大きな赤い雫
森を抜けた私達が見たのは、一面に広がる草原だった。森から離れた草原の真ん中で、私達は休憩をしていた。そこで高身長のガンクさんに肩車をして貰って、先の方を見ていた。
「街道は見えねぇな」
「うん。一面草原だね。奥の方にあるのは森かな。ねぇ、ここがどこだかは分かる?」
「それも分からねぇ。おい! 誰か心当たりある奴はいるか!?」
ガンクさんの確認に、皆が首を横に振る。つまり、私達がいる現在地は誰も分からないという事だ。完全なる迷子である。
「盗賊のアジトだし、街や人里から離れた場所にあるのかな?」
「そこら辺は盗賊によるな。こいつらは用心深いところがあったんだろ。となると、やっぱ街道を探さねぇとな」
街道があれば、街へと繋がっているはずなので、見つける事さえ出来れば、街道に沿って歩いて行くだけで確実に街に着く。だから、森を抜けた今は街道を探す方にシフトするという事だろう。でも、それがここに確実にあるとは限らない。
「街道かぁ……草原には必ずある?」
「場所によるな」
「じゃあ、ここからも長いかもかぁ。長めの休憩にする?」
「そうだな。ヒナの嬢ちゃんも休んどけ」
「うん」
ガンクさんの肩から降りた私は、レパの横に移動して座る。すると、レパが私の頭を誘導して、膝枕をしてくれた。草原に寝転がって、レパの膝枕で寝るのは結構気持ちが良い。そのまま寝られそうな気持ちになるけど、その前にステータスの確認をしておく。
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ヒナ Lv4『雷鎚トール』
職業:採掘者Lv48
MP:2393/2393 2335+58
筋力:1075(1600)『2000』 1009+66
耐久:1968(890)『1000』 1930+38
敏捷:396『500』 356+40
魔力:434『500』 405+29
器用:868 847+21
運:40(890) 20+20
SP:40 20+20
スキル:【槌術Lv1】
【MP超上昇Lv32】【剛腕Lv18】【頑強Lv28】【駿足Lv7】【至妙Lv16】
【採掘Lv58】
【MP回復力超上昇Lv21】【重撃Lv12】【暗視Lv68】【見切りLv1】【気配察知Lv8】
【雷耐性Lv1】【打撃耐性Lv10】【毒耐性Lv3】【痛覚耐性Lv10】【苦痛耐性Lv10】【精神耐性Lv10】
【高速再生Lv38】
【生命維持】【不死】【女神との謁見】
職業控え欄:旅人Lv1 平民Lv18
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レベルが2も上がったけど、さっきの伸びと比べて、かなり劣っている。十五年の蓄積の末のレベルアップがどれだけ大きかったのか分かったのと同時にレベルをどんどん上げていくのとしばらくの間レベルを上げずにいるのとで、どちらの方が、効率が良いのかという悩みが出て来る。
それにSPの利用先もどうするかが悩みどころだ。実際のステータスの伸びを見るに、
「レパって、ステータスどうしてる?」
「え? どうしてるって?」
「SPの振り分け先とかが迷っちゃうから」
「あぁ……基本的には溜め込むかも……私も初めてレベルが上がったけど、振り分けたいって思わないから」
正直、私も同感だ。SPがあるから振り分けなければって思うけど、そもそもどこか伸ばしたいステータスがあるかと言われると、現状では何とも言えない。ハンマーである雷鎚トールが武器だから安直に筋力で良いのかという疑問が生まれるからだ。逆に別のステータスを補った方がという考えも出て来るしね。
「そっか。なら、私もそうしようかな。正直、どれに振れば良いか分からないし」
「ちゃんと考えて振り分けた方が良いって教えられるしね」
「そうなんだ」
「うん。取り敢えず、ヒナは少し眠りな。ヒナは重要な戦力なんだから」
「う~ん……そうする」
レパに頭を撫でられながら眼を瞑ると、すぐに意識が飛んだ。色々とあったから、結構疲れていたみたい。MPが無くなって動けなくなったりもしていたし、ここら辺は仕方ないかな。
