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GRSI-05 ヴェリディアンの残響  作者: やた


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35.新たな夜明けと残された影

 ドリアスの平和記念ホールは、平和条約調印式典という歴史的な舞台から一転、銀河の命運を賭けた戦場と化した。しかし、GRSIチームYとシャドウ・キャッツという、光と影、二つの正義が総力を結集したことで、ゲイル・ゾルダン率いる『影の評議会』の野望は辛くも阻止された。ゾルダンは逮捕され、暴走寸前だったスターゲート・ハブは沈黙を取り戻した。


 ホールは再び静寂を取り戻したが、その空気は、もはや式典開始前の期待に満ちたものではなかった。そこには、深い安堵と共に、拭いきれない不安と、未だ残る不穏な影が色濃く漂っていた。銀河社会が、これから向き合わなければならない、いくつもの深刻な問題が浮き彫りになったのだ。



 今回のテロ事件は、惑星連邦、そして銀河社会全体に対し、これまでの“平和”が如何に危うい均衡の上に成り立っていたかを残酷なまでに突きつけた。そして、『影の評議会』という存在が、単なる過激派組織ではないことをまざまざと見せつけたのだ。


 最も大きな衝撃は、やはり『影の評議会』の存在が公になったことだろう。これまで都市伝説のように語られていた彼らが、惑星連邦の要人たちが集まる場に堂々と宣戦布告し、その恐るべき目的と規模を白日の下に晒したのだ。平和条約調印という、銀河社会にとって最も希望に満ちた瞬間に、最も深淵な闇が姿を現した。


 ゾルダンの宣戦布告とゼオンの潜入は、惑星連邦の各惑星間の信頼関係に深い亀裂をもたらすだろう。惑星ケレス代表という要職に、『影の評議会』の幹部が長期間にわたって潜伏していた事実は、誰もが隣人を、あるいは同盟国を疑わざるを得ない状況を生み出す。市民の間にも、政府や治安維持組織に対する深刻な不信感が広がり、社会は分断されかねない。特に、ゾルダンが「腐敗した旧体制」と糾弾したことで、多くの市民は政府の発表を鵜呑みにせず、陰謀論が飛び交うなど、社会不安が募ることが予想された。


 さらに、銀河鉄道株式会社にとっての『負の遺産』であるスターゲート・ハブの存在が露呈したことも、計り知れない波紋を呼んだ。


 スターゲート・ハブは、かつて銀河鉄道が全宇宙の物流と情報の掌握、さらには軍事転送までも視野に入れて築いた、壮大な計画の産物だった。


 しかし、その強大な力故に多くの悲劇と争いを生み出し、最終的には『禁忌の技術』として極秘裏に封印された存在だ。その封印されたはずの遺産が、よりにもよって『影の評議会』の手に落ち、全銀河規模の戦争勃発の危機にまで瀕した。この事実が公になれば、銀河鉄道は自らの管理責任を厳しく追及され、長年培ってきた社会的信頼は大きく揺らぐだろう。


 アリア総帥の迅速な判断とGRSI、そしてシャドウ・キャッツの活躍がなければ、銀河全体が評議会の支配下に置かれていたという事実は、銀河鉄道の経営陣にとって、重くのしかかる課題となった。


 また、今回の事件は、惑星連邦の既存の警備体制や情報機関の限界も露呈させた。


 ゼオンの完璧な生体偽装技術と、それに伴う情報の改ざんは、これまでの連邦のいかなるセキュリティシステムや情報照合システムでも検知不可能だった。ガス兵器の巧妙な隠蔽、ゾルダンによるスターゲート・ハブの掌握など、評議会の計画はあまりにも周到で、連邦の情報機関は完全に裏をかかれていたと言わざるを得ない。


 GRSIの活躍は目覚ましかったが、彼らの能力をもってしても、単独ではこの事態を完全に防ぐことはできなかった。これは、GRSIを含む連邦の機関が、これまで『影』の存在とその能力を過小評価し、対抗策を十分に講じていなかった証拠でもあった。


 そして、何より、この事件は、惑星連邦内の腐敗や権力構造の闇を暗示していた。


 ゲイル・ゾルダンが宣戦布告時に「腐敗しきった旧体制」と糾弾した言葉は、人々の心に深く刻まれた。彼がこれほどの大規模な計画を実行できた背景には、連邦内部に評議会に協力する者、あるいは彼らの活動を黙認する者が多数存在した可能性も否定できない。評議会が、いかに連邦の政治、経済、軍事の中枢にまで深く浸透していたかが示唆され、これから銀河連邦が自らの内側と向き合わなければならない、極めて重い課題を突きつけるものだった。


 不正や汚職が横行し、権力者が私腹を肥やすために市民の福祉を軽視している現状が、評議会に付け入る隙を与えていたのだ。



 今回の事件で、GRSIチームYとシャドウ・キャッツが共闘したという事実は、世間には全く知らされなかった。アラン局長によると、それはアリア総帥の力によって公にされなかったのだという。一部の要人や、事件の核心に触れたGRSIの幹部には知られていたとしても、一般市民やメディアには、あくまでGRSIが単独でテロを阻止し、ゾルダンを逮捕したという事実のみが報じられた。


 アリア総帥は、銀河鉄道株式会社の総帥として、銀河鉄道の存続と秩序の維持を最優先する。彼女は、シャドウ・キャッツとの共闘が公になれば、銀河鉄道の信頼性にも大きな傷がつき、さらなる混乱を招くことを理解していた。


 そのため、彼女は自らの影響力と、銀河鉄道の持つ情報統制能力を最大限に行使し、この『秘密の共闘』を徹底的に隠蔽した。彼女は、シャドウ・キャッツ以外の出来事には一切関わろうとせず、彼らが『影』としての役割を全うできる環境を守ったのだ。


 この秘匿された共闘は、カケルたちチームYと、カレンたちシャドウ・キャッツの間には、確かな信頼と、互いを認め合う意識を芽生えさせた。それは、光と影が、それぞれの役割を果たすことで、初めて真の平和が訪れるのかもしれない、という新たな可能性を示唆するものだった。


 平和が訪れたかに見えたドリアスの空の下、銀河社会は、これまで目を背けてきた闇の存在と、そして自らの内側に潜む負の側面を、否応なしに直視することになった。これは、銀河の新たな夜明けであると同時に、より深く、より複雑な課題へと突入する、その始まりを告げる事件でもあったのだ。

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