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異世界旅はハンマーと共に  作者: 月輪林檎
嫌な思い出

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嫌な思い出

 それから三日で私達は森を抜けた。通常は一週間掛けて抜ける場所を三日という日数で抜ける事が出来た理由は簡単だ。

 上空からでも休憩ポイントを見つけられると分かったのだから、アリサに抱えて貰って一気に移動する方法を取れば良い。まぁ、私を抱えたままの長時間飛行は、アリサの身体への負担があるから、休憩ポイントに着いたら、そのまま休むという感じになる。

 真っ直ぐ進む関係で、いくつかの休憩ポイントは無視する事が出来たので、四日も短縮出来たというわけだ。

 その代わり休憩時間が増えたせいで私が可愛がられるようになったけど。まぁ、些細な事だ。取り敢えず、私達と同じく森を進む通行人達と遭遇しないで良かった。声出ちゃうし。


「ふぅ……やっと森から出たね。まぁ、予定より早いけど」

「うん。あそこの山がウォンバット?」

「う~ん……っと、そうだね。方角的にも合ってる」


 マンチカンで買ったコンパスで方角を確認して、その方向にあるのがウォンバットである事を確認する。

 その方向にあったのは、大きな山と広大な荒れ地だ。鉱山は、山だけど割と禿げている。鉱山としての開発が進められている感じかな。


(私がいた場所よりも大きい……あそこは小山みたいな感じだったし……ん?)


 鉱山を見ていたら、何だか心臓が大きく鼓動したような気がした。高鳴るというよりは、奴隷時代を想起したから緊張し始めているという感じがする。


(嫌な思い出ではあるけど、トラウマになってるのかな?)


 レパ、リタ、キティと会えたという良い思い出も勿論ある。それでも、私があそこにいた期間は嫌な思い出が多すぎる。私が気付いていないだけで、あそこで何回死んでいるのか分からないし。

 そもそも【不死】が定着する程の死を経験しているわけだからね。


「ヒナ?」

「ん?」


 少しぼーっとしていたら、アリサが目の前に顔を出してくる。アリサは、私がぼーっとしていると、いつも顔を前に出してくる。自分の顔で目の前を覆う事で、意識をアリサに戻せると思っているのかな。実際その通りなのだけど。


「ううん。鉱山を見て、奴隷時代の嫌な思い出が蘇っただけ」

「あっ……そうだよね。でも、なんで鉱山を選んだの?」

「アリサの記憶に繋がる何かがあるかもしれないからね。環境はある程度変化させていかないと」


 そう。鉱山がある場所を選んだというよりも、荒れ地という環境から選択した。それとこのルートが一番国の中心に向かいやすいというのもある。一応、中央に行った方が色々と観光できるだろうからね。


「ところで、あの鉱山とか荒れ地を見て、アリサは何か思い出した?」

「う~ん……ごめんね。この景色からは……っ!?」


 首を横に振ろうとしたアリサが頭を押える。頭痛がするという事は、記憶の一部が戻りかけているのかもしれない。


「荒廃……壊れた……街……? 燃える……」


 アリサはそう呟きながら、涙を零した。アリサも無意識に涙を流したという感じだ。自分の目を拭って驚いていた。


「何を思い出したの?」

「壊れた街……壊れていく街かな。荒廃しているような状況で……燃えていた……あれは……私の街?」

「アリサの住んでいた場所?」

「分からない。でも、そうだと思う。壊された……襲われた?」


 これにはアリサも混乱していた。記憶が断片的に蘇っただけで、それらが繋がっているわけでもないし、アリサ自身が理解しているわけでもない。これも仕方のない事だ。


「その記憶の中に襲っている人とか、壊している犯人とかは?」

「い……ない……」

「そっか。壊れた街……壊れたか……それって、どういう視点だった?」

「高い場所から見下ろす感じだった……でも、空からじゃない。建物……?」

「なるほどね。ドラゴンになった後の記憶じゃなくて、なる前の記憶なのかも。高い建物なら、前に蘇った記憶にあるお城なのかも」

「城から見下ろす景色……駄目。これ以上は思い出せない……」

「うん。了解」


 アリサの記憶のメモはしておく。記憶に繋がったのは荒れ地。荒廃した感じを思い起こさせたって感じかな。ただ、家族とかから城に住んでいた事を思い出したのを考えると、直接的なものじゃなくても記憶は蘇ると考えられる。


