36.エピローグ
惑星ドリアスでの、平和条約調印式典を狙った大規模テロ事件から数日後。
GRSI本部にあるチームYの控え室では、壁掛けの大型テレビがニュースを流していた。画面には、光り輝く立方体の宝石、ヴェリディアン・エコーが映し出されている。その傍らには、無数のデータチップが置かれた写真が添えられていた。
ニュースの見出しは躍っていた。
“ゼノス・ヴァルガス、逮捕!『影の評議会』との関係も発覚か”
アナウンサーは興奮気味に語る。ヴェリディアン・エコーは、惑星ゼファの荒廃した採掘場跡地で発見されたという。そして、その宝石の傍らには、ヴァルガスと、その傘下の企業や個人が行ってきたあらゆる不正、汚職、非合法活動の証拠データが収められたメモリーが、徹底的に整理された形で置かれていたのだ。
「へっ、やったな、シャドウ・キャッツ」
イヴァンがニヤリと笑った。
「ゼノス・ヴァルガスも、これで終わりか」
「ああ。これまでの銀河の富豪としての顔は剥がれ落ち、彼は『影の評議会』との関係も含めて逮捕された。おそらく、一生を牢獄で暮らすことになるだろう」
カケルは、冷静な声でニュースを読み上げた。その表情には、事件解決への確かな手応えが浮かんでいた。
「ヴァルガスの秘書だったリン・リーについては、ヴァルガス逮捕に協力する司法取引が認められ、情状酌量されることが、僕のネットワークで判明している。彼女の持つ情報が、今回の決定的な証拠となったようだ」
ノアが、自身のタブレットを操作しながら補足した。
ミリアムは、テレビに映るヴェリディアン・エコーの輝きに見とれていた。
「あの光る宝石が、そんなにすごい証拠を見つけてくれたんだね!きらきらしてて、すごくきれい!」
彼女は無邪気な笑顔を見せた。
「ドリアスの混乱に乗じて、ヴァルガスの不正を白日の下に晒す……シャドウ・キャッツらしいやり方だ」
エミリーが静かに言った。彼女の瞳には、シャドウ・キャッツへのある種の敬意が宿っているようだった。
チームYのメンバーは、惑星ドリアスでのシャドウ・キャッツとの共闘を思い出していた。平和記念ホールの地下深く、光と影が入り乱れて戦ったあの夜。あれ以来、彼女らとは会っていない。
「奴らも、今頃は宇宙のどこかで、また密かに暗躍しているのだろうな」
イヴァンがぼそりと呟いた。
「本来なら、泥棒として追うべき存在なんだがな……」
カケルが、複雑な感情を滲ませた。彼らは、法と秩序を守るGRSIの一員として、シャドウ・キャッツという非合法組織を追及する立場にある。しかし、ドリアスでの共闘を経て、チームYのメンバーは、彼女らに対して、単なる犯罪者とは異なる、ある種の信頼と、共感にも似た感情を抱いていた。互いの正義の形は違えども、目指すところが同じであるという、確かな理解がそこにはあった。
・
その頃、シャドウ・キャッツの三人は、惑星ゼファの広大な採掘場跡地にいた。
かつてゼノス・ヴァルガスによる無謀な乱開発によって、星の表面は深くえぐられ、荒涼とした風景が広がっていた。風が吹き荒れ、乾いた土埃が舞い上がる。
「いつの日か、この星も、また緑あふれる星に戻るといいなぁ」
レオンが、荒れ果てた大地を見つめながら、静かに言った。その声には、僅かながら感傷が混じっていた。
セラフィナは、何も言わずに、遠くの地平線をじっと見つめていた。彼女の表情は読み取れないが、その瞳の奥には、レオンと同じ願いが宿っているようだった。彼らがヴァルガスから奪い、ここに置いたヴェリディアン・エコーとメモリーは、この星の未来への、ささやかな希望の光となるだろう。
リーダーの「サイレント・ファントム」カレン・リードは、タブレット端末を片手に、電話をしていた。
「ええ、言われた通り、それはしかるべき場所へ置きました。代償は支払われた、と理解していいですね?」
カレンの声は、冷たく、そしてどこか挑戦的だった。通話の相手が誰なのか、彼女の表情からは一切読み取れない。
『……ええ、それについては間違いありません。貴女方の『仕事』の正確さには、常に感銘を受けております』
スピーカーから漏れる声は、静かで深みがあった。その響きは、銀河鉄道の最高位に立つ、ある人物を連想させた。
「結構。ですが、今回の件で、いくつか予期せぬ接触がありました。特に、『光』の者たちとの……」
『承知しております。しかし、それが公になることはありません。影は影のままで、光は光のままで。それが、銀河の均衡を保つために必要なこと。そうは思いませんか?』
カレンは、フッと鼻で笑った。
「ふん……全くその通りです。私たちは、闇の中の掃除屋ですから。では、次なる『獲物』は?」
『それは、また別の機会に。貴女方は、しばらくその爪を休めておくがいいでしょう。何事も、過度な刺激は良くありませんから』
通話は、一方的に切れた。カレンはタブレットを閉じ、ゆっくりと顔を上げた。彼女の視線の先には、ゼファの荒れ果てた大地、そして遠く宇宙に輝く星々が広がっていた。
「さあ、次の『仕事』だ」
カレンは、二人の仲間へと向き直った。その顔には、再び冷徹な仮面が戻っていた。
光と影、それぞれの場所で、彼らの物語は続いていく。銀河は、まだ多くの闇を抱えている。そして、それを照らす光と、その闇に潜む影の戦いは、これからも終わることはないだろう。
これにて、GRSI第5話、ヴェリディアンの残響を終わります。
ここまでお読み頂きありがとうございました。
次回以降も執筆中ですので、引き続きGRSIチームYをよろしくお願いいたします。




