街に到着
盗賊の亡骸を燃やした後、移動を再開する。
そこからモンスターの襲撃があったけど、ハヤトさんとジェーンが倒してくれたので、私達は特に何もせずに終わった。偉そうな事を言っているだけあって、ジェーンもそこそこの強さだった。
ハヤトさんもかなり強かった。勇者として召喚されてから鍛えたのか、その前から強かったのかは分からないけど、選ばれるだけの素質はあるという事だ。
途中で三十分くらいの休憩を挟んだ時、ミモザさんが、私達の足を治してくれた。そこで改めて、私達の自己紹介もしていった。
「街までって、まだ掛かるんですか?」
休憩後の歩いている最中に、ミモザさんに訊いてみた。レパはまだ大丈夫そうだったけど、キティとかに疲れが見え始めたからだ。
「後一時間から二時間程でしょうか」
「結構長いんですね。この街道」
「はい。ここは、一番起伏が乏しく移動しやすいのですが、かなり長い街道になります。本当に長くほとんど使われる事がないので、次の街まで多くの経験が積めると勇者様が判断されたのです」
街までの道程でレベル上げをするために、この長い街道を進んでいたらしい。その最中で、私達に出会って出戻りとなったわけだ。ここは、そこそこの頻度でモンスターが現れるので、旅をしながらのレベル上げには丁度良いのかもしれない。モンスターに襲われ続けていたら旅どころじゃないし。
その調子で一時間程歩くと、ようやく街みたいなのが見え始めた。壁に囲われているのは、モンスターが襲ってきた時に壁で阻むためだろうか。見た感じだと、かなりの広さがある。壁よりも高い建物もあるみたいで、壁の上に建物の影が見える。まだ遠いから街の雰囲気は掴めないけど、身体に力が入るのが分かった。
ミモザさんに背負われているキティにも少し元気が出始めた。それを見て、リタが安堵したような表情になっている。リタも心配していたのだろう。
「もう少しだね」
「うん。ヒナは大丈夫?」
「うん。街が見えたから、元気が出たよ」
両手を握って答えると、レパは小さく笑った。
そこから一時間掛けて歩いていくと、段々と街が大きく見え始める。壁の終わりが視界に入らなくなって三十分くらい歩いたら、街の入口に着いた。本当に二時間位で着いた。
街の壁は丸みを帯びている。円形の街みたいだ。
ガンクさんとハヤトさんが門番と話している間、私達は外で待つ事になった。十分くらいで会話が終わり、こっちに戻ってくる。
「俺達は盗賊に関する取り調べを受ける。ヒナの嬢ちゃん達も身元の確認と親御さんの確認のために騎士団の詰め所に来てくれ」
「うん。子供達は?」
「もう詰め所に連れて行かれてるみてぇだ。まぁ、ヒナの嬢ちゃん達と同じように確認する事が多いからな。嬢ちゃん達は身元の確認だけで済むから、そこまで気負わなくて良いぜ。詰め所までは、勇者の兄ちゃんが案内してくれるぜ」
「こっちだ」
ハヤトさんに付いていって、私達は街の中に入る。入るのにお金が必要になるかと思ったけど、そういうのはないみたい。勇者効果かな。
「わぁ……」
街並みに圧倒させられる。石畳の道と石造りのような家が建ち並んでいる。コンクリートとは違うから、外国に来たような印象だ。電線とかはないから、発電所とかはないらしい。地中に埋められていたら分からないけど。
街の匂いは特にない。強いて言えば、屋台で焼いている肉の匂いかな。下水施設とかはしっかりとしているって事なのかな。伝染病対策も出来ていると考えて良さそう。
「ヒナ、遅れないで」
私が街を見ていると、レパが私の手を握って誘導する。ちょっと遅れてしまっていたらしい。私の記憶にある街は……大分うろ覚えだけど、木で出来た家に住んでいた気がする。
「街が気になるの?」
「うん。下水ってどうなってるの?」
「えぇ~……さすがに、ここで暮らしていたわけじゃないから詳しくは分からないけど、一箇所に集められて浄化させられてるはずだよ」
「ふ~ん、何か凄そう」
浄化というのがどういう事なのか私には分からないから、何か凄そうという事しか分からない。
「『浄化』は、教会で扱う魔法の一つです」
ミモザさんが歩行のスピードを落として、私達の歩調に合わせながら教えてくれた。私達がはぐれないように気を利かせてくれたみたい。
