マンチカン到着
山道に戻ってから一週間。ようやくマンチカンが見え始めた。その少し前から色とりどりな花が咲き乱れた花畑の間を歩いている。アリサは、キラキラとした目で花畑を見ていた。私が街中を歩き始めた時と似たような感じなので、一応アリサとは手を繋いでいる。
この辺りは慣れているからか、ジルさんの足取りが少し軽くなった事にも気付いた。もうすぐ街だというのも理由にあるかもしれない。
二時間程歩いて、門番に冒険者証を見せる。身分を証明したところで、ジルさんの事を伝える。
「あの山に盗賊がいました。既に全員処分しましたが、彼女が捕まっていて、救出したは良いものの声を失っているんです。元々ここに住んでいて、隊商の一員としてヌートリアに行こうとしていたので、その途中で捕まったらしいです」
「ふむ……出立したのは、一ヶ月近く前か?」
私が答える前に、ジルさんが頷いた。それを見た門番は、眉に皺を寄せる。怒りの感情が見て取れる。隊商を襲った盗賊への怒りだ。
「そうか。あの一団がやられたか……分かった。一応、騎士団にも報告して貰えるか?」
「騎士団の場所は……」
場所を聞こうとしたら、ジルさんが私の肩に手を置いた。何だろうと思ってジルさんを見ると、自分の事を指差していた。
「ジルさんが案内してくれるんですか?」
これに頷く。ジルさんは、ここに住んでいた訳だし、態々聞いて覚える手間を掛ける必要はないという事だ。
「大丈夫そうです」
「ああ。頼んだ」
門番の人に見送られて、私達はマンチカンに入る。マンチカンの中は、外の花畑同様に花で彩られていた。でも、花の匂いで噎せ返るという事もない。そこで気が付いたけど、飾られている花のほとんどが造花だ。
(枯れる心配がなくて、安定して飾る事が出来るからかな。花の街。外の景色だけでもそう言えるけど、中も花の街とは思わなかったなぁ)
そんな風に思っていると、アリサと繋いでいない方の手が何かに包まれた。その正体は、ジルさんだった。苦笑いしながら前を指差している。前を向いていないと迷子になるという事を伝えているのだろう。本当にその通りだと思う。
「ほら、アリサ行くよ」
「うん」
アリサも見惚れていたので、アリサに呼び掛けると頷いて付いてきてくれる。こうして歩いていると、私が二人を捕まえている子供みたいに見える気がする。いや、気にしないでおこう。こういう事を気にしすぎていたら、人生楽しく生きていけない。
ジルさんは、迷う事なくマンチカンの騎士団の詰め所に連れてきてくれた。その詰め所の前に何人かの騎士が集まっているのが見える。
「すみません。ちょっと良いですか?」
「ん? どうした?」
集まっている中から金髪の男性が来てくれた。イケメンって感じの騎士だ。女性人気は高いだろう。
「報告したい事がありまして。マンチカンとヌートリア間の山に盗賊がいたんです」
「何!?」
「あっ、ちょっと待って下さい」
すぐにでも全員に指示を出しそうな雰囲気だったので、一旦制止する。すると、口を閉じて私を見た。
「盗賊自体は処分しました。丁度私達に襲い掛かってきていたので。そのアジトで、彼女を見つけました。私達が見つけた時には声を失ってしまっていました。一ヶ月程前にここからヌートリアに向かう隊商の一人ですが、その他の方々は」
「良い。分かった。盗賊のアジトがあった場所は分かるか?」
「はい」
私は腰に付けているポーチの中を漁る振りをして、インベントリの中から地図を取りだす。折りたたまれているので、ギリギリポーチに入っていたようにも見える。
「この山の頂上のここら辺です。中の遺体を弔うために小屋ごと焼いたので、焼けた小屋があればそれです」
「そうか。モンスターに遺体を荒らされるよりは良いか……何かしら情報が残っていれば良かったんだが……」
「それなら……詰め所の中で話せませんか?」
「……分かった」
私の提案に、少し考えた後に頷いてくれた。察しの良い人みたいだ。多分、私がインベントリ……というよりも【アイテムボックス】持ちだという風に考えたのだと思う。【アイテムボックス】を隠す理由は、私が冒険者証を持っている事からも察してくれるだろうし、了承してくれた事から言いふらす事はないと考えて良さそうだ。
騎士に案内されて詰め所の一室に入る。取調室かと思ったけど、ただの部屋みたい。
「資料整理などに使う部屋だ。周囲の目はない。【アイテムボックス】を使って問題ないだろう」
「じゃあ」
私は盗賊の小屋で回収した書類や本を片っ端から出していく。机の上に小山が出来たところで、小さい嘆息が聞こえてきた。これを今から調べるのかと嘆いているのだと思う。私もインベントリで調べる事が出来なければ同じようにしていた。
そういう点では、色々と検索機能やらがあるインベントリ様々だ。
「えっと、ここら辺が帳簿みたいなものです。でも、盗賊のものっぽくはないですね」
一応、私の方で掴んだ情報の一端を開示しておいた。これで少しは調べるものの内容が分かりやすくなる。
「ふむ。なるほどな。盗賊が付けていたものではなく、盗賊が襲った対象が持っていたものという可能性か。そこから襲われたのがどういう関係者だったかは分かりそうだな。助かる」
「はい。では、報告したい内容も終わったので、私達は行きますね」
「ああ……ん? いや、待ってくれ。一つ確認したい。その子はドラゴンの子か?」
騎士がアリサを見て確認する。アリサは、自分を隠すように私の後ろに回った。だが、この情報が騎士の口から出たという事は、しっかりとアリサの呪いに関する情報が出回っているという証拠。その分、アリサが動きやすくなっているという事でもある。アリサには悪いけど、少し嬉しい事でもあった。
「はい。お話は行っているようですね。特に大きな問題などはありませんので、ご安心下さい」
「ああ。それは理解している。何かその子絡みで問題が起きたら、俺のところに来てくれ。対処する。俺はグレイズだ」
「ヒナです。こっちはアリサ。彼女はジルです。では、改めて失礼します」
「ああ、外まで送ろう」
グレイズさんは、私達を詰め所の出口まで見送ってくれた。取り敢えず、盗賊問題はこれで解決かな。私達が全滅させたから、そもそも問題自体なかったかもしれないけど、騎士団の方でも確認作業とかがあるだろうから、この報告は重要だった。
「さてと、後は私達の宿を探す……前に、ジルさんを送り届けるところからですね」
私がそう言うと、ジルさんは何度も頷いてからメモに何かを書いて、私達に見せてきた。
『私の実家が宿。鍵付き。近くにレストラン有り。二万リル✕ 一万リル△』
ジルさんの実家は宿屋で鍵付きの部屋を扱っているらしい。近くにレストランがあるから食事に困る事はほぼなく、本来なら二万リルだけど半額の一万リルに出来るかもしれないという事らしい。値段の話は、さすがに確約出来ないから仕方ない。ちょっと高いけど、今の所持金なら問題はない。
「それは助かります。宿を探さずに済みますから。それじゃあ、案内をお願いしますね」
そう言うと、ジルさんはサムズアップして私達を案内してくれた。そうして着いた場所は、滅茶苦茶高級宿っぽい場所だった。ジルさんって、割とお嬢様?




