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GRSI-05 ヴェリディアンの残響  作者: やた


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19.介入と新たな選択

 絶望的な状況下、レーザーの嵐がチームYに降り注ぐ。イヴァンは盾代わりの腕甲で何とか身を守るが、彼のボディシールドは限界に近づいていた。


 ミリアムは耳を塞ぎ、うずくまったまま、過剰な『音』の刺激に意識が遠のきかけている。


 カケルは、迫りくるレーザー砲台の連鎖反応を予測するも、打開策は見つけられずにいた。彼の脳裏には、ノアとエミリーの声がノイズと共に消えた瞬間の絶望が焼き付いている。


「これで終わりだ、GRSI!」


 アイアン・ガード隊長の冷酷な声が響き渡り、彼らの銃口がチームYの三人に集中する。


 その瞬間だった。


 突如として、格納庫の巨大なドーム全体を覆っていた照明が、まるで誰かがスイッチをオフにしたかのように、一瞬にして漆黒の闇に包まれた。


「何だ!?」


 アイアン・ガードの隊長が狼狽した声を上げる。自動追尾型ドローンは光を失い、レーザー砲台の照準システムも混乱に陥ったのか、不規則な閃光を放ち始める。同時に、電子的なノイズが空間を満たし、アイアン・ガードの通信も混線する。


 闇の中で、ミリアムがはっと顔を上げた。彼女の耳に、これまでとは全く異なる『音』が届き始めたのだ。それは、静かで、しかし明確な意志を持った、複数の『影』の『音』。そして、アイアン・ガードの兵士たちが、不可解な呻き声を上げて次々と倒れていく『音』がした。


「これは……シャドウ・キャッツ!」


 カケルは、その異様な状況と、ミリアムが感知したであろう『音』から、直ちに介入者の正体を悟った。彼の『連鎖反応予測』が、今度は生存の可能性を示し始める。


 闇の中に、漆黒の影が舞い降りる。シャドウ・キャッツは3人。彼らは光学迷彩を駆使し、アイアン・ガードの兵士たちに一切の隙を与えない。敵兵の喉元を掻き切り、背後から関節を極め、音もなく無力化していく。彼らの動きは迅速かつ正確で、混乱するアイアン・ガードは為す術なく圧倒されていく。レーザー砲台は暴走し、ドローンは同士討ちを始める。格納庫は、アイアン・ガードの悲鳴と、機械の残骸が散らばる混沌の場と化した。


 漆黒の闇が晴れ、格納庫の鈍い非常灯が再び点滅を始めた。アイアン・ガードの兵士たちは、意識を失って散らばり、その武装ドローンも無残な残骸と化している。圧倒的なピンチは、一瞬にして逆転した。シャドウ・キャッツの介入によって、チームYは壊滅を免れたのだ。


 カケル、イヴァン、ミリアムは、息を整えながらシャドウ・キャッツの三人に視線を向けた。彼らはもはや光学迷彩をまとっておらず、その姿をはっきりと現していた。


 中央に立つ女性は、洗練された漆黒のスーツを纏い、冷静な眼差しを向けている。その隣には、しなやかな体躯を持つ男性が、軽やかな身のこなしで立っていた。そしてもう一人、小柄ながらも存在感を放つ女性が、静かに彼らを見つめている。


