山道を行く
平原で一泊してから山の麓までやって来た。街と街を繋いでいる道のため、山道も出来ている。そのため道に沿っていけば迷う事はない。そう。迷う事はない。
「ここ行くの?」
アリサが不安そうにそう言う。それもそのはず。この山道は崖に出来た山道を進む。ここからでも切り立った崖が見える。崖は道の両側面にあるけど、片方は上に、片方は下に続いている。上からの落石と下への落下を意識しながら歩く必要がある。
ここを馬車で行くことは出来るだろうけど、かなり危ないという事がよく分かった。
情報で知るのと実際に見るのでは大違いだ。
「まぁ、ここが一番モンスター的に安全らしいからね。途中で寝泊まり出来るだけのスペースがいくつかあるらしいし。ほら、行くよ」
アリサの手を取って山に向かって歩き出す。アリサもすぐに私に並んで歩き始めた。
山道には自然は少ない。基本的に岩肌が剥き出しとなっているので、上からの落石という危険があるものの落石の頻度はかなり少ないという情報を得ている。危険は危険だけど、取り敢えずは問題なく歩いていけるはずだ。
ただ坂道が若干急になっている場所がある。
「結構急だね。アリサ大丈夫?」
「うん。全然平気だよ。ヒナは大丈夫なの?」
「うん。【苦痛耐性】があるからかな? それだとアリサも同じか」
向こうの世界でも経験したことがない程の険しい道でも、特に疲れたとかはない。険しいなとは思うけど、それくらいだ。それが【苦痛耐性】によるものかは分からないけど、ある程度関与していそうではある。
「険しいけど、ここを馬車で来る人がいるの?」
アリサは勾配などを見て、ここを馬が通って大丈夫かと疑問に思ったらしい。
「山が得意な馬がいるみたいだよ。平原での移動速度を重視しなければ、そっちの馬を扱う商人も多いみたいだからね。平原で速い馬を使うよりも、こっちの方が移動日数を減らせたりするってさ」
「へぇ~」
「私も馬車は扱えるけど、ここを行くのは無理だね」
「馬車扱えるの?」
「うん。ちょっと習ったからね。平原なら走らせられるよ」
「へぇ~」
アリサは本当に感心しているようだった。バルガスさんに習っているので、普通に走らせる分には出来るけど、この山道はさすがに厳しい。絶対危ないと思って、普通に歩きで来たのは正解だった。
山道を進んで行くと、【気配察知】でモンスターに気付いた。モンスターは空からやって来る。この山に出て来るモンスターは、ロックコンドルと呼ばれるモンスターで岩を足で掴んで投げてくるらしい。割とえげつないモンスターだ。
雷鎚ミョルニルを出して、金槌の大きさにする。そして雷を纏わせたところで、ロックコンドルに向かって思いっきりぶん投げた。
「おらぁ!!」
周囲に衝撃波を飛ばしながら飛んでいった雷鎚ミョルニルは、ロックコンドルの身体を貫いた。即座に引き戻す事で、ロックコンドルの身体をこちらに持ってくる。ロックコンドルを貫いた時点である程度勢いが削がれているので、帰りに貫く事もなく、ちゃんと持ってくる事が出来た。
「よし! 食材ゲット!」
「おぉ」
アリサが小さく拍手する。なので、ちょっと自慢したくなる。
「凄いでしょ?」
「うん。でも、衝撃波は止めた方が良いかも」
「え?」
アリサが私の事を羽で覆った直後、その羽に何かが落ちてきた。その正体は衝撃波により転がってきた落石だった。
「あっ、ごめん! 大丈夫?」
「うん。落石くらいなら平気」
「良かった……」
私が投げた時、雷鎚ミョルニルは音速の壁を越えた。その衝撃波は落石を起こすのに十分だった。そのせいで、アリサに痛い思いをさせてしまった。ちゃんと反省しないと。
