【女神との謁見】
それから街道を進み、四時間近くが経った。空も暗くなり始めたので、ここで再び休憩する事になった。ガンクさん達が持ってきていた槇にリリアンナさんが火魔法で着火させる。魔法って本当に便利だなと思わせてくれる。私もいつか使えるようになると良いな。
テントとかはないので、野宿する事になる。大人達が交代交代で見張りをしてくれるらしく、私達子供はまた寝て良いと言われてしまった。
「さすがに悪いよ」
「いや、ヒナの嬢ちゃんはそう言うがな。子供見張りをさせて、グースカ寝てられっ程、性根が腐ってる訳じゃねぇんだ。子供は大人しく寝とけ」
ガンクさんは、そう言いながらちょっと乱暴に撫でてくる。こう言われてしまうと、頼らないという選択は出来なくなる。仕方ないので、レパの元に移動する。
「何だって?」
「子供は寝てろって」
「じゃあ、ちゃんと寝ないとね」
「うん」
子供達は皆で集まって寝るので、リリアンナさんが持ってきていた大きな布の上で寝ている。私達は、一人分くらいの布を敷いて二人で寝る事にしていた。皆の分の布を確保するためだ。
私はレパと一緒に寝る。レパは尻尾の関係で横かうつ伏せでしか寝る事が出来ない。仰向けだと尻尾で身体が浮いちゃって、落ち着かないらしい。そんなレパに腕枕をして貰いながら眠りにつく。レパが抱きしめてくれるので、落ち着いて眠る事が出来た。
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そのまま夜を経て、朝日が昇って目を覚ました。レパはまだ寝ているみたいなので、起こさないように抜け出す。そして、レパからちょっと離れたところで、身体を伸ばす。
「おう。ヒナの嬢ちゃん、起きたのか?」
バルガスさんが手を上げて挨拶をしてくるので、私も手を上げて答える。
「うん。ちょっとお祈りしてくる」
「ん? おう。あまり離れないようにな」
「うん!」
ちょっと離れたところで跪いて、眼を瞑りながら両手を組む。これが祈りの所作になるはず。これでお姉さんの元に行ける。まぁ、ガチャだけど。
祈りを捧げて十秒程経つと、身体が浮き上がるような感覚がして目を開けると、転生する時にいた真っ黒な空間に来た。こっちの身体は、ヒナではなく、小柳姫奈のものだった。精神的には、そっちのそして、目の前でお姉さんが頭を下げていた。
「この度は本当に申し訳ありませんでした」
「え? えっと……何の事ですか?」
唐突な謝罪に私はちょっと困惑していた。
「本来であれば、通常の家庭に転生するはずだったのですが、盗賊に襲われ五年も囚われるなどと……加えて、その際に受けた虐待のせいで、後々に取り除かれるはずの【不死】が身体に定着してしまいました。本当に申し訳ありません」
「いえ、気にしないでください。おかげで生きているようなものですから」
私はそう言って、お姉さんに抱きついて、胸に顔を埋める。
「こうしてお姉さんに会えるだけでも嬉しいですしね」
そう言うと、お姉さんはちょっとだけ嬉しそうな表情になった。そして、何故か後ろに倒れると、いつの間にか出現した椅子に座った。私は膝の上に座る形だ。おかげで、胸から顔が遠のいた。代わりに綺麗なお姉さんの顔が近くなったけど。
「しっかりと話を聞いて貰うために、一時的にこうさせて貰います。終わったら、好きにして良いですよ」
「やった! お話って何ですか!?」
わくわくする。でも、お話はしっかり聞こう。態々正面から目を見えるようにしているくらいだし。
「まず一つは、姫奈様が転生した理由です」
「ん? う~ん……そういえばそういう話ってしてなかったですね」
「はい。本来は転移者にしかしない事なのですが、今回のお詫びなどを込めてお話させて頂きます。姫奈様には、姫奈様の思うとおりにあの世界を正して欲しいのです」
「ん? 私の思うとおりに?」
そこが疑問だった。私の思うとおりに世界を正していたら、世界を滅ぼす事に繋がるかもしれないのに、それでも良いのかな。
「はい。姫奈様が悪に落ちる事はないと信じていますから。そもそもここに魂が運ばれてくる際に、魂の善性と悪性を判断させています。姫奈様は善性が勝っているために選ばれました。信じる理由はそこにあります」
「へぇ~……でも、世界を正すとは?」
私が信じられている理由は分かったけど、そもそも正すという意味が分からない。
「そのままの意味です。姫奈様が間違っていると思った事を正してください。今回の盗賊団を壊滅させたように」
「その行動自体が間違いでもですか?」
「多少の間違いは許容範囲です。姫奈様の自由に生きてください。姫奈様の幸せを、私は願っています」
「はい。分かりました」
とにかく私は私が正しいと思った事をし続けろという事らしい。私に何か出来るのか分からないけど、盗賊団を壊滅させるみたいな事をすれば良いのなら、私は喜んでやる。そのくらいの恨みは、私の心の根っこに生まれているから。
「次は転生者と転移者の違いです」
「そういえば、さっきも転移者が何とかって言ってましたね」
「はい。転生者は神に選ばれた者。転移者は人に選ばれた者という認識でいてください。姫奈様は、私によって選ばれました。転移者は、世界にいる人によって召喚される者の事を言います。転移者は神々によって、召喚される理由などを話された後に世界に行きます」
「転移者は、それぞれ召喚される理由が違うって事ですか?」
お姉さんの話は、そういう風にも捉えられる。
「その通りです。なので、転移者と敵対する事もあると思います。その際は容赦はしないで大丈夫です。姫奈様が正しいという道を進んでください」
「はい」
もしかしたら、転移者と敵対して転移者を殺すという事になったりもするのかな。でも、相手が悪人に召喚された人という事もあり得るから、そういう時は殺す方が良いのかもしれない。
「姫奈様には苦かもしれませんが、何をしたとしても、私は姫奈様の味方ですから」
「はい! 嬉しいです!」
そう言って、お姉さんに抱きつく。お姉さんも抱きしめ返してくれた。
「では、お話は終わりですので、好きにして良いですよ」
「やった! お姉さん大好き!」
そう言って、お姉さんの胸に手を添える。すると、お姉さんが何かに気付いたような表情をした。
「そういえば、私の名前を伝えていませんでしたね。私はミナエルと申します。呼称は変えないでも大丈夫ですよ」
「じゃあ、ミナお姉さんで」
それから地上に戻されるまでの二時間弱の間、ミナお姉さんの身体を堪能した。ミナお姉さんも頭を撫でてくれたりしたので、幸せな二時間弱だった。
そして、意識が地上に戻ってくる。二時間しっかりといたのに、こっちでは意識が向こうに行ったタイミングから時間は経っていない。だから、祈り始めてから、十秒くらいで立ち上がったという形になる。
「ん? ヒナの嬢ちゃん、上機嫌だな?」
どこで捌いてきたのか分からない肉を抱えたガンクさんがそう言ってきた。ミナお姉さんのおかげで英気が養えたので、上機嫌なのは確かだ。
「うん。そのお肉は……?」
「ああ、襲ってきたモンスターを捌いたもんだ。食える種類だったんでな。腹拵えは重要だろ?」
「だね」
「まぁ、焼くだけしか出来ねぇけどな」
「お腹を満たせるなら、それで十分だよ」
起きてきた皆と一緒にお肉を食べてエネルギーを補給してから、再び街道を移動し始める。そろそろ街に着いて欲しいな。