オーガとの戦い
『ゴアアアアアアアアアア!!』
オーガが咆哮して、私に向かってくる。そこら辺のゴブリンよりも私を脅威と判定したということだろう。いや、それだけじゃない。奥の方にいるゴブリン達が宙を舞っている事から、オーガがあれ一体だけではないという事が予想出来る。
(これは……アリサが戻って来てくれないとヤバいかも……?)
振われる拳に雷鎚ミョルニルを合わせる。さっきのゴブリンキングなら、簡単に弾き返すどころか腕を吹き飛ばす事が出来た。なのに、オーガは弾く事が出来るくらい。力では拮抗している状態と考えて良い。
互いに後ろに向かって二歩下がる事になった。ただ、問題は相手が複数体いたという事。下がったオーガの横から別のオーガが飛び出してくる。
私は反射的に雷鎚ミョルニルで雷撃を放つ。雷撃が直撃したオーガは、身体をビクンと跳ねさせていたけど、まだ息があった。大分しぶといらしい。そんなオーガの肩を踏み台にして、別のオーガが私の頭上に飛び出してきた。
両手を組み、それを頭上に掲げている。その動作だけで、それが叩き付けられるのだと分かった。即座に体勢を戻して、しっかりと踏み込みながら雷鎚ミョルニルを合わせる。ギリギリのところでオーガの叩き付けを防ぐ事が出来たけど、その隙に最初のオーガが接近してきて、私に向かって拳を振う。
その拳に横から蹴りを当てて軌道をずらし、蹴りの勢いを使って身体を回し、雷鎚ミョルニルを頭に叩き付けようとしたところで、雷撃で痺れていたオーガが復活して雷鎚ミョルニルを弾く。
向こうも無傷ではないけど、こっちは大きな隙を晒す事になる。それを見逃されるわけもなく、三体目のオーガが蹴りを入れてくる。
雷鎚ミョルニルを持っていない左手を盾にして、蹴りを受けると、そのまま吹っ飛ばされた。
「がっ……!」
地面をバウンドしながら段々と勢いが落ちていき、地面に転がる。左腕全体に痺れが広がっているけど、まだ折れていない。
ここまでの攻防で分かった事がある。それは、オーガと私のステータスはほぼ同等くらいという事。一対一なら、何とかなる。でも、相手が三体で連携がしっかりとしている事から、私の方が圧倒的に不利な状況になっている。
ゴブリンもいつの間にか、散り散りに逃げている。これだけは少し有り難いかな。ここで協力されたら鬱陶しくて仕方ないし。
身体を起こしていくと、視界の隅を血が落ちていくのが見えた。どうやら頭のどこかを怪我したみたい。逆境。でも、【不死】を持っている私には、死という恐怖はない。ただし、ここで死んだら、アリサが悲しむ。それは駄目だ。
血が流れ出ているからなのか、少しずつ頭が冷えていくような感覚を覚える。同時に少し笑みが溢れる。
(負ける訳にはいかない。アリサが悲しむし……でも、何でだろう。この戦いは、ゲームを思い出す……ああ、そうか。相手がモンスターだからか。あのクソ野郎の時は、嫌悪感と苛立ちが強かったし……そうだ。戦いは真剣に楽しまないと!)
深呼吸をしていると、オーガ達が一気に突っ込んで来た。
「足止めとか弱気過ぎた! 全部倒してやる!」
私も同じ駆け出す。左腕は使えない。雷鎚ミョルニルの効果で回復していても、痺れが取れるまで時間が掛かる。だから、しばらくは右腕だけで戦う。これくらい良いハンデだよね。
「まずは……手負いから……」
身体に雷を纏って、身体能力を上昇させる。そして、二体のオーガの攻撃を最低限の動きで避ける。思いっきり踏み込んで勢いよく跳び、雷を当てた個体の顔面に雷鎚ミョルニルを突き入れる。
身体を回転させて、後ろに倒れるオーガの側頭部に雷を纏わせた雷鎚ミョルニルを叩き付ける。頭を雷が貫いて、オーガが白目を剥く。ダメージが蓄積していたのもあって、この二撃戦闘不能には出来た。
でも、空中にいる私に向かって、残り二体のオーガが同時に拳を振ってくる。その拳に足の裏を当てて、腕が伸びきるところで拳を足場にしてジャンプする。自分で勢いを乗せたから、さっきの比にならないくらいの勢いで吹っ飛ぶけど、その方向は私が決めたので木々に当たる事はない。
地面が近づいてきたところで、雷鎚ミョルニルを地面に叩き付けてブレーキを掛けて止まる。この攻防で左腕の回復は終えた。両手でしっかりと雷鎚ミョルニルを掴みながら、再びオーガに向かって行く。
仲間を殺されて怒り心頭に発しているオーガ達も突っ込んで来た。
(さっきの奴で分かった。オーガも弱点は頭だ。雷なら脳を焼ける!)
駆けていく途中で、横に逸れて木々の間を抜けて行く。オーガ達も私を追ってくる。その途中で、スーパーボールのように木の幹を連続で蹴って、不規則に動き回りオーガの意識を散らす。そうしてオーガの頭上に出た私は、上から雷を纏わせた雷鎚ミョルニルを叩き付けた。私の一撃で頭蓋骨に罅が入った直後に雷が落ちて中の脳を焼く。オーガは声も無く倒れる。
最後の一体のオーガが振って来る拳を横から蹴って弾く。そして、その側頭部に雷を纏わせた雷鎚ミョルニルを叩き付ける。こっちも脳を焼き切り倒した。
『ヒナのレベルが上昇しました。10SPを獲得』
レベルが上がった事で最後に倒したオーガが、ちゃんと死んでいる事が分かる。
「ふぅ……」
やっぱり連携を乱せばどうにかなる相手だった。頭からの出血も止まったし、ひとまずアリサを待つかな。そう思っていたら、大きな気配が凄い勢いで近づいてきた。これはアリサじゃない。
一気に近づいてきたその気配は、赤い肌のオーガ。でも、さっきまでよりも一回り以上大きかった。こちらも便宜上オーガキングと呼んで区別を付ける。
オーガキングは、走ってきた勢いのまま走り幅跳びの要領で跳んできた。そして、拳を私に向かって振り下ろしてくる。咄嗟に背後に跳んで避ける。
一撃目を空振りしたオーガキングは、そのまま止まらずに私に向かってもう片方の拳を振ってきた。雷鎚ミョルニルを合わせて弾こうとしたけど、オーガキングの力は、さっきまでのオーガの比較にならない程強かった。そのまま雷鎚ミョルニルの上から拳を身体に叩き込まれて空中に舞う。
その私に再度拳が叩き込まれる。身動きが取れない私は何とか雷鎚ミョルニルを盾にしたけど、そんなのも全く意味がなかった。思いっきり吹っ飛ばされて木々を薙ぎ倒し、錐揉みしながら地面をバウンドする。雷鎚ミョルニルも手から離れた。
「げほっ……ごほっ……ごえっ……」
吐血しながら、ぼやける視界でオーガキングを見る。すると、その後ろから大量のオーガが出て来た。さっきの三体は先遣隊だったみたい。
さすがにあれを相手にするのは楽しめない。ゴブリンキング達が逃げ出したのも理解出来る。雷鎚ミョルニルを戻して身体を癒そうと思っているのに、身体も何も動かない。
「ごぽ……」
また吐血しながら、空が目に入る。そこには羽を大きく広げているアリサがいた。太陽により影が落ちているアリサの姿を見て、私は意識を失った。




