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自称・未来人の幼馴染  作者: 千夏ケイ


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side:祐奈 変化

「今度、近くにパン屋さんができるんだって」

「うそ! できたら一緒に行こうね!」


 友人たちが私の周りで雑談している。

 普段なら私もその輪に入っているはずだけど、今日はちょっと話が違う。

 

 チラッと後ろを見る。

 そこには、自分の席に座りながら頭を抱えている悩みの種の姿があった。

 彼と席は結構離れているので、盗み見したのはバレていないはずだ。


 それにしても、なんで頭を抱えているんだろうか。ちょっと心配になってきたな。

 

 ……いや、ちょっと待て。頭を抱えたいのは私の方のはずだ。

 心配なんかしている場合じゃない。逆になんかムカついてきたな。


 八つ当たりのような感情を抱いていると、後ろから朝隈君が近づいてくるのが見えた。

 

 彼はとても優秀な人だ。

 それは将来、車両の完全自動運転システムの技術を確立し、そのシステムを日本中に広めるほど。

 内面についても悪いうわさは聞いたことがないので、彼に任せておけばとりあえずひろくんは大丈夫だろう。


 でも、ちょっと気になるな。

 朝隈君と何の話をしているのだろう。


 アニメや漫画の話だろうか。

 勉強の話という線もあり得る。


 それとも——私の話だったりして。


 ……なんてね。そんなわけないか。


 そんな妄想をしていた時だった。


(……!)


 ひろくんがこっちを見てきた。

 いつの間にか私はひろくんをまじまじと見ていたようで、正面から目と目が合う。


 目が離せない。


 時間が止まったかのように固まってしまう。

 周囲の友達の雑談も聞こえない。

 まるで、世界が私たち2人だけになったかのような感覚だ。


 感じられるのは、私の内側で沸騰しそうになっている熱とひろくんの目線だけ。


 あぁ、かっこいいな。

 やっぱり好きだな。


 押さえつけるべき恋心は今にでも暴走しそうだ。


「——ちゃん、佑奈ちゃん!」


 友達の声が私を現実世界に連れ戻す。


「え、何? どうしたの?」

「どうしたの、じゃないよ。誰のことみてたの? 朝隈君?」

「いや、違——」

「あーわかるかも。いいよね、朝隈君!」


 否定しようとしたところに別の友達が話を広げだす。

 女の子の恋バナは唐突に始まるのだ。


 まぁ、ひろくんが好きとバレないからいいのだけれど。


「でもさ、隣の篠崎君もなかなか良くない?」

「ちょっとわかる! なんだろう、猪突猛進ってところがかわいいよね」

「うーん、私はわかんないかも」


 話題がひろくんに移ったことで私はハッとする。

 そっか、ひろくんも結構人気なんだ。


 幼馴染に人気があってうれしいと思う反面……

 ……なんかちょっとモヤモヤする。

 ひろくんは私のなのに。

 こっちは未来から会いに来るほどなんだぞ!


「あっ、そうだ。結局祐奈ちゃんはどうする?」


 友達に話しかけられ、意識をひろくんから外す。


「ごめん、話聞いてなかった! 何の話だっけ?」

「もう! しっかりしてよねー。 パン屋さんができるって話だよ。できたら一緒に——」


 そこからも雑談は続き、気付けば1時間目の授業が始まる時間になっていた。

 高校の授業は2週目で、すべて復習みたいな感じだけれども、油断は禁物。集中しなくちゃ。


 ◇


 昼休み。私は友達と一緒にお弁当を食べていた。


 本当はひろくんと一緒に食べたいけれど、幼馴染だからといって四六時中付きまとうわけにはいかない。

 それでひろくんに嫌われるのは最悪だ。想像したくもない。

 

 それに、彼の死までにはまだまだ猶予がある。

 裏を返せば、私が一緒にいなくても、彼が危険な目に合うことは絶対にない。


 ひろくん自身も朝隈君が何とかしてくれたのか普段通りの雰囲気に戻っていたし、安心だ。

 流石は朝隈君。優秀だ。


 朝隈君の未来での功績を思い出して褒めていると——


 ……あれ?


 ——気付いた。


 そういえばこんなこと、1周目の世界ではなかった。


 他の人ならいざ知れず、ひろくんに「祐奈のことがもっと知りたい」なんて言われたら忘れるわけない。

 それなのに、そんな記憶はどこにもないのだ。


 1周目の世界を含めても初めての体験である。


 あり得るわけない。あり得ていいわけがない。


 私は未来人だ。未来から過去に戻ってきた。


 だったら、起こる出来事も過去と同じでなくてはならない。

 なのに、現状はどうか。私の知らない出来事が起こってしまっている。


 未来人だということは何度も言っているとはいえ、介入は最低限にとどめているのに。


 どうして、と考える前に体が動いた。


 「あれ、祐奈ちゃんどうしたの?」

「ごめん、ちょっと用があったの忘れてた!」


 いきなり立ち上がった私にびっくりした様子の友達を尻目に、私は走った。


 すべて過去通りに進んでいるわけではない。


 それはつまり、ひろくんの身の安全は何も保障されていない、ということを意味する。

 そして、ひろくんは高校2年生を迎えられず、死ぬ運命にある。

 その時期が少し早まったって、何ら不思議ではない。

 

 こんなことに気付いておいて、落ち着いていられるわけがない。


(ひろくん、大丈夫だよね?)


 不安が私の心を支配する。

 とりあえず、今は1秒でも早くひろくんの顔が見たい。


 幸い、私は未来人。

 

 この時期のこの時間。

 彼が居る場所は知っている。


 弁当箱を急いで片付け、私は教室を飛び出した。

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