試験直前、あの空気
呼ばれて入ってきた少女はどんぐり眼によく手入れされた艶やかな髪で、絵から飛び出してきたような可愛らしい子だった。おまけに、ユータスも真っ青の質の良いローブを着ていた。おそらく、良家のお嬢様なのだろうとミツキは思った。
「あなたが、今回試験を受ける人?
・・・へぇ、確かに面白いオーラではあるけど、正直期待外れかな。」
「あなたにわたしを打ち負かせるほどの実力があるとは思えないよ。」
すごく残念そうに少女はため息をついた。試験官にガッカリされるのはミツキにとって、初めての経験だった。
「ああ、ごめんね?決してあなたを責めているわけではないんだよ?実力はあると思うよ?うん。」
「・・・でもね、わたしと肩を並べられるほどの子が入ってくるかもって聞いてたから。ずっと、すごくすごく楽しみにしてたのに・・・」
彼女の肩くらいまである大きな杖を撫でながら、少女はつぶやくように話した。
「人を見た目で判断するのは貴族連中の悪い癖だ。どんな相手とも戦ってみないと分からない。だから戦闘は面白いんじゃないか。」
スイが少女に向かって笑いかけた。
「あれ?スイちゃんじゃん!よく見たらショウちゃんもいるし!もしかして、この人・・・二人の弟子だったりする?」
その通りだと言わんばかりにスイが彼女を指さした。ショウもにっこり頷いた。
「へぇ・・・それなら、少しだけ期待できるかも!」
曇っていた少女の表情が少しばかり晴れた。
「話はまとまったかな?」校長がミツキ達に尋ねた。
「じゃあ、試験内容を説明するとしよう。内容はさして難しくない。先ほども言ったとおり戦闘試験さ。このフィールドから出なければ何をしても良い。」
「こちらは上の観客席から採点をする。不正など行えばすぐに見抜けるというわけですなぁ。」
意地悪そうにユータスが言った。思い描いた絵とは随分違う状況が面白くなくて仕方がないらしい。
「タイムリミットは特にないよ。ただし、こいつが無くなれば、その時点でおしまい。」
そう言って校長は手のひらサイズの人形を取り出した。
「こいつは持ち主の受けたダメージをある程度まで肩代わりしてくれる。試してみせよう。受験者の君、これを持っておいて」
校長校長は自身の髪の毛を人形の中に入れ込んで、ミツキに手渡した。
「ユータス、協力してくれるかい?」
「ええ、もちろんですとも。喜んで」
心底嫌そうにユータスが返事をした。
ユータスは杖を取り出すと(何もないところからいきなり出てきたように見えた)杖を校長に向けた。杖先に魔法陣が展開されると、人の顔ほどはある火炎弾が放たれた。
火炎弾は音を立てて空を切り、校長に命中した。
次の瞬間、校長ではなく人形から火が出たので、ミツキは驚いて人形を落としてしまった。バチバチと音を立てて人形は燃えていた。
傷一つない状態で、校長が戻ってきた。
「君の分を今から3つ用意する。ダメージを3回受ける前に彼女にダメージを与えれば、その時点で実技合格だ。」
少女とミツキは建物中央のフィールドに10メートルほど離れて向かい合った。いよいよだ。
「あれ?あなた杖は使わないの?」
「まだ上手く扱えなくて」
「ふーん?まあ別にいいけど。少しくらいは楽しませてよね?」彼女の杖先がミツキを捉えた。
いよいよ、試験開始だ。
次回、ようやく試験編です。やっとファンタジーらしくなると思います。