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チャーム・オペレート-支配の口付け  作者: グリーン・シールド


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【後日談】愛の味は日常の中に

 グウェイクが目覚めてから1年の歳月が経った。

 平和を取り戻した街は、少しずつ以前の様相を取り戻しつつある。

 あの後、帝国は追撃を送って来なかった。王国が捕縛した魔法士達については完全にシラを切った形だ。

 しかし、いつまた軍事侵攻が始まるかは分からない。エレノアもこの期間、東奔西走していたようだ。

 その甲斐あってか、街の一角には新しい店もオープンし始めた。

 その内の1つ、小さなカフェで働いている人影がある。

 エプロン姿でトレイを運ぶその影は、かつての希代の食い逃げ犯、グウェイクだった。魔力を完全に失った彼は、もう指先一つで人を操ることはできない。しかし、その顔には、かつての薄っぺらな笑みではなく、少しだけ疲れつつも充実した、穏やかな微笑みが浮かんでいた。

 彼は目覚めた後、少しの療養期間を挟んでここで仕事をし始めた。

 それもただの店ではない。

 この店は、グウェイクがかつて食い逃げをしたことのある店が前身で、店長も当時と変わらない。

 しかしグウェイクはどうしても謝りたかった。今の店長だけでなく、かつて食い逃げをした店の全ての方々に。

 そこで彼は「働いて返します。その節は大変申し訳ございませんでした」と言って土下座して各所に直接謝りに行った。

 その一環で、現在こうして働かせてもらえている。

 毎日馬車馬のように働き、当時の食事代と迷惑料を合わせて払っている最中なのだ。

「はい、お待たせ。特製ベリータルトと、温かいミルクティーだよ」

「ありがとうございます!このタルト、本当に甘くて大好きなんです!」

 客席で笑うのは、この国の王女・『月の姫』エレノアだった。公務の休日の合間を縫ってこうして「1人の女性」としてこの店に通い詰めていた。

「それから…休憩になったら、こっちへ来てください。2人でお話ししましょう」

「ああ、もうちょっとだ。それまで少し待っててくれ」

 少し経つと、パラパラと客が帰り始める。

 店内に数人しか居なくなったところで、店長に一言告げて休憩をとった。

 2人が座っているのはテラス席。街を抜ける穏やかな風が、2人の間を吹き抜ける。

「いつもありがとな。こっちも毎日王城へ行けるワケじゃなくてすまん」

 少し残念そうにグウェイクが謝ると、エレノアは笑って否定する。

「いいんですよ。グウェイクが真面目に働いているでけで私は感動ものです」

 そんな風にイジられた彼は、「はは…」と乾いた笑いをすることしかできなかった。

(みんな)この数年で変わってしまいました…」

「そう言えば、フレイヤが昇進したんだって?俺も頑張らないとな」

 フレイヤは前回の功績も相まって「副兵士長」に昇進したらしい。大変おめでたい話だ。後で直接会ったら賞賛の言葉を送ろうか。

 フレイヤ以外の人についても耳にしている話がある。

 エディスは同じような教会の被害者達を集めた集団をつくり、証拠を集めて教会の悪事を暴こうとしているらしい。

 シエナはまず国民の前で深々と謝罪したらしい。その上で『不当恋愛』を罰する法を撤回し、国の復興に勤しんでいるらしい。

 たった2年と言うが、それでも人はこんなにも大きく変わる。成長する。

 逆に言えば、自分はその機会を逃したということ。彼女らに追いつくためには、それ以上に頑張らないといけない。

「やっぱり、姫様と一緒に飲むお茶は格別だね」

 自分で淹れた紅茶を一口飲む。

 そして「フーっ」と息をつくと、エレノアの美しい瞳を見つめる。

「俺は今、本物の『甘さ』を追求している最中だ」

「ふふ。もちろん存じておりますよ」

「だからもっともっと頑張って、働いて、試行錯誤を繰り返していかないといけない」

 グウェイクの思い詰めたような表情に、エレノアは少し心配の色を浮かべる。

「……ねぇ、グウェイク。今でもたまに思うのです。あの力のあった頃の貴方の方が、自由だったのではないかと」

 エレノアが少しだけ真剣な瞳で彼を見つめる。

 グウェイクは空を見上げ、自分の掌で唇を覆ったりしてみせた。そこにはもう紫色の光は宿らない。

「自由か……。確かに、何でも思い通りにできた頃は楽だったよ。でもね、エレノア。今の俺は、自分の足で歩いて、自分の言葉で伝えて、そして……」

 彼はエレノアの手をそっと握りしめた。

「こうして君が笑ってくれる理由を、自分の魔力じゃなく、自分の『心』だと確信できる。それが何よりも誇らしいんだ」

 エレノアは愛おしそうに目を細め、彼の肩に頭を預けた。

 かつて奪い取った「10分間の偽り」よりも、今ここにある「永遠の1秒」の方が、何千倍も重く、温かい。

「あ、そうだ。……もう一度だけ、確認させて」

 グウェイクが不敵に笑い、エレノアに顔を近づける。エレノアは心得たように、静かに瞳を閉じた。

 交わされたのは、魔法も呪いもかかっていない、ただの口づけ。

 だがその味は、かつてグウェイクが食べてきたどんな銘菓よりも「甘い」真実の味だった。

 これにて物語は完結です。本当にありがとうございました。

 最後に裏話を挟むと、構成段階では各登場人物にはファミリーネームがあり、王国等にも正式名称がありました。しかしそれだと読者の皆様が物語を理解するのに時間がかかってしまうと思い、その設定は削除させていただきました。

 「童話のような物語を」がこの作品のテーマでした。少しでもその片鱗を味わっていただけたなら、作者として幸いです。

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