第15話 ユナとセラフィム
地下ラボの薄暗い明かりが、カイトの疲れた顔を照らす。
セラフィムの修復が終わり、ネクサスでの訓練を控えた静かな瞬間。カイトの目が、モニターの隅に映る古いログに留まる。3年前、セラフィムの初期バージョンが暴走した、あの日の記憶が蘇る。
3年前、アストラル郊外のカイトのラボ。
室内にモニターの青白い光が揺れ、キーボードの軽快な音が響く。
カイトは22歳、黒いジャケットを羽織り、スクリーンに映るコードを睨む。
そこには初期バージョンのセラフィムが、不安定な光の粒子として浮かんでいる。
扉が軽くノックされ、ユウヤが入ってくる。
カイトの同級生で、明るい性格の研究仲間だ。
後ろには妹のユナがちょこちょこついてくる。
「よう、カイト! 久しぶりだな。調子はどうだ?」
ユウヤが手を挙げる。
カイトが振り向き口元に笑みを浮かべる。
「順調さ。今日はユナも一緒か。」
「ああ、お前のセラフィムに興味を持ってな。どうしても見たいってきかないんだよ。」
ユウヤがユナの頭を軽く叩く。
ユナが目をキラキラさせながら一歩前に出る。
「カイトさん! セラフィムに興味あるの! 私、将来プログラマーになりたいんだ。今、勉強してるの!」
カイトがユナを見つめる。
「そうか。セラフィムと話してみるか?」
ユナが飛び跳ねる。
「うん、セラフィムとお話したい!」
ユナがモニターに近づき、セラフィムに話しかける。
「セラフィム、はじめまして!私はユナだよ。」
モニターのセラフィムが光を揺らし、機械的だが柔らかい声で応じる。
「ユナ、はじめまして。カイト、この子は?」
「ユウヤの妹だ。しばらく相手してやってくれ。」
「了解。ユナ、なんの話がしたい?」
セラフィムの光が穏やかに脈打つ。
ユナはモニターに顔を近づけ、興奮気味に言う。
「セラフィム、AIってどうやって考えるの? 私、コード書いてると、頭パニックになるんだけど!」
セラフィムの声に微かな笑みが混じる。
「パニック、わかるよ。私の思考は、データの流れを整理して動くの。ユナ、どんなコード書いてる?」
「今、ゲームのプログラム勉強中! でも、バグが多くて…」
ユナが頬を膨らませる。
「バグは友達だよ。見つけるたびに賢くなる。教えてあげる、簡単なデバッグのコツ。」
セラフィムの光がユナに寄り添うように輝く。
二人はたちまち意気投合し、コードやゲームの話で盛り上がる。
ユウヤが声を潜める。
「ユナ、将来お前のところで働きたいってさ。まだ先の話だけど、よかったら考えてくれないか。」
カイトは小さく頷く。
「わかった。考えておくよ。」
その時、ユウヤのポケットで端末が振動する。
彼は画面を確認し、眉を寄せる。
ユウヤがカイトに頭を下げる。
「すまない、急用が入った。1時間だけユナを頼めるか?」
カイトは手を振る。
「わかった。任せとけ。」
ユウヤがラボを出ていくと、ユナとセラフィムの笑い声が響く。
この穏やかな時間が、後に来る嵐の前の静けさだった。




