ゴミ掃除
私が近づくとアリサは翼を広げて、人間の方の手で私の事を抱き抱える。私の方が小さいし軽いので、こうした状態でも飛べるらしい。割と大変だとも言っていたけど。
「行くよ」
「うん」
アリサが二対四翼を羽ばたかせて、空に上がる。その後、上昇気流か何かに乗ったのかグイッと崖上に出て、そのまま風の流れに乗り移動をし始めた。
「この風って自然のもの?」
「ううん。私が調節してるの。そうじゃないと空なんて飛べないから」
「そうなんだ」
向かい風を浴びて皮膜に風を受ける事で上昇するのかな。その後は、追い風を受けて進んでいる感じがする。結構高めを飛んでいるけど、気圧の変化で身体がやられる事がない。ここら辺も空を飛ぶスキルで防いでくれている感じなのかな。そこから見下ろして盗賊達のアジトを探す。
「……あっ、あれかな?」
アリサがそう言うので、アリサの視線を確認してその方向を見る。すると、そこには小さな小屋があった。何の変哲もない小屋にしか見えない。
「普通の山小屋だったら困るから攻撃はしないで」
正直怪しい場所は上から雷鎚ミョルニルをぶん投げて破壊したいけど。あそこが一般人の小屋だったら関係ない人を殺す事になるし、もしかしたら私達みたいな奴隷にされている人もいるかもしれないから迂闊な攻撃は出来ない。
「ひとまず、他のところも見ておこう。あそこは怪しいポイントって事で。まだ飛べる?」
「うん。大丈夫」
アリサに無理をさせないくらいに、空からアジトを探す。でも、アリサが見つけてくれた山小屋くらいしかなかった。あの山小屋じゃなければ、どこかに穴を開けて住んでいる感じになる。ひとまずは、あそこを調べる事にした。
「アリサは、正面から戦闘するのでも大丈夫?」
「うん。平気だよ」
「オッケー。それじゃあ、山小屋の前に降りよう」
割と絶叫マシンは苦手だったはずなのだけど、こうして空高く飛んだし急降下しても特に何も思わない。【精神耐性】でそういう恐怖も含めて緩和させられているらしい。こういう時はありがたい。
私達が着地して、アリサが羽を仕舞うのと同時に扉が開いて人相の悪い男が出て来た。
「あ? 何だガキ共」
「あんたの仲間の盗賊達は殺しておいたよ」
「あ!?」
男が青筋を立てて、ドア枠を殴った。それと同時に予め金槌の大きさにしていた雷鎚ミョルニルをぶん投げる。雷鎚ミョルニルは胸に命中して、男の胸部が思いっきり凹んだ。男は口から血を吐いて倒れた。雷鎚ミョルニルを引き戻したところで、中から何人もの盗賊達が出て来た。
「おい! 外に出てる奴等に合図を出せ!」
「お、おう!」
一人の盗賊が仲間に合図を出しに行くのを止めない。招集して貰った方が、こっちにとっても都合が良いからだ。
「一つ質問して良い? ここに奴隷とかはいる?」
「あ? 正義の味方気取りか? 残念だったな! ここは追い剥ぎばかりする奴等の集まりだ! まぁ、色々と楽しんだり、邪魔なやつは殺したりしているけどなぷ……」
教えてくれたお礼に、雷鎚ミョルニルの雷撃で一番に花火にしてあげた。雷鎚ミョルニルを引き戻しながら盗賊達の群れに突っ込む。その後ろからアリサが風魔法で援護してくれる。仲間が死んだ事で唖然としていた盗賊達の一部が首を落とされた。
私は、正面にいる盗賊の喉に元の大きさに戻した雷鎚ミョルニルを突き刺す。喉を潰された盗賊が苦しそうな表情になるが見えたけど、特に気にしない。
すぐにその横にいる盗賊に向かって雷鎚ミョルニルを振う。咄嗟に腕で防御していたけど、そんなもので止められる程の攻撃じゃない。腕が千切れて頭の上半分が吹っ飛んだ。
そのまま山小屋の中に突っ込んでいき、その中にある本や書類を片っ端からインベントリに入れていく。何かしらの資料とかがあれば、後でギルドに提出しやすくなるからだ。
私を追ってきた盗賊は、上半身が胸から直角に曲がったり、首がなくなったり、首が真後ろを向いたりと、すぐに動かなくなっていった。
(焦って追いかけてきた?)
