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チャーム・オペレート-支配の口付け  作者: グリーン・シールド


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最後の口づけ

 崩壊の進む王城内、その最上階。

 この通路を渡れば「月の塔」は目の前だ。

 紫色の呪霧が渦巻く中、グウェイクは額に大粒の汗を浮かべ、肩で息をしながら、ようやくエレノアが居るであろう部屋の前へと辿り着く。

 門前では1人の男性衛兵が武器を構えて扉を塞いでいた。

「そこを動くな!!」

 衛兵の声が響き渡る。

「うるせえッ!!こっちは助けに来たんだ!現にお前1人しかここを守っていないじゃないか!」

 あの日、前回ここを訪れたときは2人の衛兵が守っていた。

 しかし今は戦闘要員として出払っているのか、1人しかいない。

「なッ……!?その情報をどこで…!?」

「いいからじゃまだ!どけ!」

 一応のノックをしつつ、強引に扉を開け放った。

「姫様…!助けに来たぜ…!!」

 そこには、かつての凛々しさを失い、青ざめた顔でベッドに座るエレノアの姿があった。彼女の両手からは、民を守るための金色の魔力が糸のように伸びているが、その輝きは今にも消え入りそうなほど細い。

 グウェイクの視線と、エレノアの視線が交差する。

「貴方は……!どうしてここに……!?」

 驚き、目を丸くするエレノア。

 透き通った白い肌と、可愛らしい目元。

 その非現実的な美しさに思わず見惚れるグウェイク。

 しかし自分自身を奮い立たせるかのように、自らの手を胸元に打ちつけると、エレノアの瞳をまっすぐ捉えてこう言った。

「決まってんだろ。お前が好きだからだ」

 身体が熱を帯びてくるのを感じる。

 今までの人生で何度も『表面上は』好きだと口にすることはあった。

 しかしこれは彼の本心からの言葉。

 上っ面だけではない言葉の発し方に自分の身体も驚いているようだ。

「……」

 エレノアもその言葉を聞いて何も言えない。

 無言の状況に耐えきれなくなったグウェイクは、言葉を紡ぎ出す。

「…逃げるのは、もう飽きたんだ。君に言われた『空っぽ』な自分に戻るのもね」

 そう言ってグウェイクは彼女の前に跪くと、彼女の冷え切った手を取った。

 彼の体内から、かつてないほどの魔力が溢れ出してくる。それは、自らのスキルの源を燃やし尽くす、命の灯火そのものだった。

「……っ、まさか貴方っ…!」

 その言葉、その行動が何を意味するのか悟ったエレノアは、手を振り払って彼を止めようとする。

「やめなさい! その力を使い切れば、貴方は二度と――」

「二度と戻れない道だってのは、もう承知の上さ」

 グウェイクがエレノアの唇に自分の唇を合わせ、魔力を流し込もうとしたその時。

 静寂を切り裂くように、重厚な靴の音が廊下に響き渡った。

「感動的な場面を邪魔して済まないね。だが、エレノア姫はこっちに渡してもらおう」

 衛兵が再度閉じたはずの扉を蹴破って現れたのは、帝国の魔法士団――その精鋭たちだった。

 十数人の魔法士が杖を掲げ、扉の傍にいた衛兵を焼き殺す。

 さらには重装の傭兵らしき帝国兵たちが剣を抜いて二人を包囲する。その中心に立つ司令官らしき男が、冷酷な笑みを浮かべた。

「王女エレノアの身柄と、禁忌の魔石。すべて我ら帝国が接収する。……名もなき泥棒猫(おとこ)よ、おとなしくソイツを渡してくれれば痛い目には合わせないぞ?」

「生憎と、そんなマネは微塵もするつもりはない」

 威圧するように断言するグウェイク。

