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赤髪の隊長と甘い罠

 「また貴様か、グウェイク!!」

 王城への侵入を試みようと画策していると、鼓膜を突き刺すような鋭い声が、夕暮れの路地裏に響き渡った。

 石畳を蹴る硬いブーツの音。背後から迫る圧倒的な威圧感に、グウェイクは「やれやれ」と肩をすくめる。

「おやおや、フレイヤ隊長じゃない。そんなに血相を変えて、僕に会いたくて仕方がなかったのかい?」

 グウェイクが余裕の笑みで振り向くと、そこには白銀の軽鎧に身を包んだ女性、警邏隊長のフレイヤが立っていた。燃えるような赤髪をポニーテールにまとめ、その凛々しい瞳は怒りで燃え上がっている。

「黙れ、食い逃げ常習犯! 今日こそはそのふざけた面を牢獄の格子に叩きつけてやる!」

 フレイヤは腰のレイピアを抜き放ち、一足飛びに間合いを詰めてきた。鋭い突きがグウェイクの頬をかすめる。

「おっと、危ない! 美男子の顔に傷がついたら、この街の女の子たちが泣いちゃうよ?」

「黙れと言っている!」

 フレイヤの攻撃は正確無比だ。他の隊員たちとは格が違う。グウェイクは「魅了操作チャーム・オペレート」を仕掛ける隙を狙うが、彼女はそれを熟知しているかのように、決して唇が届く間合いを許さない。

「……さすがだね。俺の思考をよく分かってる」

「貴様の卑劣な術など、何度も見せられていれば対策は容易い! 術をかける前に、その不浄な唇ごと叩き切ってくれる!」

 フレイヤの剣筋が加速する。グウェイクは背後の壁に追い詰められた。逃げ場はない。フレイヤの剣先が彼の喉元に突きつけられる。

「終わりよ、グウェイク」

 フレイヤの勝利を確信した瞳。だが、グウェイクはニヤリと口角を上げた。

「……ねえ、フレイヤ隊長。一つ言い忘れてたけど、僕、今日は『わざと』追い詰められたんだよね」

「なにッーー!?」

 フレイヤが訝しんだ瞬間、グウェイクは自ら剣先に向かって一歩踏み出した。喉元に剣が触れるのも構わず、彼は彼女の腕を掴み、その勢いを利用して体を引き寄せる。

「なっ、貴様、死ぬ気か!?」

 驚きで剣を引こうとしたフレイヤの動揺。それが最大の隙となった。

 グウェイクは彼女の首筋を抱き寄せ、その強気な唇を力強く塞いだ。

「んむっ……!?」

 フレイヤの目が大きく見開かれる。抵抗しようとする力が、一瞬にして抜けていく。

 グウェイクの瞳の中で、紫色に輝く魔力の奔流が渦巻いた。

 『魅了操作チャーム・オペレート』発動。

 数秒後、グウェイクが唇を離すと、フレイヤは剣を床に落とし、頬を赤く染めてその場にへたり込んだ。

「あ、ああ……グウェイク様……。私、なんてことを……」

「いいんだよ、フレイヤ。君のその凛々しい顔が、僕を求めて蕩ける瞬間……最高にゾクゾクする」

 グウェイクは彼女の顎を指先で掬い上げ、耳元で甘く囁いた。

「さあ、隊長さん。部下たちには『犯人を見失った』と伝えて。それから――俺が城へ向かうための『通行証』、君の権限で用意してくれるかな?」

「はい……。貴方のお望みのままに、我が主よ……」

 フレイヤの瞳からは先ほどまでの闘志が消え失せ、ただ盲目的な愛の悦びだけが宿っていた。

 通行証を受け取り、その様子を満足げに眺めながら、グウェイクは城の一角を見上げる。

「さて、最強の門番も味方につけた。次は……月の姫に、ご挨拶といこうかな」

 グウェイクはまだ見ぬ月の姫を想像し、高鳴る鼓動が抑えられなかった。

 夕闇はいっそう深みを増していく。


次回、たぶんエレノアと対面する。

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