31.スターゲート・ハブ
廃された地下線路の暗闇を抜けると、レオンの目に飛び込んできたのは、信じがたい光景だった。
そこは、旧時代の遺物である『スターゲート・ハブ』だった。巨大なドーム状の空間には、無数の転送ゲートが螺旋状に配置され、その中心には、宇宙の彼方へと続く光の渦が静かに揺らめいている。しかし、その神聖なはずの場所に、評議会の私兵たちが配置され、緊張感が張り詰めていた。彼らは、重武装し、レオンの侵入を警戒していた。
その中心で、レオンが追い求めていた『影の評議会』議長、ゲイル・ゾルダンが立っていた。彼の背後には、制御コンソールが光を放ち、スターゲート・ハブの起動プロセスが最終段階に入っていることを示唆している。ゾルダンは、優雅な黒のローブを身につけ、その顔には冷徹な笑みが浮かんでいた。ゼオンが壇上で見せたような狂気じみたものではなく、全てを掌握したかのような、静かで恐ろしい笑みだった。
「遅かったな、『ナイト・グライド』レオン・ヴァンス」
ゲイル・ゾルダンは、レオンの姿を認めると、ゆっくりと振り返った。彼の声は、ホールに響き渡るような重厚さを持つが、どこか嘲笑が混じっている。
「まさか、この場所まで辿り着くとはな。愚かな義賊め。だが、ここから先は、貴様の踏み入る領域ではない」
レオンは、眼前のゾルダンを睨みつけた。彼の瞳には、怒りと焦りが混じり合っていた。
「ゲイル・ゾルダン!テロ計画の首謀者め!何が目的だ!スターゲート・ハブをどうするつもりだ!」
ゾルダンは、レオンの問いに答える代わりに、深々とため息をついた。まるで、子供の戯言を聞いているかのように。
「目的だと?貴様のような末端の者に理解できることではない。だが、せっかくここまで来たのだ。教えてやろう、愚かなる者よ」
彼は、背後のモニターを指し示した。そこには、平和条約調印式典の様子が映し出されている。ゼオンが逮捕され、混乱が収まりつつあるホールの様子だ。そして、モニターの隅には、平和条約の署名欄がクローズアップされていた。
「銀河連邦の平和など、虚構に過ぎん。彼らは、目先の平和に浮かれ、真の脅威から目を背けてきた。腐敗しきった旧体制に、もはや未来はない」
ゾルダンは、そう言い放った。
「だからこそ、我々『影の評議会』が、新たな秩序をもたらす。この銀河に必要なのは、偽りの平和ではない。真の支配と、絶対的な力による統一だ」
彼の言葉は、レオンの胸に突き刺さった。それは、シャドウ・キャッツが掲げる『義賊』とは真逆の思想だった。
「そのために、お前たちはテロを起こし、罪のない人々を巻き込むのか!」
レオンは怒りを露わにした。
「犠牲は必要だ。卵の殻を破るためには、多少の痛みは伴うものだ」
ゾルダンは冷淡に答えた。
「そして、今日のこの調印式典は、そのための最高の舞台となる」
ゾルダンの瞳が、狂気的な光を放った。
「本日、この平和条約調印式典が行われるこの場所で、我々『影の評議会』は、惑星連邦に対し、正式に宣戦布告する!」
ゾルダンの言葉と共に、スターゲート・ハブの転送ゲートが、轟音と共に起動し始めた。ゲートの中心に渦巻く光が、さらにその輝きを増していく。まるで、宇宙の彼方から、何かがこちらへ転送されようとしているかのようだ。そして、その光の中から、おびただしい数の影が現れ始めた。それは、評議会の私兵、そして、かつて惑星連邦を震撼させた悪名高き宇宙海賊や、独立武装勢力の兵士たちだった。彼らは、スターゲートを通じて、ゾルダンの呼びかけに応じ、続々とこのハブへと転送されてきていたのだ。その数は、数百、いや数千にものぼるだろう。
「馬鹿な……テロは陽動、真の目的は、このスターゲート・ハブを使って、全銀河に兵力を展開し、宣戦布告することだったのか!」
レオンは、ゾルダンの恐るべき陰謀に戦慄した。このままでは、評議会の兵力がスターゲート・ハブを通じて惑星連邦の中枢にまで転送され、平和調印式典は血塗られた戦場と化す。
「遅すぎるぞ、レオン・ヴァンス。この時を、私は長年待ち続けたのだ」
ゾルダンは、不敵な笑みを浮かべた。彼の後ろには、転送されてきた無数の兵士たちが整列し、不気味なほどの静けさでレオンを包囲しようとしていた。
「みんな!聞こえるか!?ゲイル・ゾルダンがスターゲート・ハブから宣戦布告し、全銀河に兵力を展開しようとしている!すぐにこの転送を止めないと、取り返しのつかないことになる!」
レオンは、通信機に必死に叫んだ。彼の声は、スターゲート・ハブの起動音にかき消されそうになる。
しかし、ゾルダンの目には、レオンの必死の抵抗は、無意味な足掻きにしか映っていなかった。銀河の命運は、今、まさにこのスターゲート・ハブで決まろうとしていた。