「GRSIのエージェント諸君、我々がシャドウ・キャッツだ」


 リーダーらしき女性が、落ち着いた声で口を開いた。


「私は『サイレント・ファントム』カレン・リード。リーダーを務めている」


 次に、隣の男性が短い言葉で続けた。


「『ナイト・グライド』レオン・ヴァンスだ。潜入とアクロバット担当」


 そして、小柄な女性が静かに一礼した。


「『ブラインド・アイ』セラフィナ・モロー。妨害、攪乱、狙撃を担当しています」


 ミリアムは、カレンの『音』が知的で深みがあり、レオンの『音』が機敏で力強く、セラフィナの『音』が静かで感情を抑えていることを感じ取っていた。


 カケルは、彼らの自己紹介を聞きながら、警戒を解かずにいた。


「シャドウ・キャッツ……。あなた方が、ヴァルガスの不正を暴く『鍵』を我々に送りつけてきた相手、というわけですね」


「そうだ。そして、リン・リーの誘拐劇も、我々が仕組んだ狂言だ」


 カレンが平然と認めた。


「『影の評議会』を炙り出すには、君たちGRSIを動かす必要があった。そして、その『正義』が、どこまで真実に踏み込む覚悟があるか、試す必要もあった」


 イヴァンは歯噛みした。


「ふざけるな!俺たちを騙しやがって!それに、リン・リーを危険に晒すなんて!」


「危険に晒したわけではない。彼女自身が望んだことだ」


 カレンは冷静に答える。


「彼女の命は、我々が確実に守ると約束した。そして、この狂言がなければ、君たちは『影の評議会』の深淵に気づかず、ヴァルガスの逮捕だけで満足していたかもしれない」


 リン・リーが、一歩前に出る。


「GRSIの皆さん、ご心配をおかけしました。ですが、カレンさんの言う通りです。ヴァルガスは、『影の評議会』の表の顔に過ぎません。彼らは銀河の裏経済を牛耳り、いくつもの惑星を密かに支配している巨大な悪です。その規模は、GRSIの通常の捜査では手が届かないほど広範です」


 カケルはリン・リーの言葉を聞き、彼女の覚悟が本物であることを感じ取った。そして、自身の『連鎖反応予測』もまた、ヴァルガスが単なる手先に過ぎないことを示唆していた。


「『影の評議会』とは一体何なんだ?」


 カケルは、シャドウ・キャッツに問いかけた。


「『影の評議会』は、銀河の主要な経済圏に深く根を張り、合法企業の仮面を被りながら、違法な資源採掘、兵器密売、情報操作など、あらゆる闇ビジネスを操っている。そのトップである議長ゲイル・ゾルダンは、表舞台には一切姿を現さない伝説的な存在だが、その情報操作と人心掌握術は比類ない。彼の目的は、銀河全体の裏社会を完全に掌握し、新たな秩序を築くことだ」


 カレンが説明した。


「ヴェリディアン・エコーは、彼らが過去に行った闇取引の決定的な証拠の一つに過ぎない」


「なぜ、我々GRSIに協力を求める?」


 カケルは率直に尋ねた。


「君たちシャドウ・キャッツの理念は、GRSIの法と秩序とは相容れないはずだ」


「それは、君たちGRSIが、合法的に『影の評議会』を表舞台に引きずり出す力を持っているからだ」


 レオンが簡潔に答えた。


「我々だけでは、彼らの法的側面、特に彼らの資金源や、合法企業の裏に隠された不正を暴き、裁判にかけることはできない。我々の目的は『影の評議会』の壊滅。そのためには、合法的な逮捕と、彼らの裏の顔を暴く両面作戦が必要不可欠だ」


 セラフィナが静かに付け加えた。


「そして、我々は君たちのように、広範な捜査網や、公的な権限を持っているわけではない。お互いの強みを活かす必要がある」


 カケルは考えた。GRSIは法に基づき動く。シャドウ・キャッツは法の外で動く。


 しかし、目の前の敵は、法の網の目を潜り抜ける術を知り尽くした、既存の枠組みでは対処できない存在だ。もしシャドウ・キャッツの協力を得られなければ、自分たちGRSIだけでは『影の評議会』の深部にまで到達することは不可能だろう。そして、リン・リーは自身の命を危険に晒してまで、この共闘の必要性を示してくれたのだ。


「……分かった」


 カケルは重く頷いた。


「君たちの要求を受け入れよう。ヴァルガスは逮捕し、その背後の『影の評議会』を壊滅させる。ただし、我々の捜査の範囲はGRSIの規定に則る。君たちの『非合法』な手段が、我々の『正義』の原則を逸脱するようであれば、その時は……」


「その時は、その時だ。今はこの共通の敵を倒すことに集中しよう」


 カレンがカケルの言葉を遮り、わずかに皮肉めいた笑みを浮かべた。


「GRSIの『正義』と、我々シャドウ・キャッツの『正義』。その交差点で、真の悪を葬り去る時が来たということだ」


 二つの異なる『正義』が、今、ヴェーガの地下深くで、一つの目標のために手を組んだ。この惑星の闇の奥底に潜む『影の評議会』、そしてその議長ゲイル・ゾルダンを打倒する、前代未聞の共同作戦が、始まったのだ。

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