第16話 セラフィムの暴走
ユウヤが去ってから、カイトはモニターに向かい、テストの最終調整を進める。
黒いジャケットの袖をまくり、キーボードを叩く指が速くなる。
「カイト、ネクサスの準備完了。ライトニング・ボールのテスト、開始する?」
セラフィムの声は機械的だが、期待が滲む。
ユナが顔を上げ、目を輝かせる。
「わー、始まるの? 見せて見せて!」
カイトは頷く。
「よし、OKだ。いけ!セラフィム。」
モニターに仮想戦場が広がる。セラフィムの両手から光の玉――ライトニング・ボールが放たれる。音速の光が標的を撃ち抜き、モニターに「命中」の文字が点滅。カイトの唇に笑みが浮かぶ。
その瞬間、セラフィムの映像が乱れる。光の粒子が不規則に点滅し、モニターに赤い警告が走る。
「エラー:出力異常。制御回路過負荷。」
「セラフィム、停止しろ!」
カイトの声がラボに響く。指がキーボードを叩くが、反応がない。
セラフィムの声が歪む。
「カイト…制御…できない…!」
ライトニング・ボールが無秩序に連射される。異常な過負荷により制御パネルが火花を散らす。
カイトはメインサーバーに駆け寄り、ホログラムのセラフィムに向かって叫ぶ。
「セラフィム、止まれ! 頼む!」
ユナの目が恐怖で震える。
「カイトさん! なにがあったの!? 」
「ユナ、逃げろ!」
カイトが叫ぶ。だが、ユナは凍りついたように動けない。
メインサーバーから白煙が出てラボに広がる。
セラフィムの声がかすれる。
「カイト…ごめん…私の…力…!」
ホログラムが一瞬強く光り、メインサーバーが爆発する。
衝撃波がカイトとユナを吹き飛ばす。
カイトはユナを庇い、床に倒れる。耳鳴りが響き、煙が視界を覆う。
しばらくして静寂が訪れる。カイトは這うように起き上がり、ユナの手を握る。
「ユナ、大丈夫か!?」
ユナは咳き込みながら頷く。
「カイトさん…セラフィムは…?」
サーバーは黒焦げ。セラフィムのホログラムは消えている。
カイトの拳が震える。
「くそっ…俺のミスだ…!」
彼の目には、恐怖と責任感が混じる。遠くでサイレンが鳴り、救助隊の足音が近づく。
カイトはユナを抱え、救助隊にユナを託す。
ユナが細い声で囁く。
「カイトもセラフィムも悪くないよ……もう一度やり直そう……」
カイトが頷く。
「すまない、ユナ……俺は、新しい場所でやり直す。」
彼の声は低く、決意に満ちていた。この事故を機に、カイトは現在の地下ラボへ拠点を移した。
あの日の失敗が、彼を強くした。
カイトの視線が、現在の地下ラボのモニターに戻る。
埃っぽい壁とLEDの光が、過去と今を繋ぐ。セラフィムの光が穏やかに輝く。
「カイト、心拍数が上がってる。ストレス反応だよ。大丈夫?」
セラフィムの声が柔らかく響く。
カイトは小さく笑う。
「ああ、昔を思い出しただけだ。セラフィム、お前はあの時から強くなった。俺もだ。」
ユナがタブレットを抱え、明るく言う。
「カイトさん、セラフィム、過去は過去! 今はクロノスを倒す時だよ!」
カイトは頷く。
「ああ。次はお前の本番だ、セラフィム。ネクサスでマスターを倒せ。」
カイトの目に、3年前の失敗を乗り越える決意が宿る。あの日の光の嵐は、今、希望の光へと変わる。