アリサは、耐性スキルとして【斬撃耐性】【刺突耐性】【打撃耐性】【物理耐性】を持っている。でも、耐性であって無効ではない。一発二発くらいなら耐えられても、ドラゴン状態のアリサが傷だらけになったように何度もやれたら耐性は貫かれる。
これは【痛覚耐性】【苦痛耐性】【激痛耐性】などでも同じだ。異常な痛みは、ちゃんと痛みとして扱われる。
アリサが落石くらいなら大丈夫と言ったのも嘘ではない。でも、そういう事に甘えていたら、アリサが知らぬうちに痛い思いをしている可能性はある。私自身が痛みに強い身体になっているからこそ、ちゃんと理解しないといけない。
「次からは魔法で倒す事にするかな」
「それなら私に任せて。ヒナよりも得意だから」
「うん。そうする」
私も魔法は使えるけど、正確性などで言えばアリサの方が上だ。私は牽制程度に使うだけだ。正直ぶん殴る方が性に合っている。雷鎚ミョルニルに雷を纏わせて殴れば、雷撃を与える事も出来るから。
ロックコンドルをインベントリに仕舞って、そのまま山道を歩いて行く。さっきの攻撃のせいなのか、怒った様子のロックコンドルは次々に集まってきた。アリサが魔法で次々に落としていくので、私達に被害はない。ただあまり回収出来ていない。数が多いから、回収まで手が回らない状態みたいだ。そこは仕方ないので諦める。
「う~ん……」
「ごめんね。回収が上手くいかなくて……」
アリサが申し訳なさそうに謝る。でも、私が唸っていたのは回収が上手くいかなかったからじゃない。
「気にしないで。そっちは仕方ないって諦めがつくから。問題はそっちじゃなくて、ロックコンドルの数が多いなって。ロックコンドルは危険ではあるけど、数が少ないんだよ。だから、魔法を使う事が出来れば安全に進む事が出来るはずだったんだけど……」
「私のせい……かな?」
アリサが言っているのは、アリサがドラゴンの状態で教会地下にいた事だろう。ドラゴンという頂点捕食者の気配が周囲のモンスター達に、本能的に逃走という選択を取らせた。その結果、モンスター達の数が一定の場所に偏るという事が起こった。
その煽りがここにまで来ていたのではと思ったらしい。
「可能性はあるかもしれないけど、繁殖期が過ぎたばかりとかも考えられるよ。救いなのは、ロックコンドルが強いモンスターではないって事かな」
「うん。落とすのは簡単」
「この調子で戦っていこう。ロックコンドルは、夜行性ではないらしいから夜はゆっくり休めるはず。戦闘回数が少し増えるって風に考えておけば良いかな」
「うん」
アリサがいたからというのは否定出来ない。そればかりは実際にあった事だから。でも、私としてはそれだけが原因じゃないと思う。元々ロックコンドルは少ないという話で、ここに生息していない訳では無いのだから、アリサがいたから集まってきたとは言い難い。
繁殖期で大幅に数が増えたからと考える方がまだ納得出来る。モンスターなら年中繁殖期とも考えられるけど、そんなホーンラビットやマッチョボアみたいな種族ばかりではないはず。
そこから何度かロックコンドルとの戦闘があった。最初に十何匹のロックコンドルと戦ったけれど、そこからは基本的に一、二匹が現れるくらいだった。
それでも遭遇頻度は高い。ロックコンドルが増えているという事は事実と考えて良さそうだ。ここまで遭遇するのに、数が少ないというのは違和感が強いし。まだギルドも掴んでいない情報だと思うから、本当にここ最近増えたと考えるのが妥当だろう。
でも、アリサがいるおかげで、本当に何の脅威にもならずに山道を進み続けられた。
山道の途中で岩肌に空いている洞穴を見つけたので、そこで一泊する事になる。ここが山道の中での休憩ポイントである事はギルドの情報で知っているので、迷いなく入る。洞穴の広さは、テントが四つぐらい張れる場所だった。
