無駄な抵抗しなければいいのに」


 なんか世界征服寸前の魔王みたいなこと言いだしたな、コイツ。

 この思い上がりを矯正するためにも、俺は早く勝たなくてはならない。

 その思い上がりにふさわしい実力があるから厄介なのだが。


「ま、そんなことはいいや。本題に入るよ」

「本題ってなんだ?」

「そんなとぼけたって無駄。勉強、みっちり教えてあげるから」


 どうやら、時間稼ぎもここまでのようだ。

 粘っては見たが、やはり誤魔化される気はないらしい。


「ほら、さっさと教科書開く」

「祐奈が閉じたんだろうが」

「過ぎたことは気にしない。ほら、早く」


 ちょっとムカついたが、ここで言い返したりはしない。

 なぜなら、俺は大人だからだ。

 時には未熟な幼馴染を許してあげることも大切だろう。

 いやはや、なんて優しい男なんだ。

 

 ……なんだか虚しい。


 だが、そんな虚しさを気にしている暇はない。

 テストはもうすぐそこまで迫ってきているのだ。

 素直に教科書を開き、俺と祐奈の勉強会が始まったのであった。

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