私を追ってきた盗賊達は何かを焦っているようだった。つまり、小屋の中に何かあるのかもしれない。
(本や書類が原因なのかな。いや、そうじゃないかもしれない……)
外にいる盗賊達の気配が少なくなっていく中で、少しずつこの小屋の中にも気配がある事に気付いた。
「どこに……?」
探すためには周囲の気配が邪魔だった。だから、先に盗賊達を蹴散らす事に決める。外に出ると、アリサが羽の手と魔法を使って盗賊達を倒しているところだった。
「この化物が!!」
その言葉を聞いて、アリサが肩を揺らしていたのを見た私は頭に血が上る。
「化物はお前達だよ!!」
盗賊の首を雷鎚ミョルニルで吹っ飛ばす。私が大きな声を上げたからか、盗賊達が私を見てくる。
「何が化物だ! 人の物を奪って悦に浸って、人から尊厳すら奪う。お前達の方がよっぽど化物でしょうが!!」
雷鎚ミョルニルで雷を纏い身体能力を向上させながら走り回って、次々に盗賊の首を弾き飛ばしていく。何人か反撃しようとしていたけど、その前にアリサの魔法で首が飛んでいった。
アリサが私の隙を補ってくれるから、私も安心して動ける。次々に盗賊達を殺していき、招集を掛けられた盗賊達も軒並み殺した。周囲に盗賊の気配がしなくなったタイミングで、雷鎚ミョルニルを腕輪に戻す。 そして、すぐにアリサの元に駆け寄る。
「アリサ。大丈夫?」
「うん。大丈夫だよ。ありがとう。ヒナ」
アリサは私を抱きしめながら頭を撫でてくる。アリサなりに嬉しさのアピールかな。羽でも私を包み込んでいるし。アリサの身体は鱗に覆われている箇所もあるけど、普通に柔らかい箇所も多い。だから、結構心地よい。
でも、そのままアリサの身体にくっついていたいという欲求を抑える。
「アリサ。小屋の中に人がいるかもしれない。気配があるでしょ?」
「ん? あ、うん。大分弱っているけど……あるね」
「だよね。行こう」
アリサと一緒に小屋の中に入る。小さく感じる気配を頼りに探すと、小屋の下から感じると気付いた。開け方が分からないから壊す事にする。
「中にいる人! この声がする場所から下がって! ここ壊すよ!」
呼び掛けると、中の気配がゆっくりと動く。ちゃんと伝わって離れた事を確認し、雷鎚ミョルニルで床を叩き割った。そうして出口を作ってから、アリサに魔法で光を用意して貰って中を覗きこむ。
そこには普通の人族の女性がいた。他にも人の形は見えるけど、完全に動かないどころか気配を感じない。つまり死んでいるという事だ。
地下は嗅ぎ慣れた臭いが充満している。死と糞尿の臭い。そこからもここがどういう環境だったのか分かる。楽しむだけの対象。労働力じゃないから勝手に死んでも構わない。そういう事だろう。
そう考えれば、私達の方はまだ恵まれていたのかもしれない。いや、そういう環境にいた事自体が恵まれているというものじゃないか。
「ここにいた盗賊は全員殺したので、もう大丈夫ですよ。手をどうぞ。引き上げます」
一瞬怯えた表情をしていたけど、ゆっくり怖ず怖ずと手を伸ばしてくれる。人を怖がっている。当たり前だ。こんな事をされていて、怖いと思わない訳がない。だから出来る限り微笑んで安心させる。
手を掴んで外に引き上げる。ボロボロの服。でも、元々着ていた服なのかな。私が着ていたものとは全然違う。こっちの方がしっかりとしている。
体系的に考えて私の服は無理だけど、アリサの服ならギリ大丈夫かな。かなり際どい姿になるけど。
「アリサ。服をあげても大丈夫?」
「うん。大丈夫だよ」
「それじゃあ、身体を洗ってから服を着替えましょう」
私がそう言うと、女性は頷いた。声を出していない。いや、声を出せないのかも。声帯を奪われたとかじゃなくて、ストレスによる失声症かな。それだけの事をされているというのは簡単に予想できる。
アリサの『洗浄』で身体を洗って、タオルで拭いて貰う。少し恥ずかしそうにアリサの服を着ていく。サイズ的な問題がない事を確認したら、その上から外套を羽織って貰う。これで少しは恥ずかしくなくなるはず。
「それじゃあ、最後に火を放とう。私達にあの人達をどうにかする方法はないから。せめて、火葬で送ろう」
「うん。分かった」
アリサが火を放ち、山小屋を燃やす。周囲に延焼させないように気を付けながら燃え上がる小屋を見ていた。女性も同じように呆然と燃える小屋を見ている。その胸中では一体何を考えているのだろうか。私には分かるはずもない。




