マンチカンのギルド
ジルさんとの朝食を済ませた私達は、ミラさんにギルドの場所を聞いてギルドへと向かった。ギルドの建物が共通した外観をしてくれているのは、本当に有り難い。ある程度の場所を聞くだけでもちゃんと見つける事が出来るから。
ジルさんが案内するという話もあったけど、ミラさんが却下した。現状のジルさんを安易に一人になる状況にさせたくないという理由だ。恐らくミナお姉さんと同じ結論に辿り着いているのだと思う。
こういう時年上の人達は、本当に色々と配慮して色々と考える事が出来るのだなと尊敬する。
ギルドの中に入ると、いつもの喧騒が聞こえてくる。本当に冒険者はどこも変わらない。でも、その喧騒が少し途切れる事になった。それは冒険者達がアリサを見たからだ。
上半身は完全に隠れていても足は見えている。そこからアリサが普通の人ではないと分かってしまう。それは遠くから見れば見る程明らかだ。
「おい、あれが……」
「ああ、噂のドラゴンになる呪いのやつだろう」
「あれって本当だったんだな」
「俺初めて見たぞ」
「大体の人間がそうだろうよ。他にも何人もいるなら、もっと前から知られていただろうからな」
「あれが事実って事は、これからドラゴンと戦う時には人が変身しているって考慮しねぇといけねぇのか?」
「考慮するだけ無駄だろ。俺達が相手じゃ死ぬのがオチだ」
「そもそもあの状態にするのだって、聖女様の『浄化』が必須って話だろ?」
「あのレベルの『浄化』を持ってるやつがいれば救えるって事だろうな」
「どこにそんな冒険者が転がってんだよ」
「上のランクになれば意外とあり得そうじゃね?」
『ないない』
「てか、ドラゴンの子の傍には処刑人のような子供がいるって話じゃなかったか?」
「ああ、血だらけのハンマーを持って笑顔でモンスターを狩るっていうやつだろ? えっ!? もしかして、あの小さいのが!?」
「あれが処刑人だったのか。噂だと盗賊と知れば、問答無用で殺すらしい」
「マジかよ……いや、盗賊相手だから当たり前なのか?」
「てか、その噂初めて聞いたぞ。どこから流れてきたんだ?」
「知らん。俺も人伝に聞いただけだからな。多分、ヌートリアじゃないか?」
「笑顔で盗賊を殺すのか……絵面だけで見たら恐ろしいな」
そんな会話が聞こえてきた。やっぱり噂として広がっている事がよく分かる。後、私の事が噂になっているのは初めて知った。ギルド内での噂なのか知らないけど、人を勝手に処刑人にしないで欲しい。確かに、盗賊は問答無用で殺す事にしているけど。
てか、どこからこんな情報が流れてきたのだろうか。私が盗賊を殺したって知っているのは、大分少ないと思うけど。まぁ、実害がなければ放っておいても問題ないか。
受付に行くと、すぐにお姉さんが迎えてくれた。ギルドの受付職員は、男性が四割の女性が六割という感じがする。私が見た事のあるギルドの受付さん達を見ての感覚だけど。
「こんにちは。本日はどのような御用でしょうか?」
受付のお姉さんは微笑みながらそう言う。私とアリサは冒険者証を見せて身分の証明をする。その名前を見て、受付のお姉さんは、少しだけ驚いた後に微笑む。
「はい。確認しました。マンチカンは、ヌートリアから近いのでお話はある程度詳しく伺っております。一応、掲示板などに貼って、情報は流しておりますので、その点はご安心下さい。ですが、珍しいお身体という事で、人攫いが出る可能性もあります。十分にお気を付け下さい」
「はい。分かりました。後、私の名前宛てに手紙とかって来てませんか?」
「ヒナ様ですね。少々お待ちください」
二分くらい待っていると、四通の手紙を持って受付のお姉さんが戻ってくる。
「はい。レパ様、リタ様、キティ様、メイリア様からのお手紙があります。お名前に心当たりはございますか?」
「はい」
「では、こちらに受け取り証明をお願いします」
証明書にサインをして手紙を受け取る。ギルドを通した手紙の受け渡しは基本的にこんな感じだ。メイリアさんの手紙だけ少し厚いからビビアンさんの手紙も入っているのかな。手紙をポーチに入れる振りをしてインベントリに仕舞う。
「ありがとうございます。もう一つ訊きたいんですが、この辺りのモンスターで狩りやすいモンスターっていますか?」
「狩りやすいですか? そうですね。Dランクの依頼になってしまいますが、森の方にいるファングボアでしょうか。牙が鋭く注意が必要ですが、森の中多く生息しています。ヒナ様はDランクですので丁度良い依頼となるでしょう。アリサ様もご同行するのは、少々不安要素になりますが」
「アリサなら大丈夫です。花畑の方はモンスターはいないんですか? あまり見掛けなかったのですが」
一応花畑の方の情報も入れておく。アリサが見に行きたいかもしれないから。
「道沿いの花畑でしたら、モンスターは少なくある程度安全ですが、奥に行くと花に擬態しているフラワーマンティスがいます。Dランクのモンスターではありますが……擬態が厄介ですので、先制を許す事も多く危険な存在です。あまりおすすめはしません」
「ニャ~」
モンスターの情報を貰っていたらカウンターに足が短い猫がやって来た。
(マンチカン?)
