白亜の城は月光に照らされ
フレイヤ隊長から手に入れた「緊急事態用・特別通行許可証」。それは、平時であれば平民が触れることすら許されない、王家の紋章が刻まれた黄金のプレートだった。
「いやあ、持つべきものは『話のわかる』恋人(10分限定)だね」
グウェイクは夜の闇に紛れ、王城の通用門へと向かう。
普段なら厳重な警備が敷かれているはずの門番たちも、最高位の警邏隊長のサインが入った許可証を突きつけられれば、不審に思いつつも道を開けるしかなかった。
「お疲れ様。極秘の任務でね、姫様に急ぎの報告があるんだ」
そう言って軽薄なウィンクを投げかけ、グウェイクは城内へと足を踏み入れた。
城の内部は、外の喧騒が嘘のように静まり返っていた。
高い天井には豪華なシャンデリアが輝き、磨き抜かれた大理石の床は、グウェイクの足音を幽かに、だが冷徹に反響させる。
「さて、ここからが本番だ」
通行証があるとはいえ、あまりに堂々と歩き回れば、城内の近衛兵たちに怪しまれるのは時間の問題だ。グウェイクは華やかな大通りを避け、手近な衛兵を「魅了操作」し、使用人用の隠し通路を聞き出すことに成功した。
隠し通路は壁の裏側にあった。埃っぽい狭い階段を音を立てず駆け上がる。
時折、曲がり角の先から鎧の擦れる音が聞こえるたび、彼は猫のような身軽さで天井の梁に身を隠した。
「……あったあった。あれが『月の塔』への連絡通路だな」
三階の回廊を抜けた先、ひときわ高い塔へと続く美しいアーチ状の橋が見える。
そこは、夜空の月を最も美しく眺めることができることからその名がついた、王女の居室がある場所だ。
そこを守る近衛兵たちは、これまでの門番とは格が違った。一切の無駄口を叩かず、微動だにせず扉の前に佇む二人の男性重装歩兵。
「困った。男性には『魅了操作』は通じない…」
かといって、正面から進めば入れてもらえるはずもなく、グウェイクは思案した。
彼は閃いた。普通にやっても通用しないのなら、間接的に「魅了操作」を行えば良い、と。
彼はすぐさま実行に移した。元来た隠し通路を逆走し、孤立していた女性衛兵を「魅了操作」したのである。彼女に、門前の衛兵が移動するよう伝えられた、と誤情報を流させた。
しばらくすると、2人の衛兵は訝しげながらも階下に降っていった。
「作戦通り!」
彼は喜んだ。しかし衛兵が誤情報を流された気づくのも時間の問題だ。
彼は勇んで月の姫が居るであろう門前に立つ。
塔の最上階。精緻な銀細工が施された、重厚な白檀の扉。その隙間からは、ほんのりと月光を思わせる冷たくも美しい魔力が漏れ出している。
「この向こうに、あの『月の姫』がいるわけか……」
グウェイクは一度、乱れた前髪を整え、自信に満ちた笑みを浮かべる。
どんな高貴な女性であっても、彼の「口づけ」の前に跪かなかった者はいない。
「お待たせ、姫様。君の世界を変えに来てあげたよ」
グウェイクの指先が、静かに扉の取っ手へとかけられた。
次回、本当にエレノアと会います。




