第11話 幼馴染に抱きしめられる……いや、なんで?
昼寝から目覚めたら幼馴染が後ろにいた。
そうとは夢にも思わずに寝返りした俺は不可抗力で下着を見てしまい、その仕返しで今ハグをされている。
……なんだこれは。
今起きた出来事を最初から振り返ってみても、全く意味が分からない。
これは寝起きで頭が回っていないからとかじゃない。
頭がフル回転しているときでも絶対理解できない。
一体何が起きているんだ?
分からないからといって、ポカーンとしているわけにもいかないので、とりあえず質問でもしてみることにした。
勉強会の時、「わからないことがあれば何でも聞いてね」と目の前の幼馴染が言っていたし。
「あのー……祐奈さん」
「はい、祐奈さんですよ」
「なんで俺、ハグされているの?」
「……お仕置きだから」
これのどこがお仕置きなのだろうか。
身体はもちろん、背中を締め付ける祐奈の腕すら柔らかく、俺のどこにも痛みはない。
つまり、気分は最高。大満足である。
何も罰になっていない。
「……手」
耳元で祐奈が小さくつぶやいた。
「え、なに? 手がどうした?」
「ひろくんも手、使って。ぎゅってして」
一瞬躊躇したが、祐奈が催促するのでお望み通り抱きしめる。
ハグされた瞬間からわかっていたが……祐奈と触れているところすべてが柔らかい。
女の子ってすごいんだな。
「……ありがと」
「……うん」
少し気恥ずかしい。
幼馴染とはいえ、こうやって抱きしめるのは初めてだ。
(……)
俺たちは何も喋らず、ただ抱き合う。
上半身全体でお互いの体温を感じあう。
——ドクッ、ドクッ。
祐奈の鼓動が伝わってくる。
ということは、俺の鼓動も伝わっているんだろう。
「……ひろくん」
俺の名前を呼んだ祐奈の腕に力が込められる。
柔らかいおかげで全く痛くはないが、ちょっと苦しい。
でも、どこか心地いい。
ずっと、こうしていられたらいいのに。
俺も祐奈をさらに抱きしめようとした——その瞬間だった。
——ピピッ、ピピッ。
ここでアラームが鳴った。
俺が寝るときにつけていたやつだ。
この音で、無限のようにも一瞬のようにも思えた時間を過ごした俺たちは現実世界に戻り、離れていく。
祐奈の顔が赤い。
そして、きっと俺も同じはずだ。
少し気まずい空気が流れる。
……何か話す話題はないかな。
そうだ。そういえば、祐奈は何でここにいるんだ?
俺はこの場所を誰にも教えていないのに。
「その、さ。祐奈、どうしてここがわかったんだ?」
「え? あー、えっとね。……走った。そう、走っていたらたまたま見つけたんだよ」
ここは部室棟の非常階段。
部活が行われる放課後ですら、誰も使わない場所だ。
それに加え、俺がいるのは校舎側からはほぼ見えない位置。
2ヶ月近くこの場所を使っていたが、誰かに見つかるどころか人の気配すら感じない穴場中の穴場なのだ。
ただ走っただけで見つかるとは到底思えない。
つまり、これは嘘だ。
目の前の人間は何かを隠しているに違いない、となるだろう。
……これが祐奈以外であれば。
祐奈に関して言えば、この走って見つけたという話が完全な嘘とは言い切れないのだ。
小学生の時、祐奈の家でかくれんぼをして遊んだことがあった。
ルールは家の中で、危険な場所は禁止というものだ。
どうしても勝ちたかった俺は、敷地内なら祐奈の家という解釈を持ち出して、庭の物置に隠れた。
絶対にバレない。30分ぐらいしたら出て行ってやろう。その後は勝利宣言でもしようか。
こんなことを考えていて、ニヤニヤが止まらなかったことを今でも覚えている。
そのニヤニヤ顔のまま、5分であっさりと見つかった。
勝利を確信していただけに、絶望感は半端なものじゃなかった。
悔しかったので、隠れ場所を変えて再度挑んだ。
何度も、何度も、何度も。
しかし、その度に祐奈は俺をすぐに見つけた。
最終的には、1分も経たないうちに。
何が言いたいかというと、この幼馴染、勘が良すぎるのだ。
ルール違反まがいなことをしてもすぐに見つけられるというのは、既に知っていたというわけでないのであれば、天性の勘としか言いようがない。
もしかすると、傾向と対策みたいなものがあるのかもしれないが、小学生でそんな高レベルなことできるわけないしな。
やはりこれは持ち前の勘の良さなのだろう。
もしかしたら、いつも言っている「未来人」という話は単なる中二病というわけではなく、この勘が鋭いことをオーバーに自慢しているだけなのかもな。
「勘」という言葉は使っていないが、恐らく今回も、その勘で分かったんだろう。相変わらず凄すぎる。
よく見ると、走った証拠と言わんばかりに若干汗もかいているしな。
嘘とは思えない。
「……さすが、恐ろしいまでの勘だな。それで? わざわざ探し出してまで何か用か?」
「えっ⁉ ……っと、そうだよね。顔を見たかったというか、生きていてくれてありがとうというか、なんというか……」
「なに? 俺、今日で死ぬの?」
何かよくわからないことを言われたので、上を見てみる。
天国って言うんだから、やはり上にあるものだろう。
見えるのは、上の階へつ続く金属製の階段だけだけど。
ちなみに、迷わず天国の方を見たのは、きっと天国に行けるはずだからだ。
悪いことはしていないはずだし、きっと神様は天国につれていくだろう。多分。
もし、天国がなかったら……その時は異世界転生でもさせてください。
お願いしますよ、神様。
上を見るだけでなく、天使の羽のように手でパタパタするなど、軽いボケをしてみる。
笑ってくれているといいな、と思い目を戻すと——そこにあったのは笑顔ではなく、顔面蒼白の祐奈だった。