猫の品種に詳しくないので、実際にマンチカンなのかは分からない。猫は私に近づいて来るので手を伸ばして撫でてあげる。
「ギルド特別支部長のマチです。メスの二歳です」
「へぇ~、可愛いですね」
撫でてあげていると、こてんとお腹を出すので、お腹の方も撫でてあげる。アリサを伸ばそうとして、自分がドラゴンだという事を思い出したのかスッと引っ込めた。
「アリサも撫でてあげたら?」
「え?」
「マチも良いよね?」
「ニャ~?」
マチは何を言っているのか分からないという風に鳴いた。そんなマチにアリサは恐る恐る手を伸ばす。すると、マチはアリサの指に猫パンチをした。特に痛くないからかアリサはそのまま手をその場に維持させている。なので、マチも猫パンチを続けていた。
嫌がっているパンチというよりは遊んでいる感じだ。アリサは、どう判断して良いのか分からずに私を見ている。
「ほら、そのままお腹に手をおいてあげな」
「う、うん」
アリサが手を伸ばしてお腹に軽く手を乗せると、マチはその場で思いっきり伸びていた。ちゃんと触る事が出来たので、嬉しそうな表情をするアリサだったが、猫は気まぐれ。すたっと立つとカウンターの向こう側に去っていた。
「ああ~……」
「まぁ、こればかりは仕方ないよ。それじゃあ、依頼を取ってきますね」
「はい。お待ちしております」
アリサを連れて、ファングボアの依頼の紙を取って受注する。
「そうだ」
受付のお姉さんに手招きで近くに来てもらって耳打ちをする。
「【アイテムボックス】にホーンラビットとマッチョボアとロックコンドルとアッシュウルフがいるんですが、ここで売れますか?」
「なるほど。はい。依頼の報告際に一緒に査定します」
受付のお姉さんは、少し頬を染めながらそう言った。もしかしたら、私の魂の力である色欲の力が出ているのかもしれない。この短い会話の中で、私はちょっとお姉さんを好きになっていたらしい。我ながらヤバい人だなと思う。それとアリサの視線も刺さる。なので、即座に離れる。
「じゃあ、その時によろしくお願いします」
「はい。お気を付けて」
受注を終えたので、アリサと一緒にギルドを後にする。すると、アリサが私の顔を覗きこんでくる。
「名前聞かなくて良かったの?」
「へ? 名前?」
「好きなんでしょ?」
アリサには本当にバレバレになってしまった。私がそういう人だと知ってしまったから、そういうのに敏感になったという感じらしい。
「確かに好きになってるかもだけど、そんな食いつこうとは思わないよ。自然とそういう流れでね」
「ふ~ん……恋が多いのは良いと思うけど。ヒナからぐいぐい行かないと街を出るまでに関係を更新出来るか分からないよ?」
「何でそんなにノリノリで後押しするのさ」
「だって、そういう事をした後のヒナって幸せそうな笑顔で帰ってくるから」
滅茶苦茶恥ずかしい事を言われてしまった。今度から表情に気を付けよう。本当に恥ずかしいし。




