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12.試練の始まり

 シャドウ・キャッツが姿を消した闇の通路を、カケルたちは迷うことなく駆け抜けた。ミリアムの空間認識が示す「音」の導きに従い、彼らはアークライト旧採掘基地のさらに深部へと進んでいく。


 錆びた換気ダクトが不気味な音を立て、通路の壁には採掘時代の落書きが薄っすらと残されていた。その荒廃した光景は、ここがかつて多くの人々の営みがあった場所であることを示唆している。


「『音』が強くなってる!ここだよ、みんな!」


 ミリアムが、前方の大きく開けた空間を指差した。彼女の興奮した声には、期待とわずかな不安が混じっていた。


 通路を抜けると、彼らの目の前に現れたのは、巨大な地下ドームだった。かつては採掘された鉱石を貯蔵していたと思しき、広大な空間だ。


 しかし、そこはただの廃墟ではなかった。ドームの中央には、複雑な構造を持つ巨大な装置が鎮座している。その表面は鈍く輝き、細部には見たことのない紋様が刻まれていた。そして、その装置の周囲には、いくつものホロディスプレイが浮かび上がり、奇妙なデータや図形が高速で流れていた。


 そして、そのドームのあちこちに、漆黒のスーツをまとったシャドウ・キャッツのメンバーたちが立っていた。彼らはチームYを取り囲むように、それぞれが装置の一部、あるいは周囲の構造物に手を置いている。その数は、先ほど通路で出会ったよりも多い。まるで、彼らがこの場所の守護者であるかのように。


「ようやく来たか、GRSIのエージェント諸君」


 ドームの天井から響く声。先ほどのリーダー格のシャドウ・キャッツの声だ。彼の姿はどこにも見当たらないが、声だけが空間全体を震わせた。


「これは一体…何の装置だ?」


 ノアが、即座にメインコンソールからドーム内のシステムにハッキングを試みるが、彼の操作するキーボードは、まるで対象を拒むかのように、一切の反応を返さなかった。


「無駄だ。このシステムは、貴方たちの技術では制御できない。これは、ヴァルガスの罪を暴くための『真実のスケール・オブ・トゥルース』」


 リーダー格の声が、嘲るように響いた。


「そして、貴方たちGRSIの『正義』が、どれほどの重さを持つのかを測るための『試練』だ」


 イヴァンが怒鳴った。


「てめぇら、何を企んでやがる!こんなところで小細工してんじゃねえ!とっととヴェリディアン・エコーを返しやがれ!」


 彼の拳が、いつでも殴りかかれるように構えられた。


「ヴェリディアン・エコーは、ここにはない」


 別のシャドウ・キャッツの声が、ドームの別の場所から響いた。その声もまた加工されている。


「あの宝石は、すでに然るべき場所に送られた。貴方たちがここで手に入れられるのは、ヴァルガスの真の『罪』。そして、その『罪』を裁く資格が貴方たちにあるのかどうか、その答えだけだ」


「つまり、我々を試すというのか?」


 カケルが、冷静に問い返した。彼の目は、周囲のシャドウ・キャッツの配置と、中央の装置、そしてホロディスプレイのデータを同時に分析していた。


「その通り。これは、貴方たちGRSIの『正義』の定義を問うゲームだ」


 リーダー格の声が、ドーム全体に響き渡った。


「この『真実の秤』は、ヴァルガスが惑星ゼファで行った全ての不正をデータ化し、可視化するもの。彼の搾取によって破壊された自然、奪われた人々の財産、そして押し潰された命の重みを測る。しかし、この秤を完全に起動させるには、ある『鍵』が必要だ。そして、その『鍵』は、貴方たちGRSIの『正義』を証明することでしか手に入らない」


 ホロディスプレイの一つに、惑星ゼファの美しい自然が映し出された。しかし、次の瞬間、その映像は汚染された大地、荒廃した採掘場、そして絶望に顔を歪める先住民たちの姿へと変貌した。その生々しい映像は、チームYの心を強く揺さぶった。


「これは……」


 ミリアムが、悲痛な声でうめいた。映像から流れ出る「音」が、彼女の感覚を直接刺激し、痛みを伴う。


「ふざけるな!そんな回りくどいことしなくても、俺たちがヴァルガスのケツを蹴っ飛ばしてでも証拠を掴んでやる!」


 イヴァンが激情を露わにした。


「残念ながら、その『ケツを蹴っ飛ばす』だけでは、真の解決にはならない」


 シャドウ・キャッツのリーダーが冷ややかに言った。


「ヴァルガスの根は深い。彼は、あらゆる法の網の目をすり抜け、銀河のシステムの『欠陥』を利用して悪事を働いている。物理的な力だけでは、その『システム』自体を変えることはできない。貴方たちには、私たちとは異なる方法で、その闇に立ち向かう強さがあるのかどうか、見極めさせてもらう」


 エミリーが、周囲のホロディスプレイに目を走らせた。


「『鍵』……。彼らは、私たちに何をさせるつもりなのかしら?このドームの構造、そして彼らの配置。何らかの仕掛けがあるはずよ」


 彼女の目が、微細な動きや変化を捉えようと、高速でスキャンを開始した。


「ゲームのルールはシンプルだ」


 リーダー格の声が、再び響き渡った。


「このドーム内に仕掛けられた複数の『試練』を突破し、隠された『真実の欠片』を集めることだ。それぞれの欠片は、ヴァルガスの罪の一端を示している。全てを集めた時、『真実の秤』は完全に起動し、貴方たちに『鍵』を与えるだろう。しかし、もし貴方たちが途中で諦めるか、あるいは我々の期待に応えられないと判断した場合、ヴァルガスに関する全ての情報は闇に葬られることになる。そして、貴方たちGRSIは、永遠に真実の扉を開くことができなくなるだろう」


「俺たちを試すというなら、受けて立つ!」


 カケルが、迷いなく答えた。彼の瞳には、強い決意の光が宿っていた。


「ノア、ドーム内の構造を解析しろ!エミリー、シャドウ・キャッツの配置と、システムが起動した場合の狙撃ポイントを洗い出せ!イヴァン、ミリアム、俺に続け!彼らが仕掛けたゲームとやらを、真っ向から攻略してやる!」


 シャドウ・キャッツのリーダーの声が、嘲るように響く。


「では、ゲーム開始だ。GRSIのエージェント諸君。貴方たちの『正義』が、どれほどのものか、見せてもらおうか……。時間は限られている」


 その言葉を合図に、ドーム内の照明が一部消え、空間が薄暗くなった。同時に、どこからか電子音が鳴り響き、壁の奥から何かが迫り来るような振動が始まった。チームYは、シャドウ・キャッツが仕掛けた「試練」という名のゲームに、否応なく巻き込まれていく。


 これは、ヴェリディアン・エコーを巡る事件の真相を解き明かすための、そして彼ら自身の「正義」を証明するための、決死のゲームの始まりだった。

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