大体四時間くらい寝てしまい、太陽が真上まで上っていた。
「寝過ぎた……」
「いや、そうでもない。子供達にとっても良い昼寝の時間になった。その間に、奥の方で街道も見つけたしな」
私の元に来たバルガスさんがそう言った。いつの間にか先の方を探索してくれたみたいだ。私や子供が爆睡していたから、大人達は大人達で動こうって事になったのかな。
「そうなの?」
「ああ。ただ街までは発見出来なかった。ここから街までは森以上に歩く事になるかもしれん」
どこまで探索していったのか分からないけど、森以上に歩くという事は、それが分かるくらいは探索してくれたという事が分かる。私が寝ている間にそこまでしてくれたのは感謝だね。
「それじゃあ……」
そろそろ出発と言おうとした瞬間、空から落ちてきた液体が私に命中する。頭から被って、かなりの重さがあった。本当に首が折れるかと思った。耐久の高さが無かったらやられていたかもしれない。
「うぶっ……」
落ちてきた液体は、若干黒い赤色の液体だった。しかも鉄のような匂いがする。つまり血だ。
「うぇ~……何これ……」
私が空を向くと、そこにはフラフラと空を飛ぶ小さな点が見えた。バルガスさんも見上げていた。目を細めてジッとその点の正体を確かめている。
「あれは……ドラゴンか?」
「ドラゴン? ドラゴンって、あんなフラフラと飛ぶの?」
「いや、ヒナの嬢ちゃんに降ってきた血を見るに怪我をしているみたいだ。あの高さなら、こっちには来ないだろう。それよりも身体を洗って貰え。ドラゴンの血は、時々毒が混ざっているというからな」
「それ早く言ってよ!! リリアンナさ~ん!!」
私は急いでリリアンナさんのところに行く。リリアンナさんは、全身真っ赤私を見て驚いていた。
「ちょっ!? 何があったの!?」
リリアンナさんはすぐに水を出して、私を洗ってくれる。服も血だらけなので、纏めて洗う感じになっていた。
「これ血?」
「多分……」
私が答えると、リリアンナさんは、私が着ている服を摘まんで確認し始めた。そして、難しい表情をする。
「う~ん……完全に染みこんでいるから、服は新しくしないと駄目ね」
「は~い」
身体を洗ってタオルで拭いた後、新しい服に着替えた。すると、レパが私の元にやって来る。さっきまで子供達の準備をさせていたから、私が血だらけになってもこっちに来られなかったらしい。
「ヒナ、大丈夫?」
「大丈夫だよ。首がやられるかと思ったけど、特に痛みもないしね。【痛覚耐性】のせいかもしれないけど」
「そっか。それなら良かった」
レパはそう言って、私を抱きしめる。大分心配してくれたみたい。
(ただ血だらけになっていただけなのだけど……いや、普通に心配するか)
そんな事を思いながら空を見ると、ドラゴンらしき存在は、もう大分移動していた。さすが、空を移動しているだけある。
(怪我は大丈夫なのかな。ちょっと心配かも……)
ちょっとしたトラブルが発生したけど、取り敢えず何も問題がなくて良かった。バルガスさんが言っていたような毒とかもないっぽいしね。【毒耐性】があるから、ある程度は大丈夫だろうけど、強力になればなる程耐性を貫通してくるだろうから、警戒はした方が良い。
問題に関して、強いて言うなら、身体から血の匂いがするようなしないような気がするくらいだ。
「おし! 出発すんぞ!」
ガンクさんの呼び掛けで、私達は再び移動を始める。草原を二時間時間近く歩いていくと、ようやく街道に着く事が出来た。でも、街道に人はいなかった。
「人がいれば、街までどのくらいかも分かったのに」
「そこは仕方ないよ。それより、ヒナは、足大丈夫?」
「え? うん。平気だよ」
私達は裸足で歩いているから、レパは気にしてくれたみたい。
「もし痛くなったら言ってね」
「うん」
正直、坑道でも裸足だったから、そこまで気にしていなかった。足の痛みとかも【痛覚耐性】で耐える事が出来るし、耐久も高いからね。
そういう事もあり、レパのお世話にならずに、そのまま街道を進んでいった。




