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チャーム・オペレート-支配の口付け  作者: グリーン・シールド


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11/16

冷たい規律の起源

 明朝、グウェイクは借りていた宿を後にする。

 雪は降っていなかったが、曇り空が広がっている。

(まずは、女王様の出生を知っている人がいないか聞き込みをしなくちゃね)

 彼は昨日、老人が「新しい女王が立脚してから、『不当恋愛』を罰する法律ができた」という旨の話をしていたことを思い出し、彼女の出生にその起源があるのではないかと考えたのだ。

 曇りからか、まだ薄暗い街を闊歩し、道行く人に尋ねてみることを決意する。


 聞き込みは思いの(ほか)難航した。

 グウェイクがその情報を知ったのは3つ目の街に入ってからである。

「女王様の出生、ね……」

 50代程の男は言い淀んだのか、一言間を置いて続ける。

「…実は女王様の家族の方が戦争で亡くなられたんだ。そのことで深く心を傷つけられたのは確かだろうね」

 男はバツが悪そうな顔を浮かべて、若干早口にそう言った。

「戦争?どの国とやったんですか?」

 グウェイクは不審に思って辺りを見回すも、10年程という月日を鑑みると、およそ街は綺麗すぎるように見える。

「…いや、俺も詳しいことは分からない。ちょうどあの塔を超えた先に昔の女王様を知っているお婆さんが住んでいるらしい。その人に訊いてみてはどうだ?」

 男は若干早口に捲し立て、そう言い残し去っていった。

 疑問に残る点はありつつも、グウェイクは新たな手がかりを手に入れた。

 彼は迷いなくその家へと向かった。

 エディスに貰ったマントが、風でたなびいている。


 その家は比較的小さく、年季が入っていた。

 グウェイクがノックをすると、戸を開けて中からお婆さんが顔を見せた。

「少し伺いたいことがあって来ました。お時間頂けますか?」

 お婆さんは無言でグウェイクの体を上から下まで見ると、「…入れ」と言って中に通してくれた。

 中はカーペットが敷き詰めてあり、壁には絵が掛けられていた。

 居間にある暖炉のおかげで暖かな空気が漂っている。

 グウェイクはそこで椅子にかけるように言われる。

 そしてそこでお婆さんと対面する形で座った。

「今日はこの国の女王様について知っていることがあればお聞きしたいと思って来ました」

 グウェイクがはっきりした、されど静かな声でゆっくりとそう切り出した。

「…女王様、か。生憎と儂はなんの情報も持ってはおらんよ」

 グウェイクの下げた頭を空虚な眼で見下ろしたお婆さんは、吐き捨てるようにそう告げた。

 しかしグウェイクは動じない。

 ゆっくりと頭を上げながら、視界に入った、お婆さんの後ろに飾ってある1枚の絵画を見ながら言う。

「…もしかすると、貴方の娘さんは王女様のメイドさんではありませんでしたか?」

「--ッ!?」

 お婆さんは目を見開き、警戒したのかグウェイクを凝視する。

「あの絵が美しかったため、思わず見入ってしまいまして」

 グウェイクは優しく指摘する。

 お婆さんは思わず振り返ると、観念したのか言葉を絞り出し始めた。

「……娘は王女様、シエナ様のお屋敷のメイド長を務めておった…」

 シエナ。それがこの国の女王の名か。

「シエナ様は元々、この国の王族の直系ではなかったんじゃ…」

 一言発すると、その後は次々に言葉を紡ぎ出した。

 

 それはかつて、公国がまだ今よりもずっと暖かかった頃の話。

 幼い少女、シエナは優しい両親と、そしてこの国の誰からも愛される活発な少女だった。

 だが、ある時強烈な大寒波が国を襲う。

 この大寒波が長引き、飢えと寒さが国民を蝕んだとき、人々は豹変した。

 「愛」や「絆」を口にしていた者たちが、パン一切れのために隣人を裏切り、この惨状を見かねた人々がこの事態に対処できなかった当時の王と、その親族だったシエナ達一派を国外に追放したのだ。

『愛なんて、お腹を満たしてはくれない。信じる心があるから、裏切られた時にこんなに痛いのよ』

 雪の中に倒れる母親が、最後に娘に遺した言葉。

 凍死していく両親の傍らで、幼い彼女は誓った。

「心」があるから人は過ちを犯す。ならば、心を凍らせ、鋼の規律だけで街を縛れば、二度とあんな悲劇は起きない――。

 幼いシエナにもはやかつての優しい面影はなく、顔には冷徹な仮面が張り付いていたようだと形容した。


 語り終えたお婆さんは目に涙を浮かべ、「あの時儂の娘も殺されたんじゃ」と続けた。

「あの絵画はシエナ様と娘の唯一、2人きりで描かれたもの。儂は今でもあの絵画に向かって毎日拝んでいるよ」

 お婆さんは思い(ふけ)るような面持ちで、ゆっくりとそう語った。

 聞き終えたグウェイクは納得する。

 街で出会った男がバツが悪そうに「戦争があった」と言っていたのは、自分達が原因でシエナを追い出し、結果戻ってきてしまったのでそれを誤魔化(ごまか)すための嘘だったのだろう、と。妙に街が綺麗なのもその為か。

 そして一番の問題は、自分達が追い出したシエナが王となって戻ってきた為、悪法についてもとやかく言えない点か。

「貴重なお話を聞かせて頂き、本当にありがとうございました」

 グウェイクは再び礼をすると、お婆さんに謝礼金を渡そうと金を出し始める。

()しな。儂もちょうど、誰かに昔の話を聞いてもらいたかったところじゃ」

 しかしお婆さんは手で制しながらそう言ってグウェイクを止めた。

「…本当に、ありがとうございます!」

 グウェイクは何度も何度も頭を下げることしかできなかった。


 帰り際、お婆さんがグウェイクを呼び止めてこう言った。

「もしシエナ様に会いたければ、明日の公開裁判に行くと良い。『不当恋愛』で捕まった者の裁判は見せしめに公開で行われることになっている」

 場所を聞き、明日の予定も決まったところで、最後にグウェイクはもう一度深く礼をし、お婆さんの家を出た。

 外を見れば、雪が降り始めていた。

 しかしグウェイクの決意は固い。

 踏みしめた雪の感触を確かめつつ、グウェイクは歩を進める。


 


前置きが長くなってしまった。次回、本当に新キャラ登場で雪の国編もたぶん完結する。

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