いるはずのないモンスター
アリサと一緒にファングボアを狩りに森に来た。突進してくるファングボアの攻撃を避けて、真横から雷鎚ミョルニルを叩き付ける。ファングボアが吹っ飛んで地面を転がっていき動かなくなる。ファングボアの狩りはいつもこんな感じだ。
後は、アリサが地面から土の槌を突き出させて軽く打ち上げたファングボアの頭に雷鎚ミョルニルを叩き付けるという方法もとる。
最初のアリサの一撃で倒れている事も多いけど、確殺を入れるという風に考えて叩き付けている。
「ふぅ……ファングボア多くなった?」
「ううん。いつもと変わらないよ」
「だよね?」
お姉さんの話からファングボアも数が多くなっているのかと思ったけど、いつも通りの遭遇頻度になっている。なので、モンスターの数が増えているという話も本当の事か怪しくなってくる。
「でも、これで嘘をつく意味ってあるのかな?」
「う~ん……騎士団とか冒険者を沢山街の外に出すとか?」
嘘を付く意味で考えれば、真っ先に思い付くのはそういう事だ。そうして街の防御力を削いで犯罪をしやすくする。
「それで街中で何か犯罪をしようって事? 何か微妙じゃない?」
「うん。そもそも街中で派手に暴れたら、外に出た騎士団とかが戻ってくる可能性もあるし、街から逃げる時に鉢合わせる可能性もあるね」
自分で考えるだけでも、これだけの欠点がある。作戦としては下の下だろう。
「って事は、本当にモンスターは増えているって事になるのかな。もしかしたら、森の奥の方が沢山いたりして」
いつもの場所では、そこまでモンスターの数が増えたとは感じない。いつも通りというのが、私とアリサの共通認識だ。という事は、アリサの言う通り、私達が普段行かないような場所に多くいる可能性がある。
「ちょっと森の奥に行ってみようか? もしかしたら、いつもよりも稼げるかも。今のところ、ここら辺で私達が危ない状況になった事はないし、少しずつ危険は冒さないと、私達が調べられる範囲も狭くなっちゃうからね」
「調べる?」
「うん。アリサの故郷の風景がどこに隠されているか分からないでしょ? だから、広い範囲を調べられるようになった方が良いかなって」
「なるほど」
これに関して言えば、大事なのは私のステータスだ。アリサのステータスはそうそう上がらない。だけど、アリサのステータスは異常な高さなので、アリサだけ大きな問題はない。だから、私が強くなって行動範囲を広げる必要がある。
そのためにもモンスターとは多く戦った方が良い。そういう点でも、ちょっとは危険を冒した方が良いという話だ。
アリサの記憶は何がきっかけで蘇るか分からない。だから、調べる範囲は広い方が良いのだ。
「でも、安全第一だよ?」
「分かってるよ」
安全第一を約束して、いつもよりも森の奥に入っていく。すると、ファングボアとの遭遇回数が少し増えている事に気付いた。これが報告にあったものなのか、森の奥に来ているからなのかは分からない。ただ、それと同時に違和感を覚える。
「ヒナ」
「うん。ファングボアとメディカルバード以外に何かいる」
ここのモンスターの分布を知っていれば、気配の大きさからある程度の予測は出来る。今感じている気配は、ファングボアでもメディカルバードでもない。花畑から遠いし擬態出来る場所もないからフラワーマンティスでもない。
小型ですばしっこい相手だ。気配が常に動き回っている事から、それが分かる。
気配の動きから、相手の攻撃を予測して、雷鎚ミョルニルを振う。私が打ったのは、緑色の肌をした小さな生物。尖った耳と鼻が特徴的なゴブリンだ。ゴブリンはその辺の木の枝と石で即席の斧を作っていた。
その意味もなく、雷鎚ミョルニルに打たれたゴブリンの身体は半ばからひしゃげていた。売れるかもしれないので回収はしておく。
「おかしいな……ゴブリンがいるって話は無かったはずなんだけど」
ここら辺の情報を調べた時、ゴブリンの情報はなかった。だから、こんなところにいるはずがない。
「いるはずのないモンスターがいるって事は、ダンジョン?」
そういう話を聞いたばかりだから、アリサはそういう風に考えたらしい。確かに、この街の周囲にいるという情報がないという事を考えると、ダンジョンから出て来たモンスターという風に考えられる。でも、他にも考えられる点は存在する。
「どうだろうね……そういえば、アリサはダンジョンについてどれくらい知ってるの?」
「さっき知った情報だけだよ。ダンジョンの記憶はないから」
「そっか」
ダンジョンから何か記憶に繋がるかもしれないと思ったけど、それはないみたい。ここでダンジョンに関してアリサが何かを思い出してくれたら、今後ダンジョンの探索をしていこうっていう風に考えられるのだけどね。
「結構昔からあるものだから、少しくらいは繋がるかと思ったのにね」
「確かに……それじゃあ、私はダンジョンが出来る前に産まれたのかな?」
「ダンジョンがいつから存在するのか分からないから、何とも言い難いかな。二百年前が最新って事で、ダンジョンが九つあるって話だから……千年以上前になりそうだよね。さすがに、それはなさそうだけど。アリサのステータスから考えたら、もう少し最近だと思う」
千年以上前から生きているとなれば、さすがに今のレベルよりも遙かに上になっていると思う。寝ている時期とかが長かったとしても、今よりは高いはずだ。
「そっか……じゃあ、単純に記憶がないってだけみたいだね」
「だろうね。何かしらアリサの記憶を刺激するようなものがあると良いんだけどね」
そんな話をしていると、複数のゴブリンの気配を察知する。飛び掛かってくるゴブリンを次々に叩きのめしていく。アリサも羽を出してゴブリンを掴み取ったり魔法で吹き飛ばしたりしていた。
「やっぱりダンジョン?」
「縄張り争いに負けて来たのかもしれないよ。お姉さんも言ってたでしょ?」
ここで見ないモンスターがいる理由は、受付のお姉さんの口からも出ていた。ダンジョンもそうだけど、縄張り争いの結果逃げてきたという事も言っていた。なので、ダンジョン以外にも可能性は複数あると考えられた。
「数が増えすぎた結果流れてきたとかも考えられるからね。ダンジョンって決めつけるのは早計だよ。お姉さん達もそれが原因で困ってるし」
「確かに……じゃあ、ここでも縄張り争いが起こる可能性があるって事?」
「あぁ~……確かにあり得るかも」
縄張り争いに負けたのなら、求めるものは新たなる縄張りだ。それを考えれば、ここで新しい縄張り争いが起こるのは自然な事と言える。
「縄張り争いって群れのリーダーとかがやるのかな?」
「どうなんだろうね。実際にその現場を見た訳じゃないし、何とも言えないかな。逆に、アリサは見た事がありそうだけど」
「ドラゴンの時? どうなんだろう……大抵はドラゴンを恐れると思うし……でも、もしかしたら沢山倒していたのかも。レベルも高いし」
ドラゴン時代の記憶が出て来るかと思ったけど、特に蘇る事はなかった。ちょっと残念。
「取り敢えず、今日はここら辺にしておこうか。下手に群れのリーダーとかが出て来ても困るし」
「そうだね」
そんな事を言った直後、近くで大きな音が響いてきた。今の会話でフラグでも立ったのかな……