天井となる部分にはしっかりとした補強がされており、簡単には崩落しないようになっていた。ここを野営地として使っている事の証拠だ。
「大丈夫そうだね」
「魔法で作ったのかな?」
「うん。そうらしいよ。安全な野営が出来るように、こういう山道とか森の中とかには、色々と工夫されているって資料にあったから。定期的に商人が護衛を連れてくるから、モンスターが住む心配もあまりないしね」
「そうなんだ」
こんな話をしながら、私達は少し奥の方にテントを張る。カトリーナさんから教わったけど、こういう時は手前に張らずに奥に張るのがマナーらしい。後から来た人達は、中々奥まで入られないからみたい。
テントを張り終わったら、中に革を敷いてアリサでも安心して入る事が出来るようにする。次いで、四つのポールを出して人が二人入れるくらいの広さで四隅に突き刺してから頂点同時を結ぶように棒を付ける。その棒に耐水性の布を掛けていき、簡易的なシャワールームを作った。
「人が来ない内に、シャワー浴びちゃおう」
「うん」
アリサと一緒に中に入って、アリサの水魔法の『洗浄』で身体を洗っていく。アリサの羽とかもしっかりと洗う。しっかりと身体を拭いて、髪を乾かしながらポールの後片付けをする。
「誰も来ないね」
「まぁ、外にはモンスターもいるから、隊商を組むのも時間が掛かるし、そこまで多くないと思うよ」
「そっか」
寝間着に着替えて、夜ご飯の準備を始めようとした瞬間に入口付近に人の気配がしてきた。一応どういう人か確認しておくためにそちらを見ると、見るからに商人ではない人相の悪い人が三人くらいいた。冒険者にも人相が悪い人はいるけど、そういう雰囲気もない。
「女二人かぁ」
「あぷらっ!?」
一人は声を上げる前に頭が弾けた。理由は、私が投げた金槌の大きさの雷鎚ミョルニルだ。驚愕しているもう一人の背後に雷鎚ミョルニルを戻して、後頭部を強打させる。手元に戻って来た雷鎚ミョルニルを元の大きさに戻して最後の一人を殺そうとすると、
「ヒナ! 待って!」
アリサに止められて寸前で手を止める。仲間二人が即座に殺された事もあり、顔面蒼白で震えている。止められた事に安堵した様子だけど、そんな男にアリサが翼を伸ばして首を掴み、近くの壁に叩き付ける。
「ああ、なるほど」
アリサの意図を理解した。アリサは、もう片方の翼に付いている爪を突き付ける。
「殺されたくなければ、貴方達のアジトを教えなさい」
「え……いや……」
「じゃあ、死んで良いと」
アリサの爪が男の側頭部に僅かに食い込む。それだけで男から血が流れてきた。それは男に死を感じさせるのに十分だった。さらに真っ青な顔になった男は声を張り上げた。
「こ! この山の上だ! そこにアジトを構えている!」
それを聞いたアリサは手を放して下がっていく。同時に私は雷鎚ミョルニルを持って前に出た。それを見た男は、何か察して後退っていく。でも、背後にあるのは壁のみなので、どうやっても逃げる事は出来ない。
「なっ……じょ、情報は話しただろ!?」
「うん。でも、話したら殺さないとは言ってないよ。だから、死ね」
雷鎚ミョルニルをフルスイングして男の頭を吹っ飛ばした。首を失ったからだは、力なく倒れていった。そんな死体に目を向ける事もなく、アリサの方を見る。
「アリサ」
「うん。殲滅したいでしょ? ヒナの話は聞いていたから分かるよ。盗賊は憎いよね」
「うん。でも、アリサはここで休んでいても大丈夫だよ?」
「ううん。一緒に行く」
「そっか。ありがとう」
私はテントを撤収して、アリサは死体を燃やす。骨になった身体を踏み砕いている間にテントを全てインベントリに入れられた。突発的な盗賊との遭遇。これを放置する事は、私には出来ない。彼奴らは生きているに値しないゴミだから。