「綺麗にするという意味では、水魔法の『洗浄』があります。『洗浄』は、水を当てた箇所から汚れを落とすものです。ちょっと限度があるものですね。ヒナちゃんやレパちゃんも使っていたのでは?」
「リリアンナさんが使ってくれた水魔法の事だよ」
「ああ」
レパが補足してくれたおかげで、何で使ったと思われたのか理解出来た。盗賊のアジトやドラゴンの血を浴びた時にしてくれた魔法が『洗浄』になるのだと思う。
「じゃあ、『浄化』はどういうものなんですか?」
「汚れを消し去るもの……っというと、少し誤解を生みますね。実際、これのせいで様々な誤解を生んでいます。『浄化』の効果は、悪しきものや穢らわしきものの排除です」
「それを下水処理に使ってるんですか?」
「はい。汚物全般が穢らわしきものという判定になりますので、『浄化』の魔法陣を通れば綺麗な水の完成です。『浄化』自体が難しい魔法ですので、教会関係者に依頼して定期的張り直しているのです」
「そんなに難しいんですか?」
「【浄化魔法】のスキルを覚えられる人は少ないのです。教会関係者にはよくいる……というよりも、【浄化魔法】持ちは教会に入る事が多いので、教会関係者に依頼されるという事ですね」
「じゃあ、『洗浄』では駄目な理由は何なんですか?」
「答えは先程の話の中にありますよ?」
ミモザさんは微笑みながらそう言う。こっちにも考えさせてくれるらしい。そう言われて、先程の話を頭の中で思い出していく。
「…………あっ、『洗浄』は汚れを落として、『浄化』は汚れを排除。『浄化』を通して綺麗な水になるって事は、汚れは消滅している事になるから、『洗浄』では汚物そのものを取り除く事は出来ないって事ですね」
「正解です」
ミモザさんは少し驚いていたけど、すぐにそう言って笑った。十二歳っぽくなかったかな。とはいえ、精神的には十五歳なだけだから、そこまで変わらないから、特に問題はないはず。いや、私七歳から五年間ほぼ監禁状態だった。そこを考慮してなかったかも。
まぁ、利口な子供という事で通そう。
「ちなみに、私も『浄化』を使えます。実は、皆さんにも使っているのですよ」
「え? あっ、足を治してくれた時ですか?」
「はい。足の痛みや小さな傷の他に綺麗になっていませんでしたか?」
「そういえば……」
レパも思い当たったらしい。やっぱり、聖女と呼ばれるだけの力は持っているらしい。これがどのくらい凄いのかいまいち分からないけど、難しいといわれているものを平然と使っているから凄いはず。
そんな話をしている内に、大きな建物に着いた。その敷地内に入っていくから、ここが騎士団の詰め所なのだろう。
「それでは、私は先に運ばれてきた子供達を治療しに行きますので、ここでお別れです」
「はい。では、また」
私とレパは、ミモザさんに頭を下げてから、ハヤトさん達を追っていった。そこで、一人一人騎士から聴取を受ける。聴取と言っても、私達子供は親の情報を話すというだけで、盗賊達に関してはあまり訊かれなかった。
私の聴取をしてくれる女性騎士は、私の事情を聞いてミモザさんと同じような悲痛そうな表情をする。
「この街には教会が運営している孤児院があるわ」
「あっ、普通に冒険者として生きるつもりです」
「え?」
私の言葉に、女性騎士は困惑したような表情になる。何か変な事を言ってしまったらしい。いや、もしかしたら、もっと別の問題があるのかもしれない。
「もしかして、年齢制限とかってありますか?」
「いいえ、基本的にはないわ。軽く戦闘試験を受けるだけね。文字が読めるとより良いわ」
「あ、文字……」
私が一番躓くところが出て来た。簡単な文字が分かるから、ある程度大丈夫だと思うけど、ちゃんと文字の勉強もしないといけない。まぁ、そこはおいおいで良いかな。
「それじゃあ、しばらくは騎士団の宿舎を利用してくれる?」
「え? 良いんですか?」
普通に野宿かなくらいに考えていたら、騎士団の宿舎を提供してくれるらしい。
「ええ。他の子供達も同じように宿舎に泊まるから」
「じゃあ、お願いします」
「じゃあ、さっきと同じ部屋で待っていて」
「はい」
聴取が終わったところで、私は最初に案内された部屋でレパ達の聴取が終わるのを待つ。