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チャーム・オペレート-支配の口付け  作者: グリーン・シールド


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15/16

“真実の愛”の目覚め

 王都に降りたった未曾有の危機が去ってから、二年の月日が流れた。

 かつての戦場となった王城の一角、日の光が優しく差し込む静かな部屋で、グウェイクは今も眠り続けていた。その顔は穏やかで、まるで長い午睡を貪っているかのようだが、その瞳が開かれることは一度もなかった。

 傍らには、公務の合間を縫って毎日ここを訪れるエレノアの姿があった。

 彼女はかつての冷たい「月の姫」ではない。民を慈しみ、一人の男を待ち続ける、一人の女性としての柔らかな光を纏っていた。

「……グウェイク。街にはまた新しい春が来ましたよ」

 彼女は手慣れた仕草で、寝台の脇に活けられた花を新しいものに替える。その花は、かつて彼が旅した氷の都のシエナや、教会の街のエディスから、彼の無事を祈って届けられたものだった。

「貴方が教えてくれた『心と向き合う勇気』で、この国は少しずつ変わり始めています。……でも、貴方がいない世界は、私にとってまだ少しだけ広すぎます」

 エレノアはそっと、グウェイクの力のない手に自分の手を重ねた。

 彼の魔力はあの日に枯れ果て、もう『魅了操作(チャーム・オペレート)』の面影すら残っていない。今の彼は、魔法も力も持たない、ただの不器用な一人の男だ。

 ふと、エレノアはあの日、彼が最後に自分に贈った言葉を思い出した。

 『本当の魅了を見せてやる』と言って彼が捧げた、あの命がけの口づけ。

「……今度は、私の番ですね」

 エレノアは静かに身を乗り出し、祈るように目を閉じた。

 それは、何か根拠があっての行動ではない。

 それは、王女としての義務でも、誰かに強制された儀式でもない。

 自分の心の底から溢れ出した、ただ一つの、純粋な願い。


 彼女は、そっとグウェイクの唇に、自らの唇を重ねた。


 刹那、部屋を揺らした風がカーテンを大きく広げた。

 エレノアが顔を離すと、グウェイクの長い睫毛が、ピクリと震えた。

「……ん、……っ」

 微かな吐息とともに、二年間閉じられていた瞳が、ゆっくりと、光を探るように開かれた。

 焦点の定まらない彼の瞳に、涙を浮かべて自分を見つめるエレノアの顔が映り込む。

「……姫、様……?」

「グウェイク……?ああ、グウェイク……!」

 エレノアは彼の胸に顔を埋め、子供のように声を上げて泣いた。

 グウェイクは戸惑ったように、ゆっくりと、だが確かに自分の意思で彼女の背中に手を回した。かつての魔力による支配などそこにはない。ただ、肌から伝わる温もりだけが、そこにあった。

 グウェイクは、自身の喉を潤す、今も残る不思議な余韻に、優しく目を細めた。

「……驚いたな。……今の、君の口づけ……」

 彼は枯れた声で、だが心底幸せそうに、かつてエレノアに「苦い」と言われたあの言葉を塗り替えるように呟いた。

「……最高に甘くて、……そして、温かかったよ」

 その瞬間、グウェイクの心の中にあった「空白」は、完全に埋まった。

 奪うためではなく、与えられるために。支配するためではなく、共にあるために。

 食い逃げ常習犯のチャラ男が、世界で一番不器用な旅の果てに見つけたそれが、彼にとっての“真実の愛”だった。

これにて『チャーム・オペレート-支配の口づけ』

完結です!ここまでご愛読いただきありがとうございました。次回は後日談を書いて本当に完結となります。

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