第15話 後輩と喫茶店へ行こう
俺たちは今、喫茶店に来ている。
静かで落ち着いた店だな……なんて思っていたら、店内にはどうやら俺たち以外に客はいないようだ。
そりゃ静かだよな。人がいないんだもん。
でも、店内の雰囲気はかなり良い。アンティーク調の小物がたくさんあってとてもオシャレだ。
まだ知られていない穴場を見つけた気分でちょっと嬉しくなる。
「ご注文は?」
窓際のテーブル席に向かい合って座っている俺たちに、マスターが直接注文を聞きに来た。
コーヒー歴数十年ですと言わんばかりのオーラがあり、なかなかかっこいい。
歳を取ったら、こういったイケてるおじさんになりたいなと少しだけ思う。
「私、ココアがいいです!」
「俺はコーヒーのブラックをください」
「かしこまりました。少々お待ちくださいませ」
メニュー表を見て俺たちが答えると、マスターは一礼をして去っていった。
その所作はまるで執事かのように洗練されている。
こんなにもいいお店なのに人がいないとは……
商売って難しいんだな。
「こちら、コーヒーとココアです」
「ありがとうございます」
「あっ、ありがとうございます! 先輩、飲みましょ?」
人がいないおかげかすぐに頼んだものがすぐに来た。
うん、コーヒーの大人な香りはやはり良い。
「……!」
……苦いけど。
後輩と一緒だからと言って、かっこつけるんじゃなかった。
せめてミルクとかシュガーを入れてもらうべきだった。
でも、後輩が見ているのだ。苦そうな顔をしてはいけない。
「すごい! ここのココア、めちゃくちゃおいしいですよ! ココアにして正解でしたね」
一口ココアを飲んだ関口は満足げな表情だ。
耳とか尻尾とかあったら絶対にピコピコ動いていることだろう。
しかし、美少女がココアを飲むってのは絵になるなぁ。
甘さのおかげか、純度100%の笑顔が自然に生み出されている。
時間が許すだけ見ていたい小動物的可愛さがある。
……にしても、美味しそうにココアを飲むものだ。
あぁ、俺もココアが飲みたい。
(苦いな……)
コーヒーも美味しいのが、少しだけ後悔しているからだろうか。
それとも、甘味を楽しむ後輩を見ているからだろうか。
どちらが理由かはわからないが、いつもよりも苦みが長く残った気がした。
「先輩、結構良い雰囲気のお店知っているんですね。なんだか意外です。行きつけのお店、って奴ですか?」
ココアを飲み終わり、あらためて店内を一通り見渡した関口が尊敬の眼差しを俺に向ける。
「……まぁな? 高校生ですから? これくらいはね……」
その輝く瞳に耐え切れず、つい嘘をついてしまった。
今まで、この喫茶店に足を運んだことはない。
チラシ配りをしていたのを見たことがあり、それを覚えていただけだ。
高校近くの喫茶店なんていつか行ってみたいな、とは思っていたが……そもそも喫茶店自体がぼっちの俺にはあまりにも縁遠い存在のせいで行けていなかった。
「へー、かっこいいですね」
「いや、それほどでも——」
「嘘ついていなかったら」
ゲシゲシッと、テーブルの下で足が蹴られる。
軽く蹴っているだけのつもりだろうが、ローファーのつま先は弁慶の泣き所を正確にとらえている。
つまり、とても痛い。
とはいえ、後輩に痛いからやめてなんて言えるわけない。
さすがにあまりにもかっこ悪すぎるからだ。
ここは嘘を素直に謝罪することでやめてもらおう。
「ごめんって」
すぐさま謝ると関口は蹴るのをやめ、腕を組んでこちらをジト目で見つめてきた。
「まったく、お店に入った時、先輩もジロジロ見回していたの気付いているんですからね。どうしてそんな変な嘘つくんですか……」
「やっぱり、後輩からはかっこよく見られたい、的な?」
「……っ。 いくらかっこよくても、それが嘘なら全然意味ありませんよ。わかっているんですからね? 祐奈先輩とずっと一緒にいること」
「いや、祐奈は幼馴染だから」
「幼馴染だけの距離感じゃないから言っているんでしょうが! どうせ夏休み遊ぶ約束でもしているんじゃないですか?」
夏休み、という単語に少しだけ反応してしまう。
具体的にどこ行くとかは全く決まっておらず、約束通り遊べるかは不安だ。
(恋愛作戦のこともあるし、遊んでくれるといいんだけどな)
今は約束を信じるほかない。
「まぁ、約束だけはしているな」
「やっぱり! 私とはないのに……もう、先輩って人は!」
ハァ~っと大きなため息をつく関口。
どうしよう。ため息までつかれてしまった。
このままだと、先輩の威厳が微塵もなくなってしまう。
なにか、逆転の一手はないか。……ん? ため息?
「おいおい、ため息つくと幸せが逃げちゃうぞ」
「はぁ? 誰のせいだと思っているんですか!」
「俺のせいです。ごめんなさい」
今度は言葉だけでなく、頭を下げて謝る。
ため息を指摘することで、先輩は後輩の幸せを願っていますよムーブしようとしたが……普通に失敗した。
そりゃそうか。俺が原因だもんな。失敗して当然だ。
「でも、先輩が変わっていなくて安心しました」
「え?」
頭を上げると、先ほどまでの少し怒ったような表情は消え、笑顔の関口がいた。
怒ったり、笑ったり……表情がころころ変わるな。
そこが魅力の1つなんだろうけど。
「実は心配だったんです。高校デビュー? みたいなので、先輩が変わってしまっていたら、って」
「それに関しては全く心配する必要ないぞ。だって、勉強が大変なせいで友達少ないから」
「そ、そんなに大変なんですか……? 高校って」
可愛らしい笑顔が固まり、心配そうに見つめてくる。
そうか、よく考えたら関口は中学三年生。受験生なのだ。
目の前にこんな人がいたら、高校生活心配になるよな。
「大丈夫だって。入る高校をちゃんと選んだら多分問題ないぞ。これは俺が身の丈に合っていない高校に入ったせいだから」
「それがそのー……私、先輩と同じ月高が第一志望なんですよね……」
……マジ?




