06.シャドウ・キャッツ
「シャドウ・キャッツ」――その名は、銀河の裏社会では伝説となり、表舞台では囁かれる都市伝説のような存在だ。彼らは、銀河のどこかにいる、正体不明の謎の義賊集団として知られている。その活動が公になったのは、約二年前のヴァルカン星系での「炎の強奪者」事件からだ。
彼らの犯行は、常に完璧なセキュリティを破り、足跡一つ残さないことから、「幽霊」や「幻」に例えられる。
しかし、その手口は、物理的な力任せな強盗とは一線を画す。超高度なハッキング技術、光学迷彩を用いたステルス行動、重力制御を思わせる軽やかな動き、そして百発百中の精密な狙撃。まるで異なる分野のスペシャリストたちが集結したかのような、多角的かつ洗練された犯行だ。
シャドウ・キャッツの最大の特徴は、その目的が金銭や私欲のためではない、という点にある。彼らが標的とするのは、常に銀河の法や倫理の隙間をすり抜け、私腹を肥やす強欲な権力者や、悪辣な企業ばかりだ。
そして、彼らが奪うのは、不正な手段で得られた財宝や、隠蔽された真実を暴くための情報。犯行後には、必ずと言っていいほど、その権力者の不正を暴露する証拠が匿名でメディアに提供されるか、奪われたものが真の持ち主の元へ返還される。
その行動は、銀河の人々に二つの感情を抱かせる。一つは、彼らがもたらす「正義」への喝采。腐敗した権力への反抗者として、彼らを英雄視する声も少なくない。
もう一つは、彼らが既存の秩序や法を軽々と乗り越える存在であることへの、深い畏怖と混乱だ。彼らは逮捕されることなく、常に闇の中に消え去る。
GRSIを含む銀河の主要な治安組織は、これまで幾度となくシャドウ・キャッツの追跡を試みてきたが、その正体はおろか、メンバーの数、性別、種族、拠点など、確かな情報は一切掴めていない。彼らは、文字通り「影」のように現れ、そして「猫」のように自由気ままに去っていくのだ。
銀河鉄道総帥であるアリア・テレスは、かつてシャドウ・キャッツについて問われた際、「彼らは銀河の均衡を保つ、もう一つの秤。闇が深まれば、影はより色濃くなるものだ」と意味深な言葉を残したとされている。
果たして、彼らは正義の味方なのか、それとも単なる法を無視した犯罪者集団なのか。シャドウ・キャッツの伝説は、今日も銀河のどこかで、新たな「影の物語」を紡ぎ続けている。
そして今、彼らは「ヴェリディアン・エコー」の輝きに引き寄せられるように、再び銀河の表舞台にその影を落とし始めたのかもしれない。