「貴様に何ができる? 滅多なことをすれば、その瞬間に貴様の背中は我らの魔法で蜂の巣だ」

 状況は最悪だった。

 エレノアを救うために単身突撃しようにも、その瞬間グウェイクは無防備になり殺される。

 かといって時間をかければ、エレノアの結界は崩壊し、街もろとも死の呪いに飲み込まれる。

「……グウェイク、もういいのです。私を置いて、貴方だけでも……」

 エレノアが震える声で呟く。だが、グウェイクは彼女の手を離さなかった。

 それどころか、彼は敵の大軍を前にして、いつもの……いや、これまでで最高に不敵な笑みを浮かべてみせた。

「愛ってのは『勇気』だって、どっかの公女様に教わってね。……姫様、最期の賭けに付き合ってくれるかい?」

 グウェイクは背後の魔導士団に背を向けたまま、エレノアの瞳だけを真っ直ぐに見つめた。

 敵の杖が眩しく光り、一斉射撃の呪文が唱えられようとしている。


「一斉射撃! 灰も残すな!」

 司令官の号令とともに、十数本の杖から極大の破壊魔術が放たれた。紅蓮の炎と白雷が、無防備なグウェイクの背中を飲み込もうと迫る。

 だが、グウェイクは振り返りもしなかった。

「……本当の『魅了』ってやつを、見せてやるよ」

 グウェイクはエレノアの唇を、優しく、そして深く奪った。

 それは強引な奪取でも、支配のための契約でもない。自らの命、記憶、そしてこれまで積み上げてきた全ての魔力を、相手へと捧げる覚悟の口づけ。

 彼の身勝手な欲望だった『魅了操作(チャーム・オペレート)が、究極の自己犠牲を経て、『魂の共鳴』へと昇華した瞬間だった。

 身体の内側で魔力が爆発するのを感じる。

「――っ!?」

 二人の体から、眩いばかりの純白の波動が爆発的に広がった。

 迫りくる敵の魔法は、その光に触れた瞬間に花びらのように霧散し、逆に魔法士団全体を包み込む。

 光に触れた兵士たちは、武器を落とし、戦意を喪失してその場に膝をついた。

 それも、性別を問わずである。

 彼らの脳裏に流れ込んだのは、グウェイクが旅で見てきた「愛」の断片。誰かを守りたいと願う痛み、温かさ、そして後悔。その膨大な感情の濁流に、冷酷な兵器だった彼らの心は一瞬で「魅了」され、戦う意味を失ったのだ。

「いい子達だ……」

 グウェイクは震える声でそう言うと、最後の命令を下す。

「君達は、後から来る王国兵に自首を申し出なさい……」

 掠れた視界がグウェイクを覆う。

「はい!グウェイク様!」

 窓の隙間から月光がそそぐ。

 どうやら王城を覆っていた死の呪霧は、グウェイクが捧げた光によって洗い流されたようだ。

 だが、その光の中心で、グウェイクの体から力が抜けていく。

「……姫様…これが俺の…“真実の愛”の、形です……」

 消えいりそうな声で最後にそう呟くと、グウェイクはエレノアの腕の中へ崩れ落ちた。

 彼の瞳からは紫色の魔力の灯火が消え、その肌は雪のように白く、冷たくなっていく。

「グウェイク? グウェイク! 目を開けてください!」

 エレノアの叫びが響くが、彼の意識は深い、深い闇の底へと沈んでいた。

 力を使い果たし、魂の根源を焼き切った代償。それは、いつ覚めるとも知れない深い眠り。

 城の窓から差し込む月光は、呪いを打ち払った救世主を照らしたが、その救世主はもう、二度と軽薄な冗談を言うことはなかった。

 静まり返ったエレノアの部屋。

 彼女は、自分のために全てを捨てた「かつての食い逃げ犯」を強く抱きしめ、初めて人目も憚らずに涙を流した。

 その涙は、グウェイクの頬を伝い、静かに床へとこぼれ落ちた。





次回、エピローグにて物語完結です!

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