ゴブリン達の王?
アリサと一緒に音のした方を見ると、大きな気配が近づいてくるのが分かった。木々の隙間から巨大なゴブリンが見える。他のゴブリンの五倍以上はあるかな。私達よりもでかい。加えて、これまでの比にならない程のゴブリンが向かって来ているのが分かる。
「ヒナ……」
「これは……マジでヤバいね。さすがに、街までは来ないと思いたいけど……アリサ、街に行って騎士団に知らせて来て」
「え? ヒナは?」
「ちょっと足止めする。頑張れば倒しきれるかもだけど、もしもの時のために街には備えて欲しいから」
「それなら私の方が……」
アリサは不安げにそう言う。アリサの方がステータスが高いから足止めなら向いていると思ったみたい。でも、私の考えは少し違う。
「アリサは、空を飛べるから一直線に街に迎えるし、私が走るよりも速いでしょ? 騎士団に報告して、こっちに戻って来てくれれば良いよ」
「…………うん。分かった!」
アリサはかなり迷ったようだけど、最後には頷いてくれた。そして、私に長めのキスをする。
「絶対に戻ってくるからね」
「うん」
最後にもう一度キスをすると、そのまま飛び立っていく。それを見送りながら、元の大きさにした雷鎚ミョルニルを握って、飛び掛かってくるゴブリンの身体に打ち付けて大きなゴブリンに向かって飛ばした。
『ゴア』
大きなゴブリンは飛んできたゴブリンの死体を手で振り払う。ゴブリンの死体は、そのまま他のゴブリンにぶつかっていく。
「わぁ……絶対王政か何か?」
大きなゴブリンが死体をぞんざいに扱っても他のゴブリンは気にした様子もない。そのゴブリンがする事に関しては、文句を言うという事はないらしい。そういう生態とかかな。便宜上、ゴブリンキングとでも呼んでおこう。
『ガアアアアアア!!』
ゴブリンキングが吠えて手を前に倒すと、次々にゴブリンが突っ込んで来る。
私は雷を纏って身体能力を上昇させる。そして、正面から突っ込んでくるゴブリンの顔面に雷鎚ミョルニルを突き入れて、そのまま一歩踏み込んで身体を回転させる事で、周囲から飛び掛かってくるゴブリンを吹っ飛ばす。
私の回転殴りを潜り抜けてきたゴブリンをサッカーボールのように蹴り飛ばして、遠くにいるゴブリンに命中させる。そんな私の背後から飛び掛かってくるゴブリンをノールックで後ろに向かって振った雷鎚ミョルニルで吹っ飛ばした。
横から飛び掛かってくるゴブリンは、雷鎚ミョルニルを後ろに振った勢いで身体を振りながら拳で殴り飛ばす。更に後ろ回し蹴りで後ろにいるゴブリンを蹴り飛ばす。
そこにゴブリンキングが丸太を叩き付けてきた。それに雷鎚ミョルニルを合わせる事で、丸太を破壊する。ゴブリンキングは、それに対して怒る訳では無く、ニヤリと笑った。どうやら戦いを楽しむタイプらしい。
『ゴアア!!』
ゴブリンキングが後ろにいるゴブリンに吠えると、後ろから五体のゴブリンが何かを持って来た。それは大きな石の大剣に見える。ゴブリンキングはそれを掴み取って肩に担ぐ。
『ゴアア!!』
ゴブリンキングが合図すると、再びゴブリンの大群が突っ込んでくる。それに対して、雷を纏わせた雷鎚ミョルニルを地面に叩き付ける。地面の上を雷が走っていき、ゴブリンが薙ぎ払われる。
「ふぅ……いっ!?」
唐突に横から振われる石の大剣に雷鎚ミョルニルを合わせて弾き飛ばす。石の大剣は、そこまでの耐久性はないらしく半ばから折れた。
ただ、この大剣は使い捨て前提のようで次々に新しい石の大剣が運び込まれていた。通常ゴブリンを蹴散らしながら、こっちが晒した隙を突くようにゴブリンキングの一撃が来る。そっちは即座に反応すれば合わせられるので問題はない。
向こうのゲームではあまり経験がないくらいの多対一戦だけど、こっちの経験のおかげか全然対抗出来ている。正直ゴブリンの相手は気にしないでも大丈夫だ。だから、ゴブリンキングに向かってこっちから攻める。地面を思いっきり蹴って、一気に近づいていく。
ゴブリンキングの拳に雷鎚ミョルニルを合わせて殴る。ゴブリンキングの腕が肩から引き千切れる。
『ゴギャァ!!』
これまでは武器を使っていたからゴブリンキング自体は無事に済んでいたけど、こうして直接攻撃を受けたらこっちの方が上らしい。ステータス様々だ。
「これなら私でも勝てる」
援護してこようとしているゴブリン達を蹴散らして、ゴブリンキングに接近し、そのお腹に雷鎚ミョルニルを叩き付けた。腹筋とかは硬いのかと思ったけど、雷鎚ミョルニルの半分以上がめり込んだ。
『ゴアア!?』
ゴブリンキングが吐血する。立ち続ける事も出来なくなり、ゴブリンキングは膝を突く。丁度良い高さになったゴブリンキングの頭に雷鎚ミョルニルを叩き付けた。ゴブリンキングの頭が完全に潰れたので、ゴブリンキングは倒したはず。
『ヒナのレベルが上昇しました。10SPを獲得』
レベルアップ出来たという事は、確実に倒したという事だ。頭が潰れて生きていたら衝撃的だけど、モンスター相手だと何があってもおかしくないと思ってしまう。。
「さてと、後は蹴散らすか」
ゴブリンキングを失ったゴブリン達は、急に動きに統率が取れなくなっていた。でも、私を襲うという本能は残っているようで、次々に襲い掛かってくるゴブリンを倒して行く。
戦闘に余裕が生まれたからか、ゴブリン達の状態に目が行くようになった。そうなる事で気付いた事が一つある。それはゴブリン達の表情が怯えている事。怯えているのに襲い掛かってくる事がよく分からない。
(何で怯えて……いや、違う。私に対して怯えているわけじゃない。だったら、私から逃げるはず。怯えながらも私に襲い掛かってくる理由は、私が障害となっているから。このゴブリン達は縄張り争いから逃げてきた。そう思っていたけど、まさか何かに追い立てられている途中だった?)
そう考えるのが一番しっくり来る。ゴブリンキングは戦う事を楽しむタイプだったけど、それとの戦いは楽しむ余裕もなかったのかもしれない。そして、障害となる私やアリサを倒そうと考えていたと思われる。
ゴブリンキングに絶対的な信頼を寄せていたゴブリン達は、自分達の状況を理解して慌てているという事かな。
そんな事を思っていると、上から何かが降って来た。衝撃波が周囲に広がってゴブリン達が吹っ飛んでいく。私も踏ん張って風圧に耐えていると、目の前に赤い拳が現れた。咄嗟に雷鎚ミョルニルを前に出して盾にしたのだけど、雷鎚ミョルニルごと押し込まれて吹っ飛ばされる。
背中に強い衝撃を何度も感じた。その理由は、私が命中した木々が次々にへし折れていったからだ。
「げほっ……」
こんな状態でも、私の骨が折れていないのは耐久の賜物かな。地面に着地して、攻撃してきたモンスターを見る。
そこには赤い身体に短い角を持った鬼のようなモンスターがいた。ゲーム知識で言えば、オーガに見える。どうやらゴブリンキングは、前座だったみたい……




