大きな赤い雫
森を抜けた私達が見たのは、一面に広がる草原だった。森から離れた草原の真ん中で、私達は休憩をしていた。そこで高身長のガンクさんに肩車をして貰って、先の方を見ていた。
「街道は見えねぇな」
「うん。一面草原だね。奥の方にあるのは森かな。ねぇ、ここがどこだかは分かる?」
「それも分からねぇ。おい! 誰か心当たりある奴はいるか!?」
ガンクさんの確認に、皆が首を横に振る。つまり、私達がいる現在地は誰も分からないという事だ。完全なる迷子である。
「盗賊のアジトだし、街や人里から離れた場所にあるのかな?」
「そこら辺は盗賊によるな。こいつらは用心深いところがあったんだろ。となると、やっぱ街道を探さねぇとな」
街道があれば、街へと繋がっているはずなので、それが見つかれば街道に沿って歩いて行くだけで、確実に街に着く。だから、森を抜けた今は街道を探す方にシフトするという事だろう。でも、それがここに確実にあるとは限らない。
「街道かぁ……草原には必ずある?」
「場所によるな」
「じゃあ、ここからも長いかもかぁ。長めの休憩にする?」
「そうだな。ヒナの嬢ちゃんも休んどけ」
「うん」
ガンクさんの肩から降りた私は、レパの横に座る。すると、レパが私の頭を誘導して、膝枕をしてくれた。草原に寝転がって、レパの膝枕で寝るのは結構気持ちが良い。そのまま寝られそうな気持ちになるけど、その前にステータスの確認をしておく。
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ヒナ Lv4『雷鎚トール』 Lv2→Lv4
職業:採掘者Lv4
MP:22/22 12+10
筋力:122(16)『1000』 82+20+20(【槌術Lv1】)
耐久:79(8)『500』 74+5
敏捷:40『200』 31+9
魔力:21『100』 9+12
器用:44『100』 38+6
運:14(8) 8+6
SP:24 12+12
スキル:【槌術Lv1】
【剛力Lv1】
【採掘Lv5】
【見切りLv1】【気配察知Lv4】
【雷耐性Lv1】【痛覚耐性Lv8】【精神耐性Lv10】
【再生Lv5】
【不死】【女神との謁見】
職業控え欄:旅人Lv1 平民Lv1
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レベルが2も上がったけど、筋力は合計で20しか上がっていない。でも、他のステータスの伸びを見るに、普通に良い伸びではあるのだと思う。ボス盗賊との戦いが大きいと思うけど、確かな事は分からない。
それにSPの利用先もどうするかが悩みどころだ。このステータスの伸びを見るに、SPはかなり重要なものだと分かる。
「レパって、ステータスどうしてる?」
「え? どうしてるって?」
「SPの振り分け先とかが迷っちゃうから」
「あぁ……基本的には溜め込むかも……私も初めてレベルが上がったけど、振り分けたいって思わないから」
正直、私も同感だ。SPがあるから振り分けなければって思うけど、そもそもどこか伸ばしたいステータスがあるかと言われると、現状では何とも言えない。
「そっか。なら、私もそうしようかな。正直、どれに振れば良いか分からないし」
「ちゃんと考えて振り分けた方が良いって教えられるしね」
「そうなんだ」
「うん。取り敢えず、ヒナは少し眠りな。ヒナは重要な戦力なんだから」
「う~ん……そうする」
レパに頭を撫でられながら眼を瞑ると、すぐに意識が飛んだ。色々とあったから、結構疲れていたみたい。まぁ、実際疲れ過ぎて動けなくなったくらいだから、当たり前と言えば当たり前か。
大体四時間くらい寝てしまい、太陽が真上まで上っていた。
「寝過ぎた……」
「いや、そうでもない。子供達にとっても良い昼寝の時間になった。その間に、奥の方で街道も見つけたしな」
私の元に来たバルガスさんがそう言った。いつの間にか先の方を探索してくれたみたいだ。私や子供が爆睡していたから、大人達は大人達で動こうって事になったのかな。
「そうなの?」
「ああ。ただ街までは発見出来なかった。ここから街までは森以上に歩く事になるかもしれん」
どこまで探索していったのか分からないけど、森以上に歩くという事は、それくらいは探索してくれたという事が分かる。私が寝ている間にそこまでしてくれたのは感謝だね。
「それじゃあ……」
そろそろ出発と言おうとした瞬間、空から落ちてきた液体が私に命中する。首が折れるかと思った。
「うぶっ……」
落ちてきた液体は、若干黒い赤色の液体だった。その鉄のような匂いがする。つまり血だ。
「うぇ~……何これ……」
私が空を向くと、そこにはフラフラと空を飛ぶ小さな点が見えた。バルガスさんも見上げていた。
「あれは……ドラゴンか?」
「ドラゴン? ドラゴンって、あんなフラフラと飛ぶの?」
「いや、ヒナの嬢ちゃんに降ってきた血を見るに怪我をしているみたいだ。あの高さなら、こっちには来ないだろう。それよりも身体を洗って貰え。ドラゴンの血は、時々毒が混ざっているからな」
「それ早く言ってよ!! リリアンナさ~ん!!」
私は急いでリリアンナさんのところに行く。リリアンナさんは、全身真っ赤私を見て驚いていた。
「ちょっ!? 何があったの!?」
リリアンナさんはすぐに水を出して、私を洗ってくれる。服も血だらけなので、纏めて洗う感じになっていた。
「これ血?」
「多分……」
私が答えると、リリアンナさんは、私が着ている服を摘まんで確認し始めた。そして、難しい表情をする。
「う~ん……完全に染みこんでいるから、服は新しくしないと駄目ね」
「は~い」
身体を洗って、タオルで拭いた後、新しい服に着替えた。すると、レパが私の元にやって来る。さっきまで子供達の準備をさせていたから、私が血だらけになってもこっちに来られなかったらしい。
「ヒナ、大丈夫?」
「大丈夫だよ。首がやられるかと思ったけど、特に痛みもないしね」
「そっか。それなら良かった」
レパはそう言って、私を抱きしめる。大分心配してくれたみたい。
(ただ血だらけになっていただけなのだけど……いや、普通に心配するか)
そんな事を思いながら空を見ると、ドラゴンらしき存在は、もう大分移動していた。さすが、空を移動しているだけある。
(怪我は大丈夫なのかな。ちょっと心配かも……)
ちょっとしたトラブルが発生したけど、取り敢えず何も問題がなくて良かった。バルガスさんが言っていたような毒とかもなさげだしね。身体から血の匂いがするようなしないような気がする感じだ。
「おし! 出発すんぞ!」
ガンクさんの呼び掛けで、私達は再び移動を始める。草原を一時間近く歩いていくと、ようやく街道に着く事が出来た。でも、街道に人はいなかった。
「人がいれば、街までどのくらいかも分かったのに」
「そこは仕方ないよ。それより、ヒナは、足大丈夫?」
「え? うん。平気だよ」
私達は裸足で歩いているから、レパは気にしてくれたみたい。
「もし痛くなったら言ってね」
「うん」
正直、坑道でも裸足だったから、そこまで気にしていなかった。足の痛みとかも【痛覚耐性】で耐える事が出来るしね。だから、レパのお世話にならずに、そのまま街道を進んでいった。