謎の咆哮
それから二週間が経過した。二週間も住んでいるけど、定期的に掃除をしたりしているので、貸家は綺麗な状態で維持していた。こういう時、アリサも私も掃除をする派になるらしくて、普通に掃除の時間がで来たりしている。
そして、貯金が一千万を超えたので、ここからは本当に自由な買い物をしても問題はない。高級品でもある程度までは買える。まぁ、私もアリサも高級品を求めないからあまり意味がないのだけど。
この辺りはお金持ちになっても元の世界の価値観的なものが大きい。高級品よりも実用品をと考えてしまう。私が貴族か何かだったら話は別だけど、ただの庶民だし。武器や防具を更新しないのも大きいかな。
アーティファクトには修理代は必要ないし、雷獅鷹の衣は、アリサの賢杖ケーリュケイオンで直せる。汚れもミモザさんの『浄化』で綺麗さを保たれるし、アリサは防具を必要としない。服の替えがあれば十分だし、その替えのために基本的には安く頑丈な服を選んでいる。
高くてもアリサの寝具のための革とかくらいだ。それも別に頻繁に替えるという事もないので、適度に補充しておけば良いだけ。
野営道具の買い足しもそこまでの出費ではないし、テントとかはイースタンの騎士団の皆さんが物凄く頑丈なテントを用意してくれたみたいで、手入れを軽くするくらいで問題がない。次の街までは確実に持つと思う。
「さてと……ここで問題なのは、私達の物欲がほぼほぼないって事だよね……娯楽の本もそこまで沢山買わないし、ぬいぐるみはそう簡単に増えないし」
「ここでは出会いがないしね」
「うるさいよ。本当にアリサは、何か欲しいものないの? かなり余裕が生まれてるから、遠慮も全然要らないよ」
「ないかな」
「そっか。仕方ない。中央で散財するための貯金にするかな」
アリサも買いたがらないのなら、本当に貯金しかない。なので、中央に行った時に何か良いものを買うための貯金にすることにした。後はレパとかに会った時にプレゼントを買うくらいかな。
「そんなに余裕が出来たの?」
「うん。食費も結局外食よりは抑えられてるから、そこが大きいかな。アリサの服の買い足しも寝具の買い足しも終わってるから、特にそこに出費もない。さっきも言ったけど、本もぬいぐるみもそう沢山買う事もないから、かなり余裕があるね」
「貯金で良いと思う。これから先永住するところを見つけたら、新居を買うかもしれないでしょ? 恋人と再会したらそういう話にもなるだろうし、そこら辺で使う分は残しておかないと」
確かにレパと住むための家を買う可能性は否定出来ない。そのための貯金と考えれば、これくらいは必要になるか。そもそも一緒に住むのがレパだけとは限らないし。
「それもそっか。それじゃあ、ギルドに行こうか」
「うん」
結局仕事をしないと減る一方になってしまうので、しっかりとモンスター討伐は行っていく。戦闘の準備を整えてギルド来た。
この二週間で分かったけど、ここの受付は屈強な男性がやるらしく、ライデンさんの他の受付もがっしりとした男性しかいなかった。それでも仕事が滞る事はなくテキパキと進められている。アリサのムキムキマッチョへの印象は大きく変わった。
依頼の紙を持って、ライデンさんの元に向かう。
「モンスターの数が減ったみたいな報告あります?」
一応、他の人の分を狩りすぎないように確認しておく。下手したら、生態系が変わってもっと厄介なモンスターが出てくる可能性もあるし。
「いや、ねぇな。嬢ちゃん達が来る前は多少増えている傾向にあったが、嬢ちゃん達のおかげで今は平常時のままだな。今は寧ろ坑道の方が危険かもしれないな」
「そうなんですか?」
「ああ。規定の期間を過ぎても冒険者が戻ってこない。こういう時は坑道内に危険なモンスターが現れている証拠だ。一旦採掘師達を戻して一気に片付ける必要があ」
ライデンさんの言葉の途中で、急に低い咆哮が響き渡ってきた。それは、鉱山のある方向からだった。ここまで聞こえてくる時点でかなりの大声だ。
「あれって……」
「マズいな。野郎共!! 坑道内にやべぇのが現れたぞ! 支度しろ!」
ライデンさんがそう言うと、ギルド内にいた冒険者達がすぐに動き出す。
「よくあることですか?」
「いや、極々稀だ。俺が職員になってからは初めてだな。すまないが、嬢ちゃん達も依頼はなしだ。街に待機してくれ。坑道から街にモンスターが降りてくるかもしれねぇ」
「なるほど。分かりました。特別報酬とか出ます?」
こういう時依頼を頑張ろうとしている人が仕事を出来なくなるのだから、その分の報酬は出てくれないと困る事になるかもしれない。なので、こういうのはしっかりと確認しておかないといけない。ギルドの規約だとここら辺の話はなかったから。
「ああ。基本一律だけどな。よろしく頼む」
基本一律というのは、坑道内に入る冒険者達はそれだけ危険を冒す事になるので、報酬が高くなるからだと思う。一律は街の防衛のために待機する冒険者に対するものだ。
「はい。アリサ、鉱山の近くまで移動して待機しよう」
「うん」
私とアリサは、坑道からモンスターが溢れてきた時にすぐに返り討ちに出来るように鉱山近くに向かって行く。若干足が重く感じるけど、街の人への被害を出さないようにするために歩みは止めない。
「ヒナ……」
「大丈夫。冒険者は、街の人を守るための職業でもあるんだから、ここで頑張らないと」
「でも、ヒナは辛いでしょ? 私がいるから、ヒナは家に戻っていても良いよ?」
「アリサ一人に任せるなんて出来るわけないでしょ。大丈夫だから」
アリサは心配そうにしているけど、坑道に入っていく訳でもないし、問題はない。仮に入ったとしてもすぐに動けなくなるとかはない。そこまで深刻ならそもそも近づけない可能性の方が高いし。
鉱山近くに着いた私達は坑道の入口を見る。そこから何かの咆哮が時折聞こえてくる。やっぱり何かがいるみたいだ。そして、それはまだ討伐されていない。
「坑道がいっぱい……どこにいるんだろう?」
「音が響きすぎて判別出来ないけど、多分奥の方かな。あっ、冒険者の一団が入っていくよ」
アリサが指差す方を見ると、武装した冒険者が坑道に入っていった。
私達はDランク冒険者。坑道の依頼はCランクからだから、ライデンさんは街の防衛の方に割いた。だから、ここから見送る事しか出来ない。
「ここまで出て来るかな?」
「どうだろう? でも、Cランク以上の冒険者達が討伐に向かっているはずだから、ある程度は大丈夫だと思う。もしそれで倒せないようだったら、外に出たところをアリサが倒すしかないと思う。この街の中で一番ステータスが高いのはアリサだろうから」
「そうだね……うん。頑張る」
坑道に出たモンスターの情報はまだない。その理由は目撃者が戻ってきていないから。それを考えると、本当にアリサに頼らないといけなくなる可能性は高かった。




