20.共闘の始まり
闇が晴れ、非常灯の点滅が格納庫を不気味に照らす中、カケルの通信機から、突如としてノイズ混じりの声が響いた。
「カケル!聞こえるか!?ノアだ!システムが一時的に不安定になったが、どうにか接続できた!そちらの状況は!?」
「エミリーよ!ドローンは全滅したけど、シャトルからのシステムは生きてる!何があったの!?」
イヤホンから聞き慣れたノアとエミリーの声を聞き、カケルは安堵の息を漏らす。シャドウ・キャッツの介入により、敵のシステムを麻痺させ、通信を回復させたのだ。
「ノア、エミリー!よく繋がった!こちらは無事だ!」
カケルは矢継ぎ早に状況を説明した。
「リン・リーは無事だ。彼女の誘拐は狂言で、シャドウ・キャッツと共謀していた。ヴァルガスは駒に過ぎない。この施設の真の目的は、私たちGRSIを誘い込む罠だった。そして、この罠を仕掛けたのは、ヴァルガスの背後にいる『影の評議会』だ」
通信の向こうで、ノアとエミリーが息を呑む気配が伝わってくる。
「『影の評議会』だと……!?そんな巨大なシンジケートが、ヴァルガスを操っていたなんて……!」
ノアの声に驚愕が滲む。
「リン・リーさんが無事でよかった……。しかし、狂言だったとは……」
エミリーも困惑を隠せない。
「信じられないだろうが、事実だ。そして、俺たちはこれから、シャドウ・キャッツと共闘することになる」
カケルは続けた。
「彼らの目的は、『影の評議会』の壊滅。我々GRSIの『正義』とは異なるが、共通の敵を前に、一時的な協力をすることになった」
シャドウ・キャッツのカレンが、カケルの隣で静かに頷いた。
「ノア、エミリー。これから我々の任務は、『影の評議会』の情報をこの『プロジェクト・ハーデス』研究施設から得ることだ。君たちのハッキングとドローンによる支援が不可欠になる。作戦は変わるが、これまで以上に君たちの力が必要だ」
「了解した、カケル!全力を尽くす!」
ノアの迷いのない声が返ってきた。
「ドローンは撃墜されたけど、シャトルにはまだ予備があるわ。システムを最大限に活用して、支援する」
エミリーもすぐに体制を立て直した。
シャドウ・キャッツが残党処理を終えると、カレンがチームYに歩み寄った。
「この施設は、『影の評議会』がヴァルガスを利用して築き上げた情報の中枢の一つだ。彼らの通信ログ、取引記録、協力者リストなど、重要な情報がどこかに隠されているはずだ。ノア、君ならこの施設の残されたネットワークに潜り込めるか?」
「施設のメインサーバーはまだ生きているはずだ。先ほどの麻痺は一時的なものだったが、その隙に、内部のシステム構造をある程度把握できた。ここからさらに深部にアクセスできれば……」
ノアは分析モードに入っていた。
「ミリアム、君は『音』で異常な場所、隠された空間、そして敵の残党の動きを探ってくれ。セラフィナが君をサポートする」
カレンが指示した。セラフィナは静かにミリアムの隣に立ち、周囲を警戒した。
「イヴァン、レオン。君たちは先陣を切って通路を確保する。この施設には、まだアイアン・ガードの増援が来る可能性がある。奇襲を警戒しろ」
カケルが加えた。
「任せとけ!」
イヴァンが拳を鳴らす。レオンは無言で頷き、壁に沿って静かに移動を開始した。
カケルはカレンと共に、施設のデータセンターらしき場所を目指し、慎重に進んでいく。先ほどまではヴァルガス関連の情報だったが、今は『影の評議会』という巨大な敵の全貌を掴むことが最優先だ。
彼らがさらに奥の区画へと進んだ時、突然、前方からけたたましい警報音が鳴り響いた。
「くそっ!増援か!」
イヴァンが叫んだ。通路の先に、重武装したアイアン・ガードの増援部隊が姿を現したのだ。彼らは戦術的なフォーメーションを組み、光学センサーをギラつかせながら、一斉に銃口を向けてくる。その数は、先ほどよりも多い。
「ミリアム、敵の配置と数は!?」
カケルが問う。
「『音』が……!たくさん、ものすごくたくさん来る!奥からも来てる!」
ミリアムは混乱しながらも、迫りくる敵の『音』を必死に解析しようとする。
「ノア、エミリー!敵の動向をリアルタイムで報告しろ!死角を見つけたらすぐに!」
カケルがシャトルに指示を飛ばす。
「了解!敵部隊、現在通路を封鎖中!後方からも別部隊が接近している!」
ノアが素早く状況を報告する。
「ドローンを数機発進させるわ!囮と撹乱に使う!」
エミリーが的確に支援を開始した。シャトルから飛び出したドローンが、増援部隊の頭上をかすめ、彼らの注意を引く。
「レオン、通路左手の換気口!そちらから迂回して敵の側面を突け!」
カレンが指示を飛ばす。レオンは、躊躇なく換気口へと跳び込み、狭いダクトの中を音もなく進んでいく。
「イヴァン、正面の敵は俺が引き受ける!ミリアムは俺のすぐ後ろにいろ!」
カケルは『連鎖反応予測』を最大に発動させ、敵の攻撃パターンを先読みする。同時に、光波ブレードを構え、正面のアイアン・ガードへと突進した。
イヴァンはカケルの言葉に迷いなく従った。彼はカケルを援護するように、迫りくるアイアン・ガードの銃弾をその強靭な体で受け止め、敵の陣形を崩していく。彼の体当たりは、重武装の兵士を吹き飛ばすほどの威力だ。
その時、換気口からレオンが飛び出し、敵の側面から奇襲をかけた。彼の動きはまるで舞踊のように流麗で、アイアン・ガードの兵士たちは、何が起こったのか理解する間もなく、次々と無力化されていく。短刀と素早い体術で、レオンは敵の指揮系統を寸断していった。
「セラフィナ、あの狙撃兵を無力化して!」
カレンが指示した。セラフィナは、静かに狙撃銃を構えると、物陰から正確に敵の狙撃兵を狙撃した。彼女の狙撃は、敵の指揮系統の混乱に拍車をかけた。
チームYとシャドウ・キャッツの異なる戦闘スタイルが、見事に融合し始めた。イヴァンが正面から敵の注意を引きつけ、カケルが『連鎖反応予測』で致命的な一撃を避ける。その間にレオンが側面から攪乱し、セラフィナが狙撃で主要な敵を排除する。ノアとエミリーは、シャトルから絶えず敵の情報を送り続け、的確な判断材料を提供する。ミリアムは、混乱の中でも味方と敵の『音』を聞き分け、危険な場所を知らせる。
「くそっ、何なんだこいつら!?」
アイアン・ガードの隊長が焦りの声を上げる。彼らの戦術が、予測不能な連携によってことごとく破られていく。
激しい戦闘の末、アイアン・ガードの増援部隊は壊滅した。通路には倒れた兵士と、彼らの残骸が散らばっていた。
「よし、突破口を開いたぞ!」
イヴァンが息を弾ませながら叫んだ。
カケルは、シャドウ・キャッツの三人に視線を向けた。彼らの動きは洗練され、無駄がない。そして、彼らが発揮する連携は、まるで長年連れ添ったチームのようだった。GRSIとシャドウ・キャッツ。異なる『正義』を持つ者たちが、確かに協力し、困難を突破した瞬間だった。この共闘が、彼らをどこへ導くのか。カケルは、複雑な思いを抱きながら、さらに奥へと足を踏み出した。




