表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
チャーム・オペレート-支配の口付け  作者: グリーン・シールド


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/15

囚われた不屈の少女

「いいかげんに認めなさい。あなたは愛の女神の名の下に、()の男と結婚するのです。それとも、まだ薬が足りませんか?」

 執務室のさらに奥、地下へと続く隠し部屋。そこには一人の黒髪の少女が椅子に縛り付けられていた。

 先ほどの話から察するに、彼女はこの街の商家の出で、教会が仕組んだ「決められた結婚」を拒み続けているのさろう。

 司祭らしき男が差し出す、怪しげに発光する液体。

「これは、いつも以上に強い薬だ。これを飲めば、貴女も“真実の愛”に目覚める。政略だなんて悲しい考えは捨てて、私たちが選んだ立派な騎士様を愛せるようになるんですよ」

 --自分の身を滅ぼす前に、ね。

 男は小声でそう付け加える。

「……お断りよ。誰を好きになるかは、私の心が決めること。あなたの用意した毒で、私の心を汚させはしないわ」

 彼女の声は枯れていたが、その瞳には月の姫エレノアが持っていたものと同じ、強固な意志の火が宿っていた。「いつも以上の薬」と言う男の言葉と、どこか焦っているような彼の態度。そして、この部屋には彼女以外の人影がないことから、どうやら彼女には教会の「洗脳薬」が効きにくい体質があるらしい。

「ふん、強情な……。では、直接『愛の教育』を施すしかなさそうですね」

 男が卑俗な笑みを浮かべて彼女の顎に手を伸ばしたその時、背後の扉が派手に蹴破られた。

「悪いね、司祭様。教育なら俺の方が得意なんだ」

「貴様は…さっきの志願者か! 何をしに来た!」

「何って、君たちのやってる『ビジネス』の邪魔だよ」

 グウェイクは目にも止まらぬ速さで踏み込むと、司祭の腕を捻り上げ、壁へと叩きつけた。

「ぐ、あああッ! 衛兵! 衛兵は来ぬか!」

「無駄だよ。外の連中は今頃、僕がかけた『魔法』で、お互いを運命の相手だと思い込んで抱き合ってる最中さ」

 グウェイクは内心、保険をかけておいて良かった、と安堵していた。しかし時間が無いことには変わりない。

 彼はあえてあからさまに冷笑をつくり、司祭を付近に落ちていた縄で縛り上げると、反対に彼女を縛っていた縄を短剣で切り裂いた。

「……助けてくれたの?」

 彼女が不安げに見上げる。グウェイクはいつもの軽薄な笑みを浮かべ、彼女の前に跪いた。

「ああ。君みたいな意固地な女の子、嫌いじゃないからね。……でも、一つだけ確認させて。君のその『心』、守り通す自信はあるかい?」

「ええ。死んでも、偽物の愛に膝をつくつもりはないわ」

 彼女は強気に答えた。

 その言葉を聞いた瞬間、グウェイクは確信した。彼女をここで助けても、あの村のリリィのような悲劇は起きない。なぜなら、彼女は「奪われること」を拒絶し続けているからだ。

「合格だ。じゃあ、ちょっと失礼」

 グウェイクはを横抱きに抱え上げると、元来た道を若干戻る。

「な、何を……!出口はあっちよ!!」

 困惑する彼女を他所に、グウェイクは途中にあったステンドグラスを蹴破った。

 衝撃で舞い上がったガラス片が、月光を反射して美しく輝く。

「正門から出たら面白くないだろ? ほら、しっかり掴まっててよ。お姫様」

 グウェイクは強気に笑いながらそう答えた。

 当然、正門から出れば、騒ぎを聞きつけた衛兵に捕まる可能性が高い。人数ではあちらの方が格段に上なのだ。それを予期してのグウェイクの言葉遊びである。

 月の光が差し込む夜の街へと、二人は飛び出した。

 背後で喧騒が大きくなる「偽りの聖域」を尻目に、グウェイクは屋根の上を跳ねていく。

 胸の中の苦みはまだ消えない。だが、彼女を抱える腕の重みと、彼女が必死に自分の服を掴む感触だけは、これまで奪ってきたどの「心」よりも、確かな手応えを持ってグウェイクの体温を上げていた。



 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