「記憶は戻って来てるわけだから、良い兆候だと思う。この調子でアリサの故郷の場所とアリサをドラゴンにした何かを探そう」

「うん。それはそれとして、ここから別の街に向かい直すのも良いよ?」


 アリサは私に気を遣ってそう言ってきた。まぁ、鉱山を見ただけで嫌な思い出が蘇ったって言っちゃったし、そうなるのも当たり前と言えば当たり前なのかな。

 でも、その気遣いに、私は首を横に振った。


「ううん。このまま行こう。もうウォンバットに行くって言っちゃったから、あそこのギルドに手紙が来てるかもだし」

「ああ……なるほどね」


 皆の手紙が大事だという事をアリサも知っているからか納得してくれた。


「でも、無理はしないで?」

「うん。そもそも鉱山に入るつもりはないし」


 いつまでも止まっていたら、ウォンバットに着かないので私から歩き始める。まだ大きな山と荒れ始めた地形が見えたくらいで、ウォンバットの街は見えてもいない。もしかしたら見えているのかもしれないけど、景色に同化しているレベルだ。

 予定では後二日掛かる。それまでに私も割り切れると信じよう。あそこは鉱山というようなイメージは薄いし、坑道に入らなければ問題はないはずだから。


「ヒナ」

「うん」


 歩き始めてすぐに私達の【気配察知】にモンスターの反応があった。それは丸い形をしたモンスターだ。それが転がって来ている。

 このモンスターは、アルマジロ型モンスターローリングアルマジロだ。アルマジロは普通に転がるだろうとか思ってしまうけど、そういう風に名付けられているのだから仕方ない。

 ローリングアルマジロの大きさは二メートルくらい。球体の状態でその大きさだ。

 私は雷鎚ミョルニルを出し、雷を纏って駆ける。そして、転がってくるローリングアルマジロに向かって雷鎚ミョルニルを横振りでぶち当てた。

 転がってきたローリングアルマジロの勢いが腕に流れてくるけど、そこはステータスの補助があるから問題ない。そのまま思いっきり上へと打ち上げた。

 巨大な野球ボールのようになったローリングアルマジロは、高く宙を舞い、そのまま重力に引かれて地面に叩き付けられた。そこに駆け寄った私はひっくり返った状態でじたばたしているローリングアルマジロの頭に雷鎚ミョルニルを叩き付ける。

 ローリングアルマジロの頭が潰れてピクピクしたと思ったら動かなく無かった。


「うん。鈍器ならやれそう」

「ここでも魔法は無理そうだね。背中が焼けちゃう」


 追いついてきたアリサが、ローリングアルマジロを見てそう言う。ローリングアルマジロの身体から、その価値が背中にあると考えたみたい。その理由は、身体の腹側よりも遙かに頑丈だからかな。


「だね。私が打ち上げた時にお腹を見せていたら、そこを斬り裂いたり首を落としたりしてくれれば良いと思う」

「なるほど。後は私が正確に魔法を撃てるようになればって感じかな……頭だと狙いが小さいし、ちょっと練習しないと」

「それなら少しくらい素材が駄目になっても良いよ。結果的にアリサが出来るようになった方が得だから」

「ありがとう」


 荒れ地に入りモンスターの分布は大きく変わる。ただし、これまでの経験が全く活きないわけじゃない。これまでの経験で得たものをしっかりとぶつけていく。同時にここから新たな事を学ぶ。

 アリサが魔法の精密攻撃を目指すのなら、私も魔法のレベル上げを頑張ってみるかな。いや、多分普通に殴るかな。そっちの方が早いし